#2 らせんの向こう、信じた道の先
月のない夜、小貝川のほとり。水は緩やかに流れてただ星明かりを映していた。
「ここからは命の保証はないよ。それでも続ける?」
「僕は防衛局の一員ですから、たとえ試用期間でも。それにここは僕の生まれたところです、育ててくれたところです。守り抜きます」
「わかった、キミの遺志を尊重するよ。でも忠告を三つ」
「はい……」
「一つは目は、いつもそばに寄り添ってくれている仲間をもっと頼ること。圭クンは頑張っちゃう人だから仕方ないんだけど、何しろその人は頼られたがってうずうずしてるんだから。二つ目は、もうちょっと自分も信じてあげること。圭クンが圭クン自身を信用してあげなくちゃ。三つ目は……これはとても厳しいことだけど……。圭クンの順応力と分析力にはあたしもルクフェネも舌を巻いてるよ、驚異的と思えるほどに」
「そんなことは……」
「あるんだよ。だからいったでしょ、自分を信じろって」
「はい……」
「でもね、その力は経験と理論に基づいている。慎重さと思慮深さは圭クンの美徳だけど、それでは乗り越えられない壁は絶対にあるんだ。そして、どんなに辛いことであっても、守りたい大切な命を痛めつけることであっても、その命を救うためには非情な決断をしなくてはならない。五分五分かもしれない。でも迷っていたら間に合わない。成功すると信じられる理由がほんの少しあれ、失敗を上回るなら、それが本当に本当に僅かで見えないほどであっても、選ぶべきだ——」
圭は空を振り仰いで星空を見て、そして頷いた。
「カスミちゃん、あとどれくらいの高さがあったらいい!?」
「この五倍は欲しいです!」
「リバ、これから螺旋階段をつくる。僕の視線は感じられるね? そこには見えないけど絶対に次の段がある。大きさはいまの障壁の三分の一。たぶん攻撃の全部は防げない。それでも耐えて、駆け上がって、僕らを連れていって!
「わかった!」
「きゅうううううううう……」
リバの答えはそれだけ。そして付け加えようとした圭を遮るようにマリモちゃんはもう息を吸い込んでいた。
(まだ角度が大きいから集中砲火を受けてしまう。だから少しでもリバの負担を減らせるように……!)
マリモちゃんは跳び上がって息を撒き散らす。
そして圭は指先でユクルユフェーアを紡いだ。
(揺るぎなく確かな絆!!)
けっして見ることはできない透明な一段目が視線の先に生まれる。リバは迷わず足を踏み出した。
(練習なんて一度もしたことない。だってたったいま思いついたことなのだから……。そしていまの僕では全力で創り出したとしても、リバを守り切れない大きさのものを一度に一つだけ……)
けれどもリバは生み出される階段を駆け上がっていく。
その瞬間、目の前には本当に何もない。そして創り出されたところでそれは見えない。いまある場所は踏み出した瞬間に消えてしまう。でもリバに迷いはない。
光線がいっせいに襲いかかる。床になった障壁が弾いても被弾は免れない。
(リバを信じる。カスミちゃんが小さな体で抱き締めて必死に支えてくれている。マリモちゃんが背中を力強く支えてくれている。絶対に完璧なユクルユフェーアを描きつづける。いまはそれだけを考える!)
一瞬の段にも血溜まりはできる。それはますます大きくなっていく。
それでもリバの足の運びは少しも乱れない。四肢は力強く速度も衰えない。
「数えます!」カスミちゃんが叫ぶ。「三、二、一……」
(揺るぎなく確かな絆、最大を超えて!!)
透明で見えないけれども、確かにそこに創られた〝絆〟にリバは転がり込んだ。
「きゅっきゅっきゅっ!!」
マリモちゃんにカスミちゃんが跳び付き、マリモちゃんは弾んでジャンプする。
その頂点に達するとき、カスミちゃんは両手を夜空に掲げた。
複雑な曲線が組み合わされた武器が実体化する。樹木の枝か、あるいは根が絡み合ったような有機的な造形だ。マリモちゃんは空中でひっくり返る。
「本家れんこん砲!!」
その先端、とある根菜の形をした多砲身の砲口は回転しながら無数の光弾を発射した。数え切れない直線が地面へ向かう。
圭のゴーグルのなかで敵の数が減っていく。計測も表示も間に合わないほどに。
大気が沸騰する。森が白熱する——。




