400ブクマ記念閑話 フィーリ11才・ある日のミョルニー
すみません……まったく更新できておりませんでした……
プロットの弱さ甘さ、行き当たりばったり感に自分でも震える今日この頃
読んでくださる皆様、ブクマ入れてくださる皆様、評価くださる皆様、叱咤激励くださる皆様、本当にありがとうございます
「おんやミョルニーが受付してんのけ? 珍しいこった」
湿潤期に入って少し。温かくなった原生林区には獲物が溢れている。それを目的にした客人達で、今日も「光の洞穴亭」は賑わっていた。
「レオ!? なんだや、久しぶりだなや!」
逗留客の出立を見送ったり清算したりする慌ただしい朝が終わり、一息ついたところだった。
入って来たのは、ドヴェルクの男性。
ベルの音に顔を上げたミョルニーは、笑顔で目をしばたいた。従兄のベックレオの訪問は久方ぶりだ。
「何年ぶりだべな? レオだけでねぐ忙しねって聞いてたけんど」
「んだから。ようやく一段落さついた。ほれこいつ、ミョルニーさ持ってけ、っつってマンナ叔母がら」
分厚い手が差し出した大きな塊は、薄い木の皮で包まれていた。受け取ると、原生林区には生えないヴェルルカナーの木の懐かしい香りがふわんと漂う。中身はおそらく母の味。
ミョルニーは相好を崩し、礼を言った。
「お茶にすっぺ」
食堂のテーブルに陣取りジャジャ茶を飲みながら、ミョルニーは故郷の話に耳を傾ける。
あの岩壁の村に帰りたくないわけではないが、ここ十年ほど、なんだかんだで帰っていない。フィーリを拾ったからとか、宿を空けられないからだとか、表面的な理由もそれなりにある。けれど、「帰りたい」と思えるほどの魅力があの村にないのが、正直かつ最大の理由だった。
「んで、やっとこさ納品したとこだぁ」
「そいつは大変だったなや。んだどもパージャのおんちゃんは張り切ったべ?」
「んだから余計大変だったんださ。村長ばっかし張り切ってよぉ、あっちゃこっちゃ回っちゃぁ『もっと大事に作れ』だの『真剣味が足んね』だのっつって、しまいにゃ『村の名に泥塗る気が?』とが言ってんだん。元々泥だらけの村だろ、っつのぅなぁ」
約二年前、「魔王領屈指のお偉いさん」から大量注文が故郷の村に舞い込んだのだそうだ。ドヴェルクの器用さを見込んだと言われても、普通では考えられないほどの仕事量と、莫大な利益。当然ながら、寒村はてんやわんやの大騒動に陥った。
それは、遠く離れたミョルニーの耳にも微かに聞こえてくるほどで。
ベックレオが言うには、村長のパージャランドが目の色を変えたのは想定内かつ想定以上。とはいえ、元々、断れる仕事ではない。申し訳なさそうな顔で話を持って来た商人は、村の恩人だったのだから。
粛々と完遂するべく、村の男衆は話し合い、「普段通りの鍛冶仕事をする班」とベックレオ達「お偉いさんからの注文に専従する班」に分かれると決めた。
少しでも能率をあげなければ、新規顧客の高評価はもちろん、常連客の満足も得られない。それはドヴェルクの誇りにかけて、許されないことだった。
「ったく。今だから、一生分働いた気ぃするっつって笑えっけどよぉ」
どうやら「お偉いさん」という人種は、数年単位で物事を考えるものらしい。後になってわかったとベックレオは苦笑する。
高位の魔人ほど長寿だから、時間の流れが違うのだろう。新妻のための新居一式という注文のわりに、求める量と品質が異様に高い理由がわかった。ベッドの足を作るのに一期がかりだ。有り得ない。
寝る間もなかった、と顔をしかめるベックレオに、ミョルニーは咄嗟にかける言葉がなかった。
村を離れて久しいけれど、そのとてつもない大変さは想像できる。いや、大変なんてものじゃない。
利益が出りゃイイってもんじゃねぇのにな。
挙げ句、女衆まで織物や縫い物の納品のために駆り出され、ミョルニーの母も村内で嫁いだ姉も、織物班としてかつてない大金を稼いだらしい。もちろん、付随する負担は言うまでもない。
「大丈夫なんだべか…………」
「マンナ叔母もシュカジーも臨時収入さ使ってルシオラんとこからどっさり菓子買ってたっけよ。そのせいでパルラが太っちまってなぁ」
思わずミョルニーの口から零れた不安は、一笑に付された。どうやら母と姉には、姉の子を甘やかす余裕があるようだ。頑健なのは一族の血なのかもしれない。ベックレオも言葉のわりに、活き活きとしている。「こうして出歩く余裕が出来たのもつい最近のこと」と言うわりには、血色もイイ。
「んで、嬢ちゃんはどこさ行ったのっしゃ?」
ジャジャ茶のお代わりを入れ、そういえばと貯蔵庫からお茶請けにクッキーを並べた。キキンの実を練り込んだ黄色いクッキーだ。
レオはそれをサクサクと頬張ると、ふと思い出したように辺りをキョロキョロと見回した。余所にはないクッキーは、レオの中でフィーリの代名詞になっているのかもしれない。
「ちょっとな、王都さ行ってる」
「王都!? どんだけかかっかわかんねぇべ!?」
日数も費用も。レオの驚きは一般的なものだ。だからミョルニーは
「常連さんさ連れてってもらった」
当たり障りのない部分だけ口にする。
フィーリが拠点を移して、すでに三度目の湿潤期。温泉好きのフィーリは貯蔵庫を通って毎晩のように帰ってくる。こちらから行くことだってしょっちゅうだ。だから、心配はまったくしていない。
何せ、フィーリにはガヴさんがついてっからな。彼が何者なのかは興味がないから知らないが、フィーリを大切にしてくれることだけは間違いない。親代わりのミョルニーより過保護なくらいだ。
「んだらまぁ……宿の方は大丈夫け? 昔とは違うんだべ?」
食事のつかない昔の「光の洞穴亭」を知るレオだからこその心配を、ミョルニーはカラカラと笑い飛ばす。
「たんまり作り置きさあっから。そのクッキーだって、んだよ」
ミョルニーとルフ、2人の宿屋運営も既に慣れたもの。今は狩猟に出掛けているルフも、仕留めた獲物を持って帰ってきたあとは、四つ足で器用に仕事をこなす。
フィーリが王都に連れて行かれたとブチブチ言うのもご愛嬌。今や、看板娘ならぬ看板狼だ。
しかし、フィーリの部屋はガランとした物置になってしまった。それが少し、寂しくて切ない。もちろん、ルフと違って表には出さないが。
「んじゃま、イイんでねぇの? 若いうちにあれこれやんのは大事だかんな。ルシオラのヤツがよ、うちの村さ来ったび『ミョルニーさんの宿大繁盛すよ! 繁殖し過ぎて大変みたいすから、手伝いに行ってあげて欲しいっす!』とかほざくからよぉ」
フィーリが王都で始めた事業は、実質、無職のヒト達への生活支援。その流れか、生活の糧を狙って原生林区を訪れるヒトが随分増えた。
ヨソ様から聞くフィーリの姿は一端の慈善事業家……というより、昔話の聖女様のようでびっくりする。彼らの態度の端々からフィーリへの感謝や尊敬、思慕が感じられるのだ。
ミョルニーの知る姿とはあまりにも違って笑ってしまうけれど、フィーリが王都で頑張っているのは確かだろう。元気にやりたいことができているのだから、ミョルニーとしては十分だ。
あの子は、一生懸命なだけの、普通の子だから。
「んだな。……人間の寿命の短さばっかしはどうもしてやれねぇからな……。後悔しねぇように発破かけてやんねぇと」
「百年も生きねぇからなぁ……」
魔喫と言うらしいフィーリの特異体質。解明されていないことが多いというが、寿命を魔族並みに伸ばすものではないだろう。だってミョルニー達は、100年生きた人間を知らない。
「……さてと! レオ、泊まってくべ? せっかくだん、土産さこさえっか」
重くなった空気が居心地悪くて、ミョルニーはことさら明るく立ち上がった。
「……ミョルニーが作んのけ? 嬢ちゃんの作ったの、あるんだべ?」
「たまにはえでねの。フィーリの料理、これでもいくつか覚えてんだかんな」
「ほっ、そいつぁすげぇ」
クッキー、パウンドケーキ、それからドーナツ、その辺りを持たせよう。せっかく作り方を覚えたのだから作ってみたい。同族なら……レオや母達なら、食べて素直な感想をくれるだろうし。
フィーリと違って、こっちゃなかなか成長も上達もしないんだどもな。
だからって、何もしないでいるつもりはない。
娘さ顔向けできる親でいねぇと。
なお、いただいておりました誤字脱字につきまして、訂正を適用致しました
ありがとうございます
クリスマスを前にして、我が家ではインフルエンザAが猛威をふるっております
ストーブ壊れてエアコンと床暖で対処……乾燥しまくっちゃったから……
皆様もお気をつけください!!




