フィーリ、スラムがあると知る 前
微妙に長くなったので前後にします<(_ _)>
「…………? ねぇ、なんでこの街は壁に囲まれてるんだい?」
遠くに、王都にはない石造りの壁と門を見つけ、アタシは兄さんを振り返った。
「魔物対策だ」
「だったら王都にも必要だろう?」
「いや。王都には強大な魔力を持つ者が多くいるからな」
王城の周りに住む、あんちゃんみたいな偉いヒトは、魔力が多くて強い。確かにそう聞いたことはあるけれど、平和な時代だし、魔物討伐してるところだってそうそう見たことないから、アタシには強いとか弱いとか、実感がない。
原生林区にいる時だって、狩りは見るからに狩猟に適したルフの仕事だったからね。あんちゃんは主に、宿の改装に力を貸してくれてた。だから、あんちゃんや兄さんの魔力が規格外レベルなんだろうと薄々気付いているものの、それが強さや魔物対策と結びつかない。
アタシが理解していないのを察したのだろう。兄さんは呆れたような溜め息のあと、仕方なさそうに言葉を足した。
「魔物は明らかに自分より魔力の多い者にはまず近づかない」
「へー!」
つまり、強い魔力を持つヒトの集まる王都には魔物が近寄らないから壁は不要で、イムラみたいな地方都市はそこそこの、さらに小さな町や村は必ず、外壁が必要になるということか。ま、例外はあるだろうけど。
「…………あれは?」
アタシの視力だとはっきりは見えないが、ふと、壁のすぐ内側にあるくすんだ地域が気になった。なぜか、あそこだけ並ぶ建物が高いように見える。
「あの、壁に近いとこさ、四階建てはありそうだね。しかもイチ、ニィ……5棟、か……? 宿舎か何かなのかねぇ?」
「……あぁ、あれは救民住居だ」
「キュー……???」
「主にあちこちの村落から出奔してきた者の住処だな。仕事のない者達が犯罪を起こさないよう、あの場所を一次的な住まいとしてごく安価で貸している」
家出や、一発逆転の夢を持って都会に出てきても、普通はまずは住むところも仕事もない。それが都市の治安の悪化に繋がる。だから、一定以上の大きさの街には一時避難所のような宿泊施設があるらしい。他にも事業に失敗して文無しになった者や、親の負債を背負った子ども、不遇な一家。あの長四角の建物は、そういった経済的最下層のヒト達をギリギリ救い上げるための、集合住宅なのだそうだ。
「へー。住んでるヒトって結構いるのかい?」
「そうだな。……確かイムラは街の正規住人と同数近くがいるはずだ」
「そんなに!? …………え、それって、王都には……?」
「王都に救民住居はない。外郭がなければ、街は横に広がって行くものだ」
めちゃくちゃ狭いワンルームのアパートみたいな救民住居を量産しなくても、壁のない王都なら、街は果てしなく膨張できる。端に行くほど貧しくなっていくが、行政側は救民住居代わりの「救民地」として土地の不法占拠を黙認しているらしい。
兄さんの話では救民地には商店街やドヤ街のようなものもあり、王都の経済的弱者達は救民地に流れて行くのだそうだ。救民住居と違って退去期限のない救民地は、そこだけで一つの生活圏を成している。いうならば救民街。
「じゃあさもしかして、救民住居の最大入居期限? だっけ? までに仕事とか見つからなきゃ……」
「そうだ。地方に帰るか救民地に移る」
魔族は寿命が長いから、仕事を求めてもなかなか空きが出ない。ベテランがベテランのまま現役であり続けるのだ。それでも、若者はどうしたって夢を見るし、社会の変容は諸々起こる。
王都の救民地は救民住居の代替でもあり、魔王国唯一の、野心溢れる新興住居区でもあるらしい。
ギラギラした危険区画? と思って訊いてみれば、兄さんは淡々とした調子のまま「別に」とつぶやいた。詳しい説明をせがむと、軽い溜め息とともに教えてくれる。
「ほー……?」
アタシの拙い理解力を総動員して理解できたこと。どうやら、行政側は救民地の住人に「五人組」に近い制度を義務付けている……っぽい。とはいえ本物の五人組と違って罰則規定は厳しくないし、聞いた感じは町内会の互助制度の濃厚なヤツ。たぶん、時代劇で見た長屋の暮らしとかのイメージが近いんじゃないかな。
さらに、一般住居と救民地の間には治安部隊の詰め所があり……というか、街の外側に作った治安部隊の詰め所から更に外に広がって行く街が、救民地にあたる……巡視も一般居住区同様に行われているということだった。
正直、アタシの周りはミーチャみたいな個人事情を除けば平和だから、スラムがあると知って衝撃だった。けど、ヒトが集まれば格差が生まれるのは当然のこと。そう思えば……意外としっかりしてるのかもね、魔王国。
すみません、後編は明日になります(><;)




