フィーリ、腹を立てる
すみません、昨日更新予約入れたつもりが……(@_@)
ジブリールさんの話をまとめると、実に胸くそ悪い事態だった。
言葉は悪いけどね。他に言いようがないんだよ。まったく、なんだって世の中、ろくでもない大人ばっかりなのかねぇ。
ミーチャとジブリールさんのお父さん、ハヤマキ・ドゥーハット・ウヨギブは入り婿で、先代の家長はジブリールさんのお祖父さんだったのだそうだ。
なのに、先代夫婦亡き後、入り婿であったにも関わらずハヤマキは愛人宅に入り浸るようになり、妻子を省みなくなっていった。家長の座は先代の娘でありジブリールさんの実母であるシラフィー・ウヨギブが継いだが、慣れない公務と夫の素行不良のせいで、元来体の強くない彼女は倒れてしまう。
しかし、元凶であるハヤマキは、完璧な外面で本性を隠し、対外的には悲劇の夫を演じ続けた。一族には「シラフィーが深刻な感染病で倒れた」と悲痛な表情で話し面会を禁じるとともに、献身的な夫として家長代理を買って出たのだ。
失意と孤独の中で没したシラフィーから家長の地位を奪い取ったハヤマキは、まず、正式な跡取りである長女ジブリールを自分の配下の元へ嫁がせた。生来大人しい質だった彼女は、ハヤマキの「成人間際の娘に家長の責務は辛い。自分が支えて行くつもりだが……おまえの性格ではいずれ母のように心身を病んでしまうだろう。苦肉の策だが……他家に嫁げば家長の重責から逃れられる」という言葉に縋ったのだ。
そしてハヤマキは、家に長年の愛人であったミーチャの母を迎え入れた。
後は推して図るべし。さすが化け狸、老獪だ。ハヤマキ・ザ・化け狸。
はぁぁぁぁ。
そこまで聞いて、アタシはかなりムカムカしていた。まったくなんなんだその狸オヤジ。ミーチャの親とはいえ、許し難い。生きてたらチョップだね、脳天に。結婚詐欺師より質が悪い。
どんな理由があったって、妻という立場のヒトをなおざりにしてイイわけがないし、自分のために周りを騙してイイわけもない。身勝手にも程がある。異世界? だからなんだってんだ。倫理感は忘れるべきじゃないと思うね。少なくともこの国は格差社会とはいえ、平和で、そこそこ発展してんだからさ。道徳観念だって近代化して然るべきだ。
「ふむ。だが、それでは指輪を無くした説明にはならぬな。ハヤマキが持っていたのであろう? 正直に全て申せ」
バラクさんに促され、ビクゥッ! と痙攣のような激しい震え方をしたジブリールさんが、目をフラフラとさまよわせ……
「あの……わたくしの……あの…………これ以上は」
「そなたから聞いたとは言わぬ。まぁ、すぐに知れるだろうが、我が主に進言しておこう」
「ですが…………」
「そなたの子にとって悪いようにはせぬ」
「………………よろしく、お願い致します……」
強面赤鬼から発される圧力に、ついに折れた。
身の安全を求める彼女が語るのは、アタシの感覚で言うところの犯罪計画。ジブリールさんの母親のみならず祖父母も、ハヤマキに殺されたようなものだった。
ジブリールさんの夫、カディント・サウザナールは元々ハヤマキの遊び仲間だったらしい。一見誠実そうで有能なハヤマキとカディントは、裏では救いようのない遊び人。顔と外面のイイ兄貴分のハヤマキは、カディントのような舎弟を何人か飼っていた。
ジブリールさんの夫役としてカディントが抜擢されたのは、彼が舎弟の中では若い方で、かつ、実家がそれなりに裕福だったから。ハヤマキが化け狸族の有力筋であるウヨギブ家の家長の地位を狙う計画を立てた時から、協力者として暗躍していた。
「その、ぐ……具体的には……」
ミーチャの様子を時折ちらちらと窺い、常に小刻みに震えながら、ジブリールさんは囁くような声で、途切れ途切れに話し続ける。
彼女にとっては思い出したくもなく、けれど忘れられないことなのだろう。ジブリールさんを無力な小心者と思っているからこそ、酔った勢いで英雄譚のように語って聞かせたカディント。……バカじゃなかろか。真実ってのは時に暴力になる。
アタシはバラクさんに断りを入れると、ミーチャを連れて席を立った。こんな話、まだ幼いミーチャには聞かせられない。嵌められたジブリールさんは気の毒だし、ハヤマキにはムカつくが、ミーチャに落ち度はないのだから。
現状跡継ぎである以上、いずれは知ることになる真実。でも、それは今じゃない。




