フィーリ、ミーチャの家に行く②
更新、遅い時間になってしまって、すません;
「これで良いな」
応接セットのソファーに浅く腰掛けたバラクさんが、署名済みの書類を確かめて頷いた。
「これにて、ミッチェル・ウヨギブは正式にジークマグナス・フィケイトランド様の保護下に入り、その身の安全等諸々はガンドルヴ・ミラエティア様に一任されることとなる」
「……よろしくお願い致します……」
一人掛けのソファーで無理やりアタシにひっついて、ずっと落ち着きなくあたりをキョロキョロと見回しているミーチャは、なぜだろう、異母姉が声を発する度に小さく唸る。
「大丈夫だよ。これでミーチャはアタシと一緒だからね」
背中をポンポンと叩いて宥め、アタシは胸中に湧いた「あんちゃん……ご大層な名前だったんだねぇ」という感想にとりあえずの蓋をする。
なんだってミーチャはここまで異母姉を警戒するのか。考えても、あまり良くない想像しかできない。アタシは、ウチにいる時とあまりにも様子の違うミーチャに胸が締め付けられるような思いだった。今のアタシより年上とはいえ、まだまだ幼いミーチャ。なのに、最大級の警戒を感じる。
異母姉はひたすらに従順で、大人しいヒトに見えた。化け狸族の特性を考えれば、それは彼女が周りから望まれ続けた姿なのだろう。彼女は彼女で、幸薄いヒトなのかもしれない。
……でも、だからってミーチャを放置したのを許すつもりはないんだけどね。
向かい側から時折怪訝な視線をアタシに寄越すジブリールさん。その度にギッと睨むミーチャには悪いが、まぁそれは当然のことだろうと思う。ミーチャよりも小さい人間の娘が、高位魔族の遣いである屈強な鬼人共々同行しているんだからね。
それだけでも充分奇異なのに、その上、明らかに年上のミーチャが雛鳥みたいにアタシの後ろについて歩いているのだから、それはもう、彼女の理解の範疇を超えたとしても仕方ない。成長ってさ、「形を定める」って一面があるからね。どうしても柔軟性とか余地とかが減ってくんだよ。見た目は子ども、頭脳は……って状況だとソレがしみじみよくわかる。
「それで、家長の指輪なのだが……」
「……申し訳ございませんっ!!」
バラクさんが話を次に移そうとすると、突然、ジブリールさんが座っていたイスから立ち上がり、腰を90度に折った。アタシも何回かしたことがある、本気の謝罪。首を相手に差し出し命運を託す、命がけの謝罪だ。
「説明せよ」
唐突な行動にポカンとしてしまったアタシは、バラクさんの言葉に我に返った。厳ついバラクさんに睨まれているせいもあってか、ジブリールさんは気の毒なくらいガタガタと震えている。
「……ち、父が、亡くなった折……紛失致しました……!」
絞り出された言葉に、アタシは言葉を失い、バラクさんは眉間の皺を深くした。
「有り得ぬ。家長の指輪は魔術具だ。当主が没せば台座に戻る。無くしようがなかろう」
「そ……それが……あの……」
「戸籍を調べれば、今現在指輪を所持している者の名前は明らかになる。余計な庇い立て、虚偽の申告は罪になると心得よ」
「戸籍を!? あ……あの……」
驚きについ上げてしまったらしい顔は、ただでさえ青ざめていたのに、もはや色がない。明らかに、後ろめたいことがあるヒトの反応だった。
どういった形で戸籍が管理されているのかアタシは詳細を知らないが、どうやら指輪を持つ一族の代表者の名は、家長として自動で戸籍台帳に載るらしい。ジブリールさんの驚きは、アタシ同様それを知らなかったためか、はたまた、あんちゃんや兄さんが戸籍を調べられる地位にあるヒトだと知らなかったためか……。
「申し開きはないのだな?」
「ぁ…………あの……っ」
ミーチャが警戒しまくっているわりに、異母姉、小者だ。やっぱり、彼女を薄幸たらしめる黒幕は別にいる。
はぁ。アタシは小さく息を吐いた。助言するまでもなく、彼女は簡単に落ちるだろう。
「ならば、戸籍を確認して参ろう。この件につき、偽証は労働奉仕三年と知れ」
「……あの……あのっ! ……実は…………っ」
案の定、ガクガクと震える彼女は、言葉を振り絞るように訥々《とつとつ》と、事のあらましを話し始めた。
許し難い、数多の暴挙をーーー。




