フィーリと蜥蜴娘
「おぉいしぃですぅ」
「そりゃ良かった。でもあんた……毒味なんて買って出てさ、万が一のことがあったら今後の食事、どうするつもりだったんだい?」
朝ご飯をいただいてから仕込みを始め、ようやくできた昼食。せっかくの大豪邸だけど、アタシはまだ、厨房の他は食料庫とトイレしか見ていない。
おトイレ、なぜか足湯があったよ。お偉いさんの考えることはわかんないね。
「えー? 心配してくれてるんですかぁ?」
広い白亜のキッチンで大鍋から取り分けたあれこれを嬉々として毒味したのは、アッフェタルトさん。料理長そのヒトだった。
毒味なんて御大層な手順が必要なお偉いさん、ガンドルヴ様とやらには、まだその影にすら会えていない。
だから、ルフが「いけ好かない匂いがする……」と鼻筋にシワを寄せなければ、アタシは回れ右して原生林区に帰っていたことだろう。誰よりも鼻の良いルフが慣れた匂いを嗅ぎ分けたからこそ、アタシは、ガヴのあんちゃんとガンドルヴ様とやらが同一人物なのだと、理解できた。
あ、ちなみにルフはアッフェタルトさんの用意してくれた朝食は食べれなかった。魔力問題はホント厄介。仕方ないから、アタシの手提げに入れてたクッキーで急場を凌ぎ、今はようやく、一足お先の昼食タイムだ。
「大丈夫ですよぅ。リザードマンは腐っても龍族の縁戚ですからね。大抵の毒なんか平気ですぅ」
「……毒味に向いてないだろ、ソレ」
「え? うふふ、やだー、そうかもぉ!」
大丈夫なのか、この子。
面倒くさくて天然で、つい心配になる女の子……といえばついこの間までバールさんのことだったけど、アッフェタルトさんもなかなかヤバい。
だってアタシ、爬虫類の顔の表情なんてまったくちっとも読めないよ!?
コレ、本気なのかね? 冗談なのかね……?
「でもぉ、もし毒とか入れてもぉ、効くのはフィーリちゃんとワンちゃんだけかもぉ?」
「狼だもん!」
「……いや、人狼だろ。てかさぁ、じゃあ、あんちゃんはいっつも冷めた、毒入り料理を食べてたってわけ?」
「やぁだぁ、わたし毒なんて入れませんよぉ? ま、毒を持つ生き物もいるので、食べちゃってる可能性はありますけどぉ」
「……怖いから」
亜種とはいえ、龍人ではないから、アッフェタルトさんの手料理をあんちゃんに即時提供するわけにはいかないらしい。魔力が薄れ、害がなくなってから出すと、必然的にどの料理も冷たく硬くなってしまう。多種族に比べれば魔力が近くてマシ、という理由でリザードマンの村からアッフェタルトさんが出稼ぎに来ているけれど、どうも、アタシの思う専属料理人とアッフェタルトさんの立場は、かなり違うようだ。
「こんな美味しいホカホカお料理が食べれるんなら、ご主人様が帰って来ないのも納得ですよぉ。これから毎食食べれるんですよねぇ? わたし、このお屋敷に来て本気で良かったかもぉっ」
ツルンとした見た目で鱗肌だからわかりにくいけれど、アッフェタルトさんはギャル系だ。ノリが軽くて無駄に人懐っこい。
しかも、アタシの時代のギャルみたいに怖い感じじゃなく、なんというかライトな今時のポジティブギャル。キャピキャピしてる。……コギャルとか、ヤンキー感があって同級生でもなんとなく近寄り難かったね。
「えぇ? ト・カ・ゲはお払い箱だよ。料理作らない料理長って意味ないでしょ。お払い箱!」
犬扱いされた腹いせか、ルフがやけに「トカゲ」を強調してふふんと笑った。けど、
「料理長だからこそフィーリちゃんのお料理覚えなきゃなんないんじゃーんっ! ワンちゃん、おバカぁ? かわいそー!」
ギャル子さんのポジティブさの方が一枚上手。ぐるると得意の威嚇をするも、笑って流されてしまった。
「ハァ。……んで? 毒味の結果は? バラクさんの計画、実行してイイのかい?」
「え? あ、もちろんですよぉ! がっつりよろしくお願いしまっすぅ」
仕事仕事でぐったりしたあんちゃんにランチを届ける。それも、ここのメイドさんの格好した、ドッキリ作戦。それがバラクさんの考えた、「ガンドルヴ様サプライズプレゼント計画」だ。
なんでアタシがメイド服なんぞ着るのか謎だが、まぁ、それで喜んでもらえるなら別にイイ。7歳の可愛らしい少女が着る分には、見た目に問題ないからね。
「んじゃ、あんちゃんの専用の食器、どこにあるか教えとくれ」
「はぁい。あ、今日、お客様来てるのでそちらの分もお願いしまぁす」
「…………」
まぁイイんだけどさ……?
お客の前でサプライズなんぞしちゃって、大丈夫かね……?
三連休ですね
明日明後日は大きな用事も仕事もないので、ようやく、書きためられそうです!




