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第42話 女神様たちは巨兵大戦に勝利する

 巨兵大戦は十二柱神たちの勝利に終わった。


 まずディシウス神の放つ雷霆(ケラウノス)によって巨兵たちの過半数が吹き飛んだ。

 そしてナパト神の三叉槍(トリアイナ)によって次々と串刺しにされた。

 そしてアルティシーナ神とマレアス神は己の武装を使い、巨兵たちを切り裂き……時には山脈や島を投げつけて、巨兵たちを拘束した。


 大きな怪我を負い、動けなくなった巨兵たちに対し……

 レオニダスは次々と止めを刺した。


 人間であるレオニダスの攻撃を再生することはできない。

 結果、巨兵たちはあっという間に数を減らし…… 

 その全てが神界で屍を晒した。


 斯くして巨兵大戦の勝利により、ディシウス神によるこの世界の支配体制はまた一つ、盤石なものとなったのである。


 そして……


 「むむむむ……」

 「レオニダスの巨兵大戦での活躍は明らかです」

 「そして、これがアレクサンドラを生き返らせてほしいと主張する神々の署名だ」


 アルティシーナ神と共に、ポーロワ神は署名をハウリス神に提出する。

 そこにはユーラ神を除く、ほぼ全ての神々の名前が記入されていた。


 ハウリス神はため息をついた。


 「分かった、良いだろう」

 「よし……そういうわけだから、アレクサンドラ。現世に帰ろう」

 「つ、ついに生き返ることができるんだね!!」


 アレクサンドラは大喜びした。

 どういうわけか、しばらく見ない間にアレクサンドラはやつれているように見える。


 「……アレクサンドラ、なんか疲れてる」

 「それはもう……聞いてよ、ティシアちゃん。ハウリス神が本当に酷くて……」


 アレクサンドラはハウリス神にどれだけたくさんの仕事をやらされたのかをアルティシーナ神に訴えた。

 もう死んでいるから、過労死することはない。

 という酷い理由から、アレクサンドラは二十四時間三百六十五日三年間、永遠に休みなしで働かされたのだ。


 「少しでも文句を言うと、円環に返すぞって……脅すの」

 「……伯父様。見損ないました」

 「ワシはいつも、その仕事を一人でやっとるんだぞ! 見損なう前にワシを手伝え!」


 これにはアルティシーナ神は答えず、肩を竦めただけだった。

 汗水垂らして働くなど、ごめんだ。


 「さあ、アレクサンドラ。こんな陰気な場所から、早く現世に戻ろう!」

 「はい、ポーロワ様!」

 「……陰気な場所に、ワシは年中仕事をさせられているのだが」


 ハウリス神は酷く不満そうだが……

 しかしアレクサンドラを生き返らせると言った以上は、その約束を反故にできない。


 だが何もしないのも嫌だったのか、悔し紛れにこんなことを言った。


 「……最後に柘榴でも食べていかないか?」

 「絶対に嫌です」


 アレクサンドラは首を横に振った。


 「……いいか。川を渡り切るまでに、絶対に振り返ってはならんぞ。振り返ったら、生き返りは無しだからな」

 「だってさ、アレクサンドラ。絶対に振り返っちゃダメですよ?」

 「なんなら、俺がお前の首を固定しながら歩くよ」

 

 ポーロワ神はアレクサンドラの背後に回り、その頬を後ろから掴み、絶対に振り返れないようにする。

 そんな万全な構えを見たハウリス神はため息をついた。


 「……もう、早く行け」

 「さようなら、アレクサンドラ! 今度、現世で会いましょう!!」


 意気消沈しているハウリス神の横で、リセフィア神は笑顔でアレクサンドラに手を振る。

 リセフィア神は一年の三分の二は現世に戻れるので、割と気楽なのだ。


 そんな二柱の対照的な見送りを受けて……

 三者は冥界の入り口である、門の前に立った。


 「そう言えば……ケロべロスは大丈夫かな?」


 ケロべロスは冥界から逃げようとする死者を負う番犬である。

 アレクサンドラを追ってくる可能性がある。


 しかしアルティシーナ神は首を横に振った。


 「安心して。もうすでにレオニダスが生け捕りにしてしまいましたから」

 「……それはどういうこと? ティシアちゃん」

 「詳しい話は現世でしよう」


 ポーロワ神はそう言ってから、扉を開いた。

 そして川まで歩いていき……船頭の船に乗り込む。


 「お久しぶりです」

 「まさか、あんたを二度も運ぶことになるとは思わなかったよ」


 船頭は苦笑いを浮かべた。

 ゆっくりと、船が川を進む。


 半ばほどまで、進んだ、その時だった。


 「アレクサンドラ!! 助けて!!」


 アレクサンドラの耳に亡き母の声がした。

 咄嗟にアレクサンドラは振り向きかけるが……ポーロワ神がその頭を前に固定していたため、振り向かずに済んだ。


 「どうした、アレクサンドラ」

 「今、母の声がしたんです」

 「おそらく、ハウリス神の策略でしょう。……あなたの母親はもう、十数年前に円環に帰ってますよ」

 

 アルティシーナ神の説明に、アレクサンドラはホッと一息する。

 しかし……それでも母親そっくりの悲鳴が後ろから聞こえるのは、どうしても気になる。


 「アレクサンドラ!! お願い、冥界に戻って! そうしないと……」

 「ちょっと、あなた! いくらなんでも、それは卑怯じゃない!」

 「い、いや……こうでもしないとあいつ、振り返らないし……」


 背後から夫婦喧嘩の声が聞こえた。

 アレクサンドラは思わず苦笑いを浮かべた。


 そして……川を渡り切る。


 「……もう、振り返って良いんですよね?」

 「問題ないぞ」


 ポーロワ神は手を離した、

 アレクサンドラは後ろを振り返り、大きな声で叫んだ。


 「お世話になりました!! 私、現世で幸せになりますね!!」

 「二度と帰ってくるな!!!」

 「また、会いましょう!!!」


 すると全く異なる二つの声が返ってきた。

 アルティシーナ神は尋ねる。


 「いつの間にリセフィア神と仲良くなったのですか?」

 「まあ、女の子同士、いろいろ話が合ったのよ」


 冥界にはアレクサンドラを除くと、リセフィア神しか女子がいない。

 そして逆もまた然り、

 仲良くなるのは当然と言える。


 「結婚式は、リセフィア神が現世にいる時に挙げようか」

 「……はい」


 ポーロワ神の言葉に、アレクサンドラは頬を少し赤く染めて言った。

 

 「……」


 アルティシーナ神はそんな二人を複雑そうな様子で見つめていた。






 「アレクサンドラ!!」

 「レオニダス!!」


 アルティシーナ王国で再開した二人は、互いに抱きしめ合った。

 そして号泣する。


 そんな二人の様子を、リコリスとアルティシーナ神、ポーロワ神は穏やかな表情で見守る。


 「……聞いたよ。私のために、頑張ってくれたんでしょ?」

 「いや……途中まで、俺はお前のことを、忘れていた。復讐にばかり囚われていたんだ。……お前とこうして会えるのは、アルティシーナのおかげだ」

 「それでも……レオニダス、あなたが頑張ってくれたおかげなのは事実だよ!」


 そして二人は笑いあった。


 「そう言えば……アレクサンドラ」

 「何?」

 「……正真正銘、今は俺が兄貴だな」


 アレクサンドラは冥界にいる間……成長していなかった。

 つまり十五歳である。

 一方レオニダスは十八歳となっている。


 つまり肉体的にはレオニダスの方が年上だ。


 「……大事なのは精神の成長でしょ」

 「それなら、ますます俺の方が年上だ。ずっと、現世で試練をやってたんだからな」

 「私だって! 冥界で仕事をしてた!!」


 互いにどちらが姉か兄かを言い争う二人。


 「それに! 私は結婚するから。ポーロワ神とね! あなたよりも先に家庭を持つの。分かった?だから私の方が年上!」

 「俺だって結婚するぞ! 俺が兄貴だ!」

 「え! き、聞いてないわよ! ど、どこの馬の骨よ」

 「わ、私です……」


 リコリスは小さな声で言った。

 アレクサンドラは目を丸くした。


 「い、いつの間にそこまで仲良くなったの? ちょっと、話を聞かせなさい!!」

 「い、いや……仲良くなったっていうか、その……」

 「ティシアの後押しがあって……」

 「ティシアちゃん! 事情を説明して!!」


 そんな三人を見て、ティシアの姿になったアルティシーナ神はやれやれと肩を竦めた。


 「はいはい……まあ積もる話もあるし……私のバイト先の喫茶店にでも行く?」

 「……まだ働いてるの? 女神様なのに?」

 「女神様が借金を踏み倒すわけにはいかないでしょ」


 ティシアは肩を竦めた。


 

 

次回で最終話の予定です

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