第43話 終わりの始まり
「久しぶりだね、レオニダス。……百年ぶりくらい? さすがにお爺ちゃんになっちゃったね」
「ティシアは……変わらないな」
巨兵大戦より百年後。
ティシアはレオニダスのもとを再び訪ねた。
レオニダスは今や、アルティシーナ王国の国王だ。
「知っての通り、アレクサンドラは死んだよ」
「……ああ」
「まあ、あの子の神格の方は生きてるけどね。もう立派な神様だよ」
半神は死後、人間としての肉の体は消滅するが……
神としての性質が神格を帯びて、神になることがある。
アレクサンドラは一度死に、その後生き返ったことで、「死後に生き返る」という神話的伝説を生み出した。
結果、その神話によって神になることができたのだ。
「……それは俺の知ってる、アレクサンドラなのか?」
「さあ? 私にはわかりかねるね。私はずっと神様だし。アレクサンドラは、私は私だ、って言ってるけどさ」
それからティシアは尋ねる。
「レオニダス。あなたもきっと、死後神になる」
「……そうだな」
「レオニダスはさ、死んだ後に神になった自分と、人間として死んだ自分。どちらの方が本物の自分だと思いたい?」
レオニダスは少し考えてから答えた。
「人間として、死んだ自分かな?」
「へぇ、理由は?」
「……リコリスと同じところに行きたい」
リコリスは死んだ。
人である彼女は寿命には抗えず、九十歳でこの世を去った。
……まあ九十年も生きられた段階で人間としては長寿だ。
むしろこれは悲しむよりは、喜ぶべきだろう。
「今更、愛妻ぶっても無駄だよ? あなた、側室作ったでしょ? しかもマレアス神の娘! やっぱり、あなたはディシウス神の息子だね。私は心底、飽きれたよ」
「あ、あれは……し、仕方がないだろう。押しかけてきたんだよ……」
ティシアが――アルティシーナ――が課した試練の一つに、マレアス神の帯を手に入れろ、というものがあった。
その帯を持っていたのが、マレアス神の娘である。
マレアス神の娘が「帯が欲しかったら、私と子作りをして子供を作れ」と言ってきたため、レオニダスは致し方がなく、行為に及んだのだ。
そして彼女は試練が終わった後に、アルティシーナ王国にまで赤子を連れてやってきてしまったのだ。
まあその際にリコリスと正妻争いをしたのだが……
一応、結婚したのはリコリスが先ということで、正妻に収まったのはリコリスだった。
「……そうだ。それで思い出した」
「どうしたの?」
「実はあなたに、アルティシーナ神に頼みたいことがある」
「……へぇ」
ティシアは姿をアルティシーナ神に変えた。
そしてレオニダスに言った。
「良いでしょう……もうすぐ死に行くあなたの願いです。出来得る限りの便宜を図りましょう。言いなさい」
「……実は」
レオニダスの孫。
リコリスとレオニダスの間に生まれた子供の息子と、そしてマレアス神の娘とレオニダスの間に生まれた子供の娘。
その二人は恋仲になり、結婚をした。
いずれ、二人はこの国の国王・王妃になる。
しかし……二人の間に中々子供ができない。
できても流産してしまう。
調べた結果……二人の子種は魂を宿すことができないものであることが判明した。
「……それをどうにかして欲しいのだ」
「つまり魂のない受精卵に、魂を用意しろということですか。……良いでしょう」
アルティシーナ神は姿を梟に変え、空へと飛び立った。
アルティシーナ神からレオニダスの願いを聞いたディシウス神は、上機嫌に笑った。
「良いじゃないか……あいつには世話になった。死ぬ前に一つ、曾孫の顔を見せてやろうではないか。最近、あの目障りな魔神竜を打倒したことだし……」
そしてディシウス神は人間を作った実績のある、プロムセス神を呼び出し……
レオニダスの曾孫の「作成」を命じた。
「良くぞ来てくれた。アルティシーナ神、マレアス神」
「一体、私たちに何の要件ですか?」
「手早く済ませろよ」
二人に対し、プロムセス神は言った。
「髪をそれぞれ一本ずつくれ。この泥に混ぜ込むつもりだ」
「……それはレオニダスの曾孫になる、子供ですか」
「なるほど……確かに血縁上では、俺やアルティシーナが近いな。適合もし易いだろうが……」
つまりそれはアルティシーナ神とマレアス神の子供になる。
すなわち、それは神である。
しかし同時に人間の、レオニダスの孫たちの子供にもなる。
すなわり、それは人間である。
「この子は人であるのと同時に、神となる。人と神を繋ぐ役目を、そして人と神との関係を未来へと進める役目を与える」
アルティシーナ神はプロムセス神を睨んだ。
「あなたは……この世の神を殺し、人を自由にするつもりですか? ……いえ、私も人間は好きです。ですから、人間がそれを自分で選び、望むのであれば、抵抗はしません。だが、神であるあなたがそれをするのは許しません」
「俺もアルティシーナと同意見だな……それはお前のエゴってやつだ。結局、人間はお前に、神に縛られることになる」
マレアス神もアルティシーナ神の意見に同意する。
するとプロムセス神は頷いた。
「そうだ。だからこそ……この子は神であり、同時に人なのだよ。この子が判断するのであれば、問題あるまい?」
「……あなたなら、自分と同じ考えになるように、調整できるのでは?」
アルティシーナ神が尋ねると、プロムセス神は笑みを浮かべた。
「ならば、お前の知恵の瞳で見るがいい。私はそのようなことをするつもりはない。私はただ……この子に『人を愛する心』を与える。それだけだ。人をひたすらに愛するこの子が、『人は神の奴隷として、未来永劫幸福に生きるべきである』と判断するのであれば、私はそれに従う」
アルティシーナ神はじっと、プロムセス神を『梟の瞳』で見つめた。
そして……自分の髪を引き抜き、渡した。
それを見たマレアス神もまた、自分の髪を引き抜く。
「アルティシーナ。こいつは本当に、細工をしようとしていないんだな?」
「ええ……視ましたから。嘘はないようです」
マレアス神は自分の髪をプロムセス神に渡した。
「協力、感謝する」
「……はぁ」
「俺たちも随分、毒されたな」
アルティシーナ神はため息をつき……
そしてマレアス神は苦笑いを浮かべた。
斯くして……
数か月後。
この世に一人の赤子が生まれ落ちた。
その女の子には、神としての母であるアルティシーナ神の名から『ファルティシーナ』の名前と、そして神々から様々な贈り物が与えられた。
預言者。
聖女。
神の子。
世界の王。
『再び結びつける者』人神ファルティシーナ神の誕生である。
一人の、または人柱の赤子の産声は……
神代の黄昏の……
神々の時代が終わり、人間の時代が始まる……
その合図となった。
これで完結となります
まあ、細かいことは『預言者ちゃん』の方に書きました。




