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第40話 女神様は半神の英雄の願いをかなえる


 「まさか、本当に三年で成し遂げるとは思いませんでしたよ。レオニダス」

 「……アルティシーナ、君の導きのおかげだ」

 「しかし、実際にやり遂げたのは君の実力だ」


 アルティシーナ神は笑みを浮かべた。

 いくつか、無効になった試練を含めると十一。

 最初にアルティシーナ神が与えた、『黄金の獅子』の討伐も含めて合計十二。


 そのどれもが、普通の英雄であれば幾度も死んでもおかしくないほどの危険な試練だった。

 しかしレオニダスは見事に生き延び……

 様々な英雄譚を作り出して見せた。


 「これだけの功業を成し遂げた英雄に対し、何も報いないというわけにはいきません」


 アルティシーナ神はそう言って……

 カーテンの向こう側に控えていたリコリスに言う。


 「リコリス、カーテンを開けてください」

 「はい!」


 心なしか、嬉しそうな声でリコリスはカーテンを開いた。

 レオニダスの前に、アルティシーナ神はその姿を現す。


 アルティシーナ神はゆっくりと祭壇を降りる。


 「随分と、立派になったね、レオニダス。小さな女の子に、教練所でぼこぼこにされていたのが嘘みたい」

 「……小さな女の子、ね」


 レオニダスは苦笑いを浮かべた。

 

 小さな女の子(アルティシーナ神)である。

 負けるのは当然だ。


 もっとも……


 「今のあなたは、きっと私よりも強いでしょう。完全武装したディシウス神にはさすがに敵わないかもしれませんが……丸腰での勝負なら、あるいは」


 「それは買い被り過ぎだ」


 レオニダスはそう言ってから……

 真剣な表情を浮かべ、アルティシーナ神に言った。


 「……ところで、本題に入って良いか?」

 「ええ、構いません。さて……レオニダス。あなたの功業に報いるために、褒美を与えましょう。望みを言いなさい……私の力で叶えられる範囲の望みならば、それを叶えましょう。私の力が及ばないものであっても、それを叶えるために最大限の努力をしましょう」

 

 アルティシーナ神がそう言うと、レオニダスはじっとアルティシーナ神を見つめて言った。


 「俺はアレクサンドラを殺した奴らへの、復讐を望む。復讐のための力を、またはその術を、知識を、教えてくれ」

 

 レオニダスの願いを聞いたリコリスは顔を青くさせた。

 しかしレオニダスはそれに気づかない。

 アルティシーナ神は一瞬だけ、ひどく残念そうな表情を浮かべたが……すぐに笑みを浮かべた。

 

 「良いでしょう。……まず力に関してですが、すでにあなたは復讐に必要な力を身に着けている。違いますか?」

 「……そうだな」

 「ですから、そのための術を、神々に介入されない方法を教えましょう。……私の右目をよく見なさい。『梟の瞳』を通して、あなたに叡智を授けます」


 レオニダスはアルティシーナ神の右目を見つめる。

 アルティシーナ神の右目が青色に輝いた。


 そして……








 「……あと少しだ。待っていろ、アレクサンドラ」


 レオニダスは今にも陥落しそうな街を見ながら、呟いた。

 その手には小さなナイフ――アルティシーナ神がアレクサンドラに渡し、そしてアレクサンドラが自害に使用し、そしてレオニダスにとってアレクサンドラの形見の品――があった。


 アルティシーナ神からアドバイスを受けたレオニダスは、まず手始めに父王を殺した。

 そしてアルティシーナ王国の王権を乗っ取った。


 公的にはレオニダスはアルティシーナ王国の王位を継ぐ資格がある。


 またレオニダスはアルティシーナ王国の守護神であるアルティシーナ神と、アグニストス神と交友があった。

 その二柱と、加えて神王ディシウスの支持を受けていたレオニダスの王位継承に、文句を言う者はいなかった。


 それからレオニダスはアルティシーナ王国の軍勢を率いて、アレクサンドラを殺した王子のいる国へと攻め込んだ。

 レオニダスが直接武器を持って戦えば、一人でもその国を亡ぼせるが……


 それをすると、神々から干渉を受ける。


 相手に一騎当千の英雄が出てこない限り、レオニダスは後方で軍を率いて、戦うように。


 それがアルティシーナ神からのアドバイスであり……

 また、軍神マレアスからつけられた、唯一の条件だった。


 幸いなことにレオニダスには軍才があった。

 当然と言えば、当然だ。

 神王の息子なのだから。


 瞬く間に敵国の軍を蹴散らし……その首都を包囲するに至った。


 「国王陛下! 城門を突破しました!!」

 「そうか……では、俺も行こう」


 ついに街が陥落した。

 レオニダスは逸る気持ちを押さえつつ……仇の待つ敵国の王宮へと向かった。


 燃え盛る炎の中をレオニダスは歩く。

 アルティシーナ王国の兵士たちが、虐殺・強姦をしているのだ。


 レオニダスはそれに参加するつもりもなかったし、かといってそれを止める気もなかった。

 彼らはアレクサンドラを殺した者の臣民であり……

 そしてまた、父王や仇と共にアレクサンドラを「狂女」だと揶揄した者たちである。


 死んだところで、どうとも思わなかった。


 まっすぐ、王宮へと向かう。


 レオニダスは丁度、逃げようとしていた敵国の召使を見つけ……

 そして剣で脅し、王子と国王の居場所を尋ねた。


 その二人は王宮の地下室、宝物庫の中に隠れて、震えていた。


 あまりの情けない姿に、レオニダスは呆れてしまった。

 守るべき臣民を守らず、かといって逃げることもできず、泣きながら隠れている。


 こんな相手にアレクサンドラは殺され、そしてその名誉を貶められたのだ。

 そう思うと、レオニダスは頭に血が上るのを感じた。


 「ま、待ってくれ! 悪いのは私……」

 「黙れ」


 レオニダスは剣でまず、国王を斬り殺した。

 それから片隅で震えている王子へ、ゆっくりと近づく。


 「ゆ、許してくれ! ぼ、僕はユーラ神に唆されたんだ! け、決して好きで彼女を……」

 「それは嘘だろう」


 レオニダスは冷たい目で王子を見下ろす。


 「アルティシーナ神から聞いた。貴様はユーラ神に唆されずとも、遅かれ早かれアレクサンドラに手を出したと。……違うか?」


 ユーラ神は少し理性のタガを外し、そして手段を提示した。

 やったことはそれだけ。

 ユーラ神はその行為を早め、そして成功する可能性を高めただけであり、その男に罪があるのは変わらない。

 『梟の瞳』を持つアルティシーナ神はそう断言した。


 だからこそ、レオニダスはこうしてこの男に復讐心を向けることができていた。


 「それに……そのあと、アレクサンドラの名誉を貶めたのは間違いなくお前の意思だろう」

 「そ、それは……あ、あいつが勝手に死ぬから……」

 「殺したのは貴様だ!!」


 レオニダスは、アレクサンドラの形見のナイフで……

 王子の首を掻き切った。


 鮮血が吹き上がる。


 「……これで、終わりか」


 一先ず、敵討ちができた。

 レオニダスは心の内に溜まっていたどす黒いものがなくなるのと同時に、何か、ぽっかりと穴が開いたような喪失感を感じていた。


 「国王陛下!!」


 そんなレオニダスの下に、兵士が必死の形相で走り寄ってきた。


 「……どうした?」

 「そ、それが……」


 それはレオニダスが留守のうちに、アルティシーナ王国が他国に攻め込まれたという報告だった。





 「……そんな、ばかな」


 レオニダスが帰った時には、アルティシーナ王国は滅んでいた。

 破壊された城壁と、燃え残った建物だけが残っている。


 唯一無傷で残されているのは、神々の神殿だけだった。


 「そうだ……リコリスは!」


 レオニダスは逸る気持ちを押さえながら、アルティシーナ神殿に赴く。

 そしてリコリスに会わせるように、神殿の神官に言った。


 神官に連れられて……奥の部屋へと案内される。

 

 レオニダスの心臓が早鐘のように打つ。

 嫌な予感がした。


 

 「……嘘だろ」


 そこには物言わぬ死体があった。

 体の殆どが焼けこげ、そして右手と左足が失われていた。


 見るも無残な姿だが……

 それは間違いなく、リコリスだった。


 「……彼女は避難誘導を率先してやっていました。最後の最後まで残り続け……そして逃げ遅れて」


 暗い顔で神官は言った。

 しかしレオニダスの耳にはそんな神官の言葉は入らなかった。


 レオニダスはリコリスの左手を握りしめる。


 「どうして……どうして、こんなことに」


 呆然とした表情でレオニダスは呟いた。







 「……これはどういうことだ、アルティシーナ」


 レオニダスは怒ったような、動揺したような表情でアルティシーナ神を見た。

 それからアルティシーナ神の後ろで不安そうな表情を浮かべている、リコリスに視線を移し、安堵の表情を浮かべる。


 それからアルティシーナ神へと、再び視線を移した。


 「どうも、こうも、ないですよ」


 アルティシーナ神は笑みを浮かべた。

 

 「復讐を完遂するまでの筋道と、それによって齎される結果。私の『梟の瞳』が映し出す、ありとあらゆる、数千通りの未来を見せただけです」


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