表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/43

第33話 半人前の英雄は女神様の正体を知る

 「もう、分かるだろう? 先程の話の意味が。複数の神話が存在するのであれば、それは全て神々の意志や性格に反映されるのだ。つまり神々にとっては等しく同じ過去である。比重の違いはあるがな」


 どちらも神話という意味合いでは『真実』である。

 そして……作り話という意味合いでは『虚偽』である。


 故にアルティシーナ神とプロムセス神は、『真実』であり『虚偽』であると言ったのだ。


 「じゃ、じゃあ俺は何なんだ? 俺は……生き物じゃないのか?」

 「お前は人間だ、レオニダス」


 プロムセス神は優しい声で言った。


 「確かにお前は神としての力を宿している。だが……ディシウス神より受け継いだ『エーテル』や『アーエール』、つまり『神性』のみだ。つまりお前には概念や現象としての『神格』や、そしてその性格や意思を決定づける『神話』が存在しない。だからお前は人間なのだよ」

  

 それが半神がどこまで行っても人間である所以である。


 「だ、だが……十二柱の神々には、半神がいるじゃないか! あの神様は何なんだ?」

 「……ふむ。葡萄酒の神、バニュコソスのことか。確かにあやつは竈の神、ヴェスタティアの代わりに十二柱に数えられることがある」


 葡萄や酩酊を司る神、バニュコソス神はディシウス神と人間の間に生まれた半神である。

 だが彼は神として、天界に迎えられている。


 「別に難しいことではない。半神としてのバニュコソスは確かに元々人間だったのだ。しかし奴は人々に葡萄酒の作り方を教え……尊敬され、畏怖された。そしてやがてやつの業績は神話となったのだ。結果、死後にやつの神としての部分、即ち『神性』と、あやつの『神話』と、そして酒や酩酊という概念が『神格』として融合し、バニュコソス神が生まれた。つまり……半神としてこの大地を生きたバニュコソスという人間と、今天界にいるバニュコソス神は別の存在だ」


 無論、バニュコソス自身の業績が神話となっている以上、バニュコソスとバニュコソス神が全く、完全に別の存在であるとは言い切ることもできないが。


 「だからレオニダスよ。お前も……人としては死ぬ。だが英雄として功業を成せば、それは神話となり、お前は死後に英雄神となるだろう。それを神として生きることができると捉えるか、それとも人としては死ぬのだから結局は死であると捉えるかは、お前の好きにすると良い」

  

 しかしプロムセス神の言葉はレオニダスの耳には入っていなかった。

 レオニダスはあまりの真実に、思考が止まってしまったのだ。


 レオニダスが事実を飲み込むには、しばらくの時間が掛かった。


 「……まあ、取り敢えず、分かった」

 「うむ。……このことは口外するな?」

 「分かっている」


 口にできるはずもない。

 もっとも……リコリスは知っているようだったが。


 「他に質問はあるか? 折角の機会だ。いくらでも聞くと良い」

 「じゃ、じゃあ……聞くけど、あなたは神話によって神の意志や性格が決められると言ったな? ……つまり別の神話が生まれたり、神話が作られたりしたら、神の意志や性格は変わるのか?」

 「その通りだ、レオニダスよ」


 プロムセス神は首肯した。


 「お前の大好きなアルティシーナ神で説明してやろう」 

 「い、いや……大好きってわけでもないけど」

 「ふむ、そうなのか。まあ、それは良い」


 ゆっくりと、プロムセス神は話し始める。


 「大昔……そうだな。ある場所に巨神族という人間の民族がいたとしよう。そして巨神族の住む土地より北には。ディシウス族やナパト族、ハウリス族という民族が住んでいた」


 「……何でわざわざ神の名前を当て嵌めるんだ?」


 レオニダスは首を傾げる。

 プロムセス神はそれには答えず、話を続ける。


 「ディシウス族たちの住む土地は貧しかった。彼らは南の豊かな巨神族の住む土地が欲しかった。巨神族たちを奴隷にしたかった。そこで……彼らは巨神族の住む南側の土地に攻め込み……そして同時に巨神族のうちのプロムセス族やメルティシア族といった部族と共同し、敵対する巨神族の土地を奪い、そして巨神族たちを奴隷として支配した」


 「……まさか」


 「察しが良いな。この人間の起こした戦争、これこそが巨神大戦だ。ディシウス族たちと巨神族たちは全く異なる神話を信じていた。しかし……戦争に敗れ、支配されたことで、巨神族たちの神話はディシウス族たちの……ディシウス神を中心とする十二柱の神々を信じる民族たちの神話体系に組み込まれたのだよ」

 

 つまり……

 プロムセス神や、アルティシーナ神の母親であるメルティシア神は、ディシウス神とは本来何の関係もない神ということになる。


 「ということは、神々の系譜は、あれは偽りなのか?」

 「偽りと言えば、偽りだ。しかし真実でもある。それは先程、語ったはずだ」


 巨神大戦は確かに人間によって作られた、『神話』である。

 しかし……『神話』に記されている以上、実際に巨神大戦は起きたと言うこともできる。


 事実、巨神もディシウス神も実在するのだから。


 「さて……話を戻そう。このうち、プロムセス族はディシウス族らに対し、反抗的な立場を取った。共通の敵がいなくなったことで、仲間割れが起きたのだ。だからプロムセス族はディシウス族らに迫害された。しかしプロムセス族の先進的な文明はディシウス族らにとって魅力的だったため、迫害と同時に、ディシウス族らはプロムセス族を尊敬した」


 「……それが反映されたのが、あなたか。プロムセス神」


 「その通りだ。人間に火を与える、賢神、文明神。時には神々の王、ディシウス神すらをも謀ってみせる。しかし、故にこうして岸壁に縛り付けられ、罰を受けることにもなった。分かりやすいだろう?」


 蔑ろにすることもできず。

 かといって、そのままプロムセス族の文明を享受することも我慢できなかったディシウス族らの抵抗と言える。


 「さて……続きを話そう。次はメルティシア族だ。彼らもまた、優れた文明を持っていた。ディシウス族は彼らの優れた技術、知識、法律、知恵、文明を取り入れるために、武力を背景に彼らを己の部族に組み込んだ。これがディシウス神によるメルティシア神の強姦と結婚だ」


 「……ディシウス神はメルティシア神を飲み込むことで、全知を持つ、全知全能の絶対神となった。そういうことか?」


 「話が早くて助かる。全能、即ち武力。全知、即ち、文明。ディシウス族はメルティシア族を支配することで、強大な軍事力と優れた文明を持つ、最有力の部族となったのだ」


 神話に於いてディシウス神の王権が確立する時期と、ディシウス神とメルティシア神の結婚はほぼ同時期である。

 どちらも巨神大戦終結後だ。


 「さて、ここからが問題だ。メルティシア族はディシウス族に支配されたが、完全に支配されたとは言えなかった。結果、メルティシア族は二つに分かれた。親ディシウス族派、即ちディシウス族に与することで権力側として富を享受しようという派閥。そして反ディシウス族派、即ちディシウス族に対して反乱を起こし、独立を勝ち得て、富を独占しようという派閥。この二つの派閥は互いに敵対し、そして同じ部族同士なのにも関わらず、憎むようになったのだ」


 







 「アルティシーナよ、良かったのか? レオニダスをプロムセスのところへ寄越して」

 「プロムセスを解放しても良い、レオニダスに神々の秘密を教えても良いと言ったのはお父様でしょう?」


 天界にて。

 アルティシーナ神とディシウス神は会話をしていた。

 これからのレオニダスの養育方針について話をしていたのだ。


 「お前の神話の来歴について、あれこれ語るかもしれないぞ」

 「私の神話? 別に隠すようなことでもないでしょう。私の神話なんて、みんな知っています」


 何を言っているんだ。

 と、アルティシーナ神は言った。


 ディシウス神は頭を掻いた。


 「……ふむ、まあ覚えていないなら良い」

 「覚えていない? 何のことですか?」 

 「……こちらの話だ。ところでアルティシーナ、俺と結婚しないか?」


 ニヤリ、とディシウス神は言った。


 「正妻の立場は用意してやれんが……今よりも高い地位を約束する。ユーラは俺がなんとか説得しよう!」

 「嫌だよ。私は処女神ですよ?」

 「優しくする……最高の快楽を約束しよう」


 ディシウス神がそう言うが……

 アルティシーナ神はまるで相手にしない。


 「結構です。私はあなたと結婚するつもりなどありません」

 「……力づくでも、か?」


 ディシウス神は低い声で言った。


 「俺は神王であり、そしてお前は俺の娘だ。俺がその体を捧げろと言えば、従う義務が貴様にはある」

 「そんな義務はありませんね。……やれるものなら、やってみると良い」


 アルティシーナ神がそう言うと、ディシウス神は即座に動いた。

 あっという間にアルティシーナ神を組み伏せる。


 そして電撃を浴びせ、アルティシーナ神を麻痺させた。


 「っぐ……」

 「ほれ、抵抗してみろ。アルティシーナよ……うん?」


 そう言ってディシウス神はアルティシーナ神の豊かな乳房を鷲掴みにした。


 「できないか? アルティシーナ。あれだけの啖呵を切っておきながら」

 「意地悪ですね、お父様。腕力であなたに勝てるはずもないでしょう。この世のあらゆる神々の中で、最強の力を持つあなたに」


 ディシウス神はアルティシーナ神の服を破く。

 左手で露出した乳房を揉みながら、右手でアルティシーナ神の顎を掴んだ。


 「つまり、このまま大人しく犯されると?」

 「あなたに腕力では勝てませんから。そうなりますね。……ただ」


 アルティシーナ神の目の色が変わった。

 右目の『梟の瞳』、左目の『蛇の瞳』が爛々と輝く。


 「それは同じことを繰り返すだけだぞ、ディシウス(・・・・・)よ」

 「っけ、やっぱり覚えてるじゃねえか。蛇女」


 ニヤリ、とディシウス神は笑みを浮かべた。

 そして力を緩める。


 するとアルティシーナ神はすぐさま蛇に姿を変え、するするとディシウス神の腕から逃れた。


 再び女神の姿に戻る。

 その時にはすでに、破かれた服は元に戻っていた。


 「お前ほどの神格を持つ神が、一回や二回、神話を上書きされた程度でその記憶を失うわけがねえからな」


 「犯さなくて良いのか? ディシウス。私の体で味わう快楽は、きっと極上のものだろう」


 アルティシーナ神は妖艶に笑みを浮かべた。

 ディシウス神はアルティシーナ神の美しい乳房、そして臀部に視線を移す。


 「抱きたいのは山々だが……同じことを何度も繰り返す気はねぇな」

 「それは賢明な判断だ、ディシウス。何しろ……今度は息子が生まれるかもしれない」

 「それは笑えない冗談だ」


 ディシウスは肩を竦めた。









 「メルティシア族は二つに分裂した。そうだな……名付けるならば、反ディシウス族を掲げる部族はメルゴス族、親ディシウス族を掲げる部族はアルティシーナ族となるだろう。そして……アルティシーナ族はディシウス族と共謀し、メルゴス族を殺した。これが『反逆神話』や『寝取り神話』の原典となった歴史だ」


 プロムセス神の言葉に、レオニダスは目を見開いた。


 「待ってくれ! ということは、メルティシア族とメルゴス族、アルティシーナ族は同じ部族ということか?」

 「その通りだ」

 「だとすると……メルティシア族とメルゴス族、アルティシーナ族は同じ神話を共有している部族になる!」


 レオニダスの中で点になっていたものが、線で繋がっていく。


 「つ、つまり、それは……」

 「察しが良いな。ああ、お前の考えの通りだ」


 プロムセス神は頷いた。


 





 「覚えてたなら、覚えていると言って欲しいものだ」

 「ふむ……お前は愚かだな、ディシウスよ」


 アルティシーナ神は爛々と瞳を光らせる。


 「我が身を二度も犯し、子を産ませた強姦魔を、忘れると思ったか?」

 「忘れてくれれば楽だったのになぁ……」


 ディシウス神は愉快そうに笑った。

 



 







 「アルティシーナ神と、メルゴス神、そしてメルティシア神は、全く同一の神なのだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私がなろうで連載している他作品です
もしお時間があったらどうぞ
『復活の聖女~三千年後の世界に蘇った預言者ちゃんは火炙りではなくベッドの上で平穏に死にたい』
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ