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第28話 女神様は弟に鎧をプレゼントする

 「良くぞ、戻って来ました! レオニダス!!」


 アルティシーナ神は黄金の獅子の死体を担いでやってきたレオニダスを歓待した。

 レオニダスは少し、緊張した面持ちでアルティシーナ神に尋ねる。


 「……その、少しだけ、妹とマレアス神に助力して頂きました。あれは……」

 「あの程度は助力のうちに入りません。あなたは独力で獅子を打ち破った、そのことに変わりはありませんから」


 アルティシーナ神は上機嫌である。

 自分のお気に入りのレオニダスが偉業を成したこともそうだが……


 リコリスとアレクサンドラを、これで殺さずに済むのだから。

 

 「レオニダス、私からあなたにお礼を言いましょう。あなたのおかげで、私は敬虔な巫女と可愛い妹を失わずに済みました。感謝します」

 「……いえ」

 「お前が石にしたんだろう、という顔をしていますね」


 アルティシーナ神がそう言うと、レオニダスの表情が凍り付いた。

 アルティシーナ神は愉快そうに笑う。


 「まあ、あなたがそう思うのも無理はありません。ですが……私の言い分も聞いてください」

 「……言い分、ですか?」

 「はい。良いですか、レオニダス。我々は……人間が罪を犯したら天罰を与えます。これは人間を愛するが故です。分かりますね? 人間を律するためなのです」

 「それは……分かっています」


 レオニダスは頷いた。

 リコリスの姉と、その恋人の犯した行為は神を愚弄する行為である。


 それに天罰を下さなければならなかったのは、レオニダスも理解できる。


 「ですが、リコリスとアレクサンドラは……」

 「神の決定に異を唱えることは、立派な罪です。本来ならば教える必要もないのに、私はリコリスに対し、姉の生存と現状を教えてあげたのです。それだけで満足すべきなのにも関わらず、彼女は、そしてあなたたちは強欲にも咎人の救済を求めました」


 アルティシーナ神は厳しい口調で言う。


 「これを神として、罰しないわけにはいかないのですよ。ですが、罰するだけでは理不尽です。だからチャンスを与えた。分かりましたか?」

 「なるほど、分かりました。御恩情、感謝いたします」


 レオニダスはアルティシーナ神に頭を下げた。

 アルティシーナ神は笑みを浮かべる。


 「よろしい……それと、今後は私に対してはもう少し砕けた口調で構いませんよ」

 「そう、ですか。いや、……そうか。アルティシーナ神」

 「ふふ、それで良いのです。……私以外の神は私ほど優しくはありませんし、あなたを可愛がってくれるとは限りません。気を付けなさいね?」

 「分かった。忠告、感謝する」


 アルティシーナ神は愉快そうに眼を細めた。

 それから三日前から石になったままのリコリスとアレクサンドラに対し、軽く手をかざした。


 「あ、あれ?」

 「こ、これは……」

 「リコリス、アレクサンドラ!!」


 レオニダスはまず初めに、一番近くにいたアレクサンドラに抱き付いた。

 アレクサンドラは困惑の声を上げる。


 「え、え? な、なに? な、何で泣いているの? レオニダス?」

 「良かった……良かった。……リコリス!!」

 「へ、ええええ!!? な、なんですか、え、ちょっと!」

 

 そしてレオニダスはリコリスを抱擁した。

 気になっている男性に唐突に抱きしめられ、リコリスは顔を真っ赤にする。


 「そ、そんな、ま、待ってください……ちょ、ちょっと、レオニダス様!」

 「リコリス……良かった! もう会えないんじゃないかと……お前がいない人生なんて、俺は嫌だ!」

 「ふぇえ? な、何を急に言いだすんですか。そ、そんな……わ、私、まだ覚悟が……」

 「ごほん、ごほん」


 アルティシーナ神は大きく咳払いした。

 三人はようやく神の御前だったことに気付き、硬直する。


 そして姿勢を正し、アルティシーナ神に対して頭を垂れた。


 「よろしい……良かったですね、レオニダス。このままでは私はあなたに、今度は白銀の獅子の討伐を命じなければならないところでした」


 「も、申し訳ございません」


 「反省しているならば、許しましょう」


 それからアルティシーナ神はどこからともなく、毒蛇を二匹取り出した。

 そしてそれを放り投げる。


 毒蛇は宙で人間に戻り……

 床に転がった。


 「い、痛い……」

 「な、なにが起きたんだ?」


 二人は周囲を見渡し……

 そして目の前にアルティシーナ神がいることに気が付く。


 「記憶は断片的にですが、残しておいてあります。三人に事情を尋ねれば、おおよそのことは分かるでしょう。次は命はないと思いなさい」


 それからアルティシーナ神はレオニダスが献上した獅子の死体を一撫でした。

 獅子の死体は空気に溶けるようになくなってしまう。


 「さて……レオニダス、一週間後、再びこの神殿に来なさい。此度の褒美を取らせましょう」


 そう言ってアルティシーナ神はどこかへと消え去った。




 

 「アグニストス神、仕事の依頼です」

 「分かっておる。……ふむ、それが『黄金の獅子』か」


 アグニストス神はアルティシーナ神が放り投げた黄金の獅子の死体をキャッチし、じっくりと観察する。

 

 「これは良い毛皮だ。素晴らしい鎧ができる」

 「それは結構なことです。……私も協力しましょう」


 アルティシーナ神は工芸の神である。

 良い鎧には、相応の装飾が必要となる。


 「ふふふ……初めての共同作業ということじゃな!」

 「……気持ち悪い」

 

 アルティシーナ神はアグニストス神の物言いにドン引きした様子を見せた。

 アグニストス神はアルティシーナ神のあんまりな態度に意気消沈した様子を見せたが……すぐに気を取り直す。


 「それと……特別に武器も作ってやろう」

 「……武器、ですか? 爪や牙を使うと?」

 「いや、それは防具に使う。武器は……まあ大したものではない。名付けるならば、『無銘の剣』『無銘の槍』『無銘の弓』と言ったところか。あの武器では倒せるものも倒せないじゃろう」


 つまりレオニダスがあまりにも、彼の目から見て貧弱な武器を使っているが故に……

 多少、マシなモノを用意してやろうという気遣いであった。


 「あなたが打つのであれば、『無銘』と言えるものではないと思いますが?」

 「儂にとっては、銘を付ける価値のないものじゃよ」


 アグニストス神は興味もなさそうに言った。







 「そういうわけで、レオニダス。これがあなたの防具です」

 「なるほど……ところで、なぜあなたが俺の防具を着ている?」

 「あまりにもカッコよかったもので」

 「……」(大丈夫か、この女神様は)


 アルティシーナ神は黄金の鎧を身に纏いながら、上機嫌に言った。

 黄金のマントに、黄金の兜、胸当て、籠手、軍靴。

 ところどころに獅子の装飾が施されている。


 籠手や靴には獅子の牙や爪が隠されており、いざとなれば武器として使用できる。


 「良いですか、レオニダス。あなたは私と……ついでにアグニストス神に感謝し、これを常に身に着けなさい」

 「ええ! そ、それを常に!?」


 レオニダスは眉を顰める。

 確かに鎧はカッコ良いものだったが……この金ぴか金の鎧を常に身に纏うのはあまりにも恥ずかしかった。

 まともに学校にも登校できない。


 もしこんなものを毎日着ていけば、綽名が金ぴかになるのは間違いなかった。


 「ふふ、あなたの懸念は分かっています。良いですか……よく見ていなさい」


 そう言ってアルティシーナ神は胸当ての、獅子の顔の装飾が施されている部分を軽く押した。

 すると……


 「す、凄い……」


 一瞬、鎧や兜が光ったかと思うと……

 全て金色の粒のように姿を変え、マントに吸い込まれてしまった。


 「戻すときはこうします」


 アルティシーナ神は軽くマントを翻す。

 すると鎧や兜が再び出現した。


 「ちなみにこのように限定解放することも可能です」


 そう言うと、兜だけがマントの中に吸い込まれていく。

 

 「この性能を付けるために、三日掛かりました」

 「へぇ……」(ありがたいけど、どうでもいい事に時間を使ってるなぁ……)

  

 レオニダスは内心で少し呆れた。


 「でも……それでも金色で目立ちますよ?」

 「色は変えられますよ」


 そう言うと……マントは目立たない黒へと変化した。

 それからアルティシーナ神は茶色、灰色へと変化させてみる。


 「一〇八色用意しました。好みとファッションに合わせなさい」

 「は、はぁ……」(そんなに要らないだろ……)


 さらにアルティシーナ神はドヤ顔で解説をする。


 「このマントは体温調節機能がありますから。どんな場所でも快適でいられます。夏は涼しく、冬は暖かいのです」

 「それは凄い」

 「無論、湿度も調節できます」

 「抜け目がない」

 「ちなみに洗濯は不要です。常に、こう、神の不思議な力的なもので浄化されています」

 「洗剤も節約できるのか」

 

 少し相槌を打つのが面倒になってきたレオニダスは、適当に返事をする。

 アルティシーナ神はそれに気付かず、さらに解説を重ねる。


 「さらに……こんな機能もあります」


 そう言ってアルティシーナ神はマントの懐から……

 大きな槍を取り出した。


 特に装飾もない、武骨なだけの、しかしとても丈夫で切れ味の良さそうな槍である。


 「マントの中には空間が何重にも折り重なっているので、武器を収納できます。そうですね……容量はアルティシーナ王国の王宮くらいですか」

 「それは凄い!」


 これは本当に凄い。

 レオニダスは少しテンションが上がった。

 

 「この槍と……あとこの中に剣と弓、鎚が入ってますが、それはアグニストス神からのプレゼントです。銘はないそうです。つまり『無銘』ですね。私に感謝しなさい」

 「はい、ありがとうございます!」(……何故、アルティシーナ神に?)


 あとで改めてアグニストス神の神殿に赴こうと、レオニダスは誓った。


 「それとレオニダス」

 「どうした?」

 「……もし、白銀の獅子がこの世にいたら、その時は討伐依頼を出しますから、よろしくお願いしますね」

 「は、はぁ……分かりました」(……欲しくなっちゃったのか)


 少し呆れながら、レオニダスはアルティシーナ神からマントを受け取った。

 マントからは……

 どこかで嗅いだことのあるような匂いがした。


 「あ、言い忘れましたが、それを身に着けると獅子の如き強靭さが得られます」

 「それの方がどうでもいいギミックよりも重要じゃないか?」


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