第21話 女神様は不死身の巨兵を打ち倒す
「か、神の攻撃では……死なない?」
レオニダスは茫然とした。
「そんなの、無敵じゃないか……」
少なくとも巨兵アグラスは人間の力では敵わないように思える。
そんな巨兵たちが……彼の言い方では、何人か他にもいるようだった。
神でしか敵わないほどの化け物。
しかし神の手では死なず……そして頭数が揃っている。
そんな相手にどのようにして勝つというのか。
いずれは疲弊して、負けてしまう。
「無敵など、あり得ませんよ。レオニダス」
アルティシーナ神は言った。
そしてくるくると槍を軽く回転させる。
「ここまでは、想定内です」
そしてにやりと笑みを浮かべた。
「殺せないのであれば……二度と動けないようにするまでです。ペガソス!」
アルティシーナ神はペガソスに呼びかける。
従順な従属神はアルティシーナ神の意志に答え、空へと飛びあがった。
「もう一撃、です。愚者の聡慧なる神槍!!!!!
今度はアグラスの頭上から、槍を振り下ろした。
海面と黄金の光が垂直に交差する。
今度は先程とは違い、衝撃の逃げ場はない。
完全な直撃である。
水柱が上がり、その衝撃で一時的に海水が消滅する。
地殻には大きな穴が開いた。
悲鳴を上げる間もなく……アグラスは消滅した。
しかし……
「やはり、再生しますか」
小さな塵のようなものが徐々に集まっていくのをアルティシーナ神は確認した。
どんなに消し飛ばそうとも、神の身であるアルティシーナ神にはアグラスを殺すことは叶わないのだ。
もっとも……そんなことは当の昔から知っている。
対策は何通りも考えられてきた。
「そのうちの一つを試すまでですね」
アルティシーナ神はそう言うと……
突如、そこから姿を消した。
アグラスはまず頭部を再生させた。
首、頭だけが海から浮き上がる形となっている。
アグラスは周囲を見渡した。
アルティシーナ神の姿は……ない。
「ふはははは!! 逃げ出したか? それとも応援を呼びに来たか? この分ならば、もしかするとこの俺だけでも全ての神々を殺せそうだな!」
永遠に彼は負けることはない。
戦い続ければ……いつかは勝つことができる。
「奴らを追い出した暁には……何の神になろうか? やはり戦の神か?」
アグラスは戦争終結後に配分されるであろう、神々の席について思いを馳せる。
巨兵たちは神ではない。
神ではないが、しかし人間でもない。
中途半端な存在だ。
故に……彼らは神になりたいのだ。
ゆっくりと……上半身、そして蛇のような下半身を再生させる。
そして立ち上がった。
「さて……アルティシーナ神が逃げたのならば、この神界から抜け出し、人間どもを皆殺しに……」
と、そこで……急に周囲が暗くなった。
いや、違う。
太陽の光が遮られたのだ。
嫌な予感がする。
アグラスは空を見上げる。
そこには青空はなく、そして太陽もなかった。
そこにあったのは……巨大な岩、否、山脈であった。
レオニダスは自分の見たモノが信じられなかった。
アルティシーナ神はどこかへと飛び去ったと思うと……
戻ってきた時には、片手に山脈を持ってきたのだ。
「あ、アルティシーナ様……そ、それは?」
「山です。切り取ってきました」
まるでキャベツ畑から拾ってきたとでも言うような、気軽さでアルティシーナ神は言った。
そして……それを海へと投げつけたのだ。
アグラスの下へと落下する山脈。
「ではレオニダス、よく、見ておきなさい」
アルティシーナ神はそう言って、再びアグラスの下へと飛び立つ。
一方アグラスは……
「ふんっ!!!!!!」
避けることは叶わないと判断し、蛇の下半身を大地に絡ませ、両腕を上げ……
山脈を受け止めた。
「ぬっぉおおおおおおお!!!」
潰されぬように、必死に耐えるアグラス。
そこへアルティシーナ神が天馬に乗ってやってきた。
「頑張りますね、アグラス」
「っく、こ、この程度で……俺は死なないぞ!!」
そう言うアグラスに対し、アルティシーナ神は微笑みかけた。
「手伝ってあげましょう」
そして……
左目を開けた。
アルティシーナ神の黄金の左目が、真紅に染まる。
真っ赤な目。
右目の『梟の瞳』に並ぶ、アルティシーナ神のもう一つの目。
万物を全く異なるモノへと変えてしまう、呪いの、猛毒の瞳。
『蛇の瞳』である。
「っがああああ!!!」
アグラスは全身が硬直するのを感じた。
見られただけで、体が石のように固くなったのだ。
幸いにも……石のようになったことで、山脈を支えるのは楽になったが。
「さすが、出来損ないの神とはいえ……まあ神に近い存在ではありますね。普通の人間ならば視ただけで石や塩に変えるなど容易いのですが」
そう言ってアルティシーナ神は身動きの取れないアグラスの顔を覗き込んだ。
今度はアグラスの目と、『蛇の瞳』が合う。
「しかし、これならばどうですか?」
アルティシーナ神はアグラスの目を通し、直接呪いを流し込んだ。
「っか、あああぁぁぁぁぁぁ……」
これには耐えきれず、あっという間にアグラスの体は石へと変わってしまう。
「これで終わりです。愚者の聡慧なる神槍!!!!!」
アルティシーナ神は槍を振った。
黄金の閃光が、石像と化したアグラスの体を砕く。
バラバラになったアグラスの体の上に、山脈が圧し掛かった。
海が大きく揺れ、津波が起きる。
「とりゃあ!」
最後にアルティシーナ神は山脈に向かって、石突きを放った。
一撃で山脈を平らに均してしまう。
「これで身動きは取れないでしょう? アグラス。意思を持ったまま、そして永遠に死ねず……永劫の時をそのまま過ごしなさい」
斯くして……
巨兵と神々の大戦争、巨兵大戦の前哨戦はアルティシーナ神の活躍により神々の勝利に終わった。
この戦いにより、双方は戦略の練り直しを迫られることになる。
尚……
巨兵アグラスを封印し続ける関係上、切り取られた山脈と海に放り込まれた山脈だけは現実世界に反映されることになった。
結果、アルティシーナ王国の近海には一つの小さな島が出来上がることになる。
人々はそれを直接目にしたわけではないが……
どういうわけか、アルティシーナ神が巨兵アグラスを封じるために投げ込まれた山脈によって島ができたのだと、噂した。
いつしかその島はアグラス島と呼ばれることになる。
そして……
時折、その島からは、男の呻き声のようなものが聞こえてくるらしい。
果たして、アグラスが解放されることはあるのだろうか?
それは神々も知るところでは無かった。




