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第16話 女神様は父親の悪口を言う

 「天空神ディシウスに会った!?」


 レオニダスは大声を上げた。

 そして周囲を確認し、慌てて声を低くする。


 「そいつは凄いな……」

 「うん……あなたにも、よろしく言っておいて欲しいって言ってたわ」

 「そうか……天空神ディシウス、俺らの実の父親が、ね……」


 レオニダスは感慨深そうに呟く。

 やはり一度くらいはレオニダスも、実の父親の顔を見てみたい。


 「ど、どんな感じだったのですか? ディシウス様は!」


 リコリスが身を乗り出した。

 アルティシーナ神の神官であるリコリスだが……アルティシーナ神もディシウス神も同じ神話体系の神である。

 そもそもアルティシーナ神はディシウス神の娘なのだ。

 興味がないはずがない。


 「何て言えば良いのかしら……そうね、容姿はやっぱりレオニダスに似てたわ」

 「まあ……そりゃあ、俺は息子だからな」


 アレクサンドラは母親似なのに対し、レオニダスは父親似である。

 ディシウス神がレオニダスに似ている……というよりは、レオニダスがディシウス神に似ている。


 「あとは……筋肉が凄かった。芸術、って感じ」

 「神様ですからね。私たちみたいに肉体の維持に苦労するとか、無いんでしょうね」


 羨ましい……

 とでも言いたげに、リコリスは呟いた。


 少し太りやすいのがリコリスの悩みだ。


 「あとは……凄い神威だったわ。全身が焼けそうなくらい。……多分だけど、普通の人間ならまともに直視したら死んじゃうんじゃない?」

 

 アレクサンドラはディシウス神から溢れ出る神威を思い出し、身震いした。

 アレクサンドラの想像は正しい。


 雷の化身であるディシウス神の姿を直視した人間は、そのあまりの熱量と神威を正面から受けた結果、焼け死んでしまうのだ。

 無論、ディシウス神はその気になれば人間に化けることもできる。


 人間に化けている時のディシウス神は神威を外に殆ど漏らさないため、直視しても死ぬことは無い。


 「何の話してた?」


 ティシアがケーキと珈琲を持ってやってきた。

 ここはティシアのバイト先の喫茶店である。


 今はティシアの労働時間ではない……が勝手はティシアが分かっている。

 ティシアが直接持ってきた方が早い。


 ケーキと珈琲をテーブルに並べてからティシアは椅子に座った。


 「ディシウス神の話をしていたのよ、ティシアちゃん」

 「なるほど、お父様の話か」


 アレクサンドラがポーロワ神に誘拐されたのは記憶に新しい。

 その時の話題で盛り上がるのは、自然なことだ。


 「ティシアちゃんはディシウス神に会ったことある?」

 「そりゃあね」


 数か月前までは毎日のように顔を合わせていた。

 

 「なあ、ティシア。その……ディシウス神はどういう神様だ?」

 「気になるの?」

 「それは……まあ、実の父親だし」


 レオニダスは頬を掻きながら言った。

 それもそうか、とティシアは頷く。


 「そうだね……」


 ティシアはアルティシーナ神として接してきたディシウス神の姿を思い浮かべ、口を開く。


 「……女の敵だね」

 「「「……」」」


 三人は何とも言えなさそうな表情を浮かべる。


 「相手が女となれば、見境がない。下半身に脳味噌があるんじゃないかというレベルだね。知恵の女神を飲み込んで、叡智を得た癖に、思考が色欲に支配されているから、思慮浅い行動を起こす。粗野で乱暴、愚鈍な男の典型だよ」


 ボロクソにディシウス神をディスるティシア。

 リコリスは顔を青くする。


 「だ、大丈夫? て、ティシア……て、天罰が下るよ?」

 「娘に少し悪口を言われたくらいで怒って雷を落とすようなら、絶対神の看板は下げた方が良いね」


 盛大なブーメランを投げるティシア。

 もっとも、幸いにもティシアがアルティシーナ神であると知っている者はこの場にはいなかったのでティシアの頭に刺さったブーメランを指摘する者はいなかったが。

 

 「私なんて、求婚されたことが何回もあるからね。普通、実の娘とセックスしようとする? 信じらんないよ」


 正確にはティシア――アルティシーナ神――は娘兼孫である。

 

 アルティシーナ神はディシウス率五十%の女神と、ディシウス率百%のディシウス神との間に生まれた女神だ。

 つまりアルティシーナ神はディシウス率七十五%の女神である。


 ディシウス神にとってはほぼ自分と言ってもいい。

 それと子作りしようとするのだから、恐ろしい。


 もし仮にアルティシーナ神とディシウス神の間に子ができれば……

 それはディシウス率八十七%になる。


 もはや女装したディシウス神だ。


 「いや、まあ……でもほら、神様だし……」

 

 レオニダスはディシウス神を庇おうとする。

 どんな酷い奴でも、実の父親は父親である。

 レオニダスの中に半分流れている血なのだ。


 「あまり他人事じゃないよ? アレクサンドラは美人だから、狙われるかもしれない」

 「私!?」

 「うん。私も強姦されかけたことあったからねー、気を付けた方が良いよ」


 平然とティシアは言った。

 無論、ティシアの時に強姦されかけたことはないが……アルティシーナ神の時に、何度も夜這いを受けている。

 その度にディシウス神の股間を蹴りあげて、迎撃してはいるが。


 (処女神だって、言ってるんでしょうが)


 処女の誓いを立てているアルティシーナ神にとって、処女を失うことはかなり不味い。

 そして同様に処女を奪う行為も不味い。

 それを理解していないはずもないが……


 そういう時のディシウス神は色欲に目が曇っているため、理屈は通用しない。


 「ご、強姦と言えば……ポーロワ神だっけ? アレクサンドラを誘拐した神は。自分に惚れたと思いこんで無理矢理攫うなんて、はた迷惑な奴だよな」


 レオニダスは呟いた。

 大切な妹ないしは姉を誘拐されたのだ。レオニダスのポーロワ神への好感度は低い。


 「い、いや……でもちゃんと断らなかった私も悪いし。そんなに責められないよ」


 アレクサンドラがそう言うと、レオニダスは眉を上げる。


 「何だよ、アレクサンドラ。お前、ポーロワ神を庇うのか?」

 「べ、別に庇って無いわよ。ただ私にも非が……」

 「それを庇うって言うんだよ。誘拐の被害者に、非もくそもあるか! というか、お前、あと一歩遅ければ強姦されてたかもしれないんだぞ?」

 「私が本気で拒めば、彼はそんなことをしないわ!」

 「彼? 彼って何だ!?」


 喧嘩を始めるレオニダスとアレクサンドラ。

 リコリスはティシアに耳打ちする。


 「ねぇねぇ、ティシア。アレクサンドラ様ってもしかして……」

 「うん、本人無意識だけど完全に惚れてるね」


 ティシアは少し不機嫌そうに言った。

 自分の妹をポーロワ神に取られるのは腹立たしい。


 「好きになる要素ってある? 誘拐されただけなんでしょ?」

 「腐ってもディシウス神の息子だからね。そりゃあ顔も良いし……多分、竪琴で愛を囁かれたんでしょ。『愛してる!』って、直球の気持ちをぶつけられたら、まあ惚れてもおかしくはないかなぁ……」


 竪琴の神の看板は伊達ではない。

 彼の音楽は人の心を掴むのだ。


 当然、乙女の恋心も。


 「まあポーロワ神はディシウス神に比べれば、まだ男神の中ではマシな部類だしね。あの粗暴なマレアス神ならともかく、嫁ぐ相手としてはそう悪くはないかなぁ」


 無論、比較しての話だが。


 「……そうだ、アレクサンドラ。良い物をあげるよ」

 「……良い物?」


 レオニダスと喧嘩をしていたアレクサンドラは、ティシアの方を向き、首を傾げる。

 ティシアが差し出したのは……ナイフだった。


 「これは?」

 「もし、ポーロワ神が無理矢理迫ってくるならそれで突き刺しちゃいなよ」

 「彼はそんなことは……」

 「じゃあ、他の神でも暴漢でも良いよ。処女は好きな相手(ポーロワ神)に捧げたいでしょ」


 ティシアがそう言うとアレクサンドラは顔を赤らめた。

 そして……ティシアは囁くようにいった。


 「まあ……もし敵わないような相手なら、自分の喉に突き刺しなさい。処女は守りたいでしょう? 私が保証しましょう……そのナイフなら、絶対に(・・・ )成功します」


 「そ、そんな物騒な……」


 そうは言いながらもアレクサンドラは胸元にナイフを仕舞った。

 

 (……今、一瞬ティシアの目が青色に変わった?)


 レオニダスは見間違いかと思い、目を擦った。

 また……リコリスも息を飲んだ。


 (一瞬、神威が漏れたような……それに今のは、ただのアドバイスじゃない。神意が込められていたような、気がする……)


 もっともだからと言って、ティシアがアルティシーナ神であるという証拠にもならないのだが。


 それから四人は他愛のない話をして別れた。

 ティシアは寝泊まりしている宿へ、リコリスは神殿へ、そしてアレクサンドラとレオニダスは王宮へ。


 「あ、そうだ。アレクサンドラ……先に帰っておいてくれ」

 「……どうして?」

 「城壁の周りを走ってこようかと思ってな」


 つまり鍛錬だ。

 そう言うとレオニダスは街の外へと向かう。


 城門を潜り、そして城壁に沿って走り出す。

 走ってから暫くすると……


 「っ!!!」


 濃密な神威を感じた。

 振り返る。


 「お、お前は……」

 「おいおい、足を止めて良いのか? 鍛錬の最中なんだろ? 俺様のことは気にせず、続きをしな」


 そこには一人の……

 否、一柱の男神がいた。


 髪は赤に近い金色。

 瞳は燃えるような赤。

 真紅の鎧を着込んでいて、腰には一本の剣を下げている。


 容姿はレオニダスにどこか似ているところがあり……

 非常に端正な顔立ちだ。


 しかし……レオニダスに比べて、ずっと残忍そうな顔立ちである。


 「あ、あなたは……い、いや、あなた様は……」

 「マレアスさ」


 男神は名乗った。


 「『進軍する者』軍神マレアス。神王ディシウスと神王妃ユーラ神の長男だ。気軽にマレアスお兄ちゃんって、呼んでくれていいぜ? 可愛い弟よ」


 マレアス神は言った。


登場人物がほぼ兄弟姉妹というこの小説の闇

だいたい、ディシウス神が悪い


さすがにこれ以降は更新速度が下がります

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