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第13話 女神様は太陽を脅す

 「……アレクサンドラお姉様が行方不明?」

 「そうなんだよ。今は国を挙げての大捜索中だ」


 レオニダスがアレクサンドラが登校してこなかった理由を、ティシアにそう説明した。

 レオニダスはとても心配そうな表情を浮かべている。


 それもそうだろう。

 一緒に育ってきた姉、ないしは妹が行方不明なのだから。

 

 半神は確かに不死性を持つが、神とは違い死ぬこともある。


 「……どこにもいないの?」

 「ああ。一つ分かっていることは……バルコニーのドアが開いていた、ということだ。アレクサンドラの奴が飛び降りたか、何者かがバルコニーから侵入して誘拐したか……でも、アレクサンドラを誘拐できる奴なんて、そうそういないだろ? 多分、自分で勝手にどこかに行ったんだと思う。まあ、そのうち帰ってくるだろう……」


 まるで自分に言い聞かせるようにレオニダスは言った。

 ティシアは眉を顰める。


 (……まさか)


 あの強姦魔の息子め、アレクサンドラを誘拐したのではあるまいな?

 

 ティシアは自分自身も強姦魔の娘であることを棚に上げて、ポーロワ神を疑った。

 とにかく、調べてみる必要がある。


 「レオニダスお兄様。私、早退するね」

 「え? さ、探しに行くのか?」

 「……体調が優れないんだよ」


 半神が体調を崩すなど、基本的にはあり得ない。 

 つまり仮病であることは簡単に分かる。


 「待ってくれ、俺も行く」

 「アレクサンドラお姉様が帰ってきたときに、迎える人がいないと困るでしょう? 取り敢えず、お兄様はここにいて」


 ティシアの言葉を聞いたレオニダスは立ち止まったが……

 しかし不服そうな表情を浮かべていた。


 「レオニダス様」


 リコリスはレオニダスの袖を掴む。

 レオニダスは悔しそうな表情を浮かべた。


 「……俺がいると、足手纏いか?」

 「そこまでは言わないよ。探すだけだしね」

 

 ティシアとして、捜索するのであれば人手が多い方が助かる。

 だが……ティシアは「アルティシーナ」として、この件を解決しようと考えていた。


 本当にポーロワ神が、神が関わっているようであれば、「普通の女の子」の出番ではない。

 必要なのは対等の女神、アルティシーナ神である。


 将来的に正体を明かすこともあるのかもしれない。

 しかし少なくとも、今はその時ではないとティシアは考えていた。


 レオニダスがいるとティシアはアルティシーナへと、変身ができないのだ。


 「でも入れ違いになるかもしれない。だからお兄様とリコリスには、取り敢えず学校で待っていて欲しい。大丈夫、今日中には戻るよ」


 ティシアがそう言うと、レオニダスは納得したのか、頷いた。


 「……分かった。俺は俺にできることをする。アレクサンドラを待つよ……ティシア、よろしく頼む」

 

 レオニダスは頭を下げた。

 ティシアは小さく頷く。


 「ティシア」

 「何? リコリス」

 「……私、アルティシーナ様に祈っておくね」


 ティシアは何とも言えない表情を浮かべて頷いた。


 「う、うん……よろしく」


 ……やはりリコリスには正体がバレているのだろうか?

 ティシアは不安になった。







 学校を出たティシア――アルティシーナ――は人気のないところで姿を梟へと変え、空に舞い上がった。

 そして『梟の瞳』を開き、街全体を観察する。


 「……いない」


 アルティシーナは舌打ちをした。

 そしてこの国で最も高いところ、アルティシーナ神殿の屋根の上に降り立った。

 既に変身は解いている。


 「め、女神様!!」

 「ま、まさかアルティシーナ様!?」

 

 アルティシーナの姿を見かけた神官たちが、慌てて膝を地面につき、頭を下げた。

 アルティシーナはそれを一瞥してから……指を口に咥えた。

 

 ピーッ!!!

 と、高い指笛の音が鳴り響く。


 そしてアルティシーナは空に向かって叫ぶ。


 「ペガソス!!!」


 アルティシーナの声が空に響き渡る。

 しばらくして、空から白銀に光る何かが猛スピードで降りてきた。


 アルティシーナ市の市民たちは何事かと空を見上げ、目を奪われる。

 それは銀のように煌めく美しい羽と毛並みを持った、一頭の天馬であった。


 天馬はアルティシーナのところへ一直線に向かう。

 

 「……す、凄い」

 「一生のうちにアルティシーナ様が眷属を呼ぶ姿を見ることができるなんて」


 神官たちは一生のうちに二度と見られるか分からない、天馬とアルティシーナの組み合わせをその目に焼き付けようとする。

 

 天馬、ペガソスは不機嫌そうに鼻を鳴らした。


 「何ですか、アルティシーナ様。私、夜型なのでちょっと朝は苦手で」

 「アホなことを言ってないで、背中を貸しなさい。飛びますよ」

 「あなたにアホと呼ばれるほどアホではありませんよ、アルティシーナ様」


 ぐちぐちと文句を言う眷属神の背中に、アルティシーナは強引に乗り込んだ。

 そして腹を足で蹴る。


 「さあ、飛びなさい!」

 「はあ……人使いならぬ馬使いが荒いですねぇ」


 気怠そうに天馬は空へと飛び立つ。

 口調こそ面倒くさそうだが、その飛翔速度は天空の如何なる動物にも勝る。


 空気を蹴り、風を切り裂き、雲を吹き飛ばしながら、アルティシーナとペガソスはアルティシーナ市を中心に円を描くように空を飛び、アレクサンドラとポーロワ神を捜索する。


 「こんなやり方ではいつまで経っても、見つかりませんよ?」 

 「ええい、うるさいですね……」


 アルティシーナは苛立ちを隠せない様子で舌打ちをする。

 昨日の夜、ポーロワがアレクサンドラを誘拐したとすれば……

 もはやアルティシーナ市から懸け離れたところにいるのは明白だ。


 故にアルティシーナ市を中心に円を描くように探索していては……

 いくらペガソスの飛行速度が速いと言っても、追いつくことはできないだろう。


 「不味いなぁ……アルティシーナ王国からあまり離れられると、助けられなくなる」


 神々の力は、土地に縛られる。 

 アルティシーナは、自身の信仰の総本山であるアルティシーナ王国とその周辺の諸王国では絶大な権能を発揮できる上に、その内部で発生した物事に対して優先権を持つ。


 アルティシーナがレオニダスやアレクサンドラの保護に拘るのは、彼彼女がアルティシーナのお膝元で生まれた命だからである。

 

 この二人の半神に対して、優先権を持っているのだ。


 しかしもしポーロワによってアレクサンドラがアルティシーナの支配領域から離されると……

 アルティシーナはアレクサンドラへの優先権を失う上に、もし取り返しに行ったとしても十分な力を発揮できなくなる。


 何としても、少なくともポーロワの支配領域に連れ去られる前にアレクサンドラを確保しなければならない。


 「何か、当てはないんですか?」 

 「……ない」

 「発信魔術の一つや二つ、掛けておくべきですよ。もしくは使い魔か眷属を見張りに立てて置くとか……」

 「ええい、うるさいですね!」


 アルティシーナはイライラした様子でペガソスに八つ当たりをする。

 ポカポカと頭を殴られたペガソスは、キャンキャンと悲鳴を上げた。


 「あなたも何か、考えなさい! 私の従属神でしょう?」


 「ええ……神は神でも、下等な神獣ですし。そもそもアルティシーナ様は知恵の女神でしょう? その金色に光る脳細胞で何か案を……あ、はいはい、分かりましたよ。考えますって、だから叩かないで」


 拳を振り上げたアルティシーナを見て、ペガソスは悲鳴を上げた。

 そしてしばらく考えてから提案する。


 「聞いてみるってのはどうですか?」

 「聞いてみる? 誰に」

 「現在進行形でポーロワ神の逃走を見てそうな神です。一柱、いるでしょう?」

 「そんな奴……ああ、なるほど」


 アルティシーナは満面の笑みを浮かべた。

 そしてペガソスの頭を撫でる。


 「よくやった! さすが、私の従属神です。今度、人参を上げましょう」

 「人参!? さすがアルティシーナ様、太っ腹です!」


 ペガソスは上機嫌な声を上げる。

 調子が良い主従である。

 

 さてアルティシーナはペガソスに乗ったまま、右手を伸ばし、空を掴むような動作をした。


 すると右手に黄金に光る槍が出現する。

 アルティシーナの『神器』である。


 その神槍を右手に持ち、空を……太陽を睨みつけ、アルティシーナは叫んだ。


 「話は聞いていたでしょう? この覗き魔、降りてきなさい!!」


 アルティシーナはそう叫びながら、槍を太陽に向けた。


 「さもなければ、槍を投げます」


 アルティシーナは殺気を込めながら言った。

 それから数秒後……









 





































 空から太陽が降りてきた。



※この世界の太陽は二足歩行します

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