第11話 女神様はクラブ活動に興じてみる
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「おはよう、リコリス」
「おはよう、ティシアちゃん」
ティシアがリコリスに挨拶すると、リコリスは微笑みを浮かべて挨拶を返した。
リコリスの反応が普通だったので、ティシアは内心で胸を撫で下ろした。
(良かった……バレてないみたい)
昨夜、ティシアはリコリスの枕元に立ってちょっとした説教をしたが……
その時、リコリスにティシアについて突っ込まれたのだ。
予め考えていた設定でなんとか誤魔化したが……
リコリスはどうやらドジっ子の割には勘が良いようなので、もしかしたら勘付かれたか? と内心で戦々恐々だったのだ。
「昨日の夜さ」
「どうしたの?」
「アルティシーナ神にお会いしてね」
ティシアの表情が固まった。
が、すぐに自然な表情に戻す。
「そ、そう……大丈夫だった?」
「うん。でも……凄く綺麗だった」
「ふーん」
ティシアは顔がニヤけるのを気合いで堪えて、相槌を打つ。
ティシアとリコリスが話していると……
遅れてアレクサンドラとレオニダスが登校してきた。
アレクサンドラは相変わらずの元気そうな表情を浮かべており、一方レオニダスは疲れ切った顔を浮かべている。
「おはよう! ティシアちゃん、リコリスちゃん」
「……おはよう、二人とも」
ティシアとリコリスも挨拶を返す。
リコリスは疲れ切った表情をレオニダスに対し、心配そうな表情で尋ねた。
「あの、レオニダス様。大丈夫ですか? その……昨日の怪我が治っていないのですか?」
昨日の怪我、というのはティシアにボコボコにされた時に負った傷のことである。
目立った外傷は無かったが……レオニダスは地面に叩き伏せられ、その地面は陥没した。
少なくとも普通の人間だったら、四肢がもげて爆散するレベルの攻撃をティシアはレオニダスに加えたのである。
もっともレオニダスも同様の破壊力の攻撃をティシアに行っていたのだが。
「失敬だな。私はちゃんと手加減したよ? レオニダスが死なないギリギリに調節したから」
「んー、まあ確かに死なないギリギリではあったな。全身の骨が粉々に砕けたけど」
レオニダスの言葉にリコリスは顔を真っ青にさせた。
普通なら全身の骨が粉々に砕ければ死ぬ。死ななくても長期間の療養は避けられない。
「だ、大丈夫……なのですか?」
「その怪我については、昼寝したら治ったから大丈夫だ」
「ひ、昼寝!?」
骨折って昼寝で治るものなのか?
リコリスは内心で首を傾げたが……しかしここでレオニダスが半神であることを思い出す。
条理を超越した存在である神の血が半分とはいえ、混ざっているのだ。
昼寝で治ってもおかしくはない。
「ですが、あまり元気が無さそうに見えますけど……」
「こいつ、ティシアちゃんに神性を封印して貰っているのよ」
アレクサンドラが答えた。
リコリスがティシアの方を向くと、ティシアは大きく頷いた。
「うん。私が魔術でね。ほら、体を鍛えるには負荷を掛けなきゃいけないでしょう? でも、レオニダスお兄様は生まれつき強靭な肉体を持っているからね。それこそまともにレオニダスお兄様の体を鍛えようとすれば、山脈を切り取ってこないといけない。まさか山脈を背負って登校するわけにもいかないでしょう?」
故にレオニダスの怪力を生み出している、神性そのものを封じ込んだのである。
その上でレオニダスの体に、普段よりもずっと強い負荷が生じるような呪いをかけた。
早い話、ティシアが現在自分自身に掛けているものと同様のものをレオニダスに掛けているだけである。
「こうすることでレオニダスお兄様の肉体を強化するの。やっぱり筋肉は大切だからね!」
「……いくら何でもやり過ぎだぜ、ティシア。はぁ、登校だけで疲れちまったよ」
レオニダスはそう言って椅子に座り、溜息をついた。
「私みたいな女の子に、腕相撲で負けて悔しくないの?」
ティシアがそう言うと、レオニダスはムッとした表情を浮かべた。
「……良いぜ。今に見てろ、吠え面掻かせてやる」
「ふふ、期待しているよ。頑張って!」
ティシアは嬉しそうに笑った。
少なくとも腕力と武芸だけならば、将来的にレオニダスは女神アルティシーナを超えるだけの素質があるとティシアは考えていた。
英雄を自分好みに育て上げる……考えただけで興奮する。
さて、それから何だかんだで授業が終わり……
放課後になった。
「ティシアちゃん、サークル活動とかもう決めた?」
「ううん、決めてない。でもあまり本格的なのはできないかな」
アレクサンドラの問いにティシアは首を横に振った。
現状、ティシアは喫茶店の店長に借金をしている。
その返済も兼ねて喫茶店で働く都合上、あまり時間を取るようなサークル活動はできない。
「私も。まあ時間はあるけど、本格的なのは面倒くさそうだよね」
アレクサンドラは頷いた。
ティシアとアレクサンドラが話していると、帰り支度を終えたレオニダスとリコリスが話に入り込んでくる。
「俺も決めてないわ……というか、ティシア! お前、俺に稽古つけてくれる約束だっただろ? 別にサークル活動するなとは言わないけど、俺との時間も確保してくれないと困るぞ」
「私も……アルティシーナ神殿での聖務がありますから。あまり時間は取れません」
四人ともそこまでサークル活動に熱中する気はないようだ。
まあそもそも、最初から趣味ややるべきことが決まっているのであればサークル活動など不要と言えば、不要である。
「うーん、じゃあ取り敢えず四人で回ってみる? 緩くて面白そうなのあれば、入ればいいじゃん」
ティシアが提案すると、三人はそれに納得したのか頷いた。
まず初めに四人が訪れたのは格闘サークルである。
一応、それなりに「緩い」という事前情報を得た上だった。
「ふぅ……これで全員か」
体育館の一角でレオニダスが額の汗を拭う。
床には格闘サークルのメンバーが屍のように倒れていた。……死んではいない。
「力を封じているとはいえ、やっぱりレオニダス様はお強いですね」
「そりゃあ、半神が人間に負けたら大恥でしょう」
リコリスとアレクサンドラは溜息混じりに言った。
もはや完全に道場破りならぬサークル破りである。
「うーん、ちょっと弱すぎてレオニダスの訓練にはならなそうだね」
ティシアの一言で格闘サークルは没となった。
次に訪れたのは蹴球サークルである。
布でできたボールを蹴ってゴールまで入れた側がポイントを得られるという、極めて単純なルールのゲームだ。
都市によって細かいルールは異なるが……大まかなルールは同じである。
「これで百点目!!」
ティシアがボールを蹴る。
すると無数に分裂したかのように、ボールが残像を残しながらゴールへと吸い込まれていく。
同時に試合終了のホイッスルが鳴る。
「やった!! 私の勝ち!!」
ティシアが飛び跳ねて大喜びする。
その様子を見ながら、レオニダスが苦笑いをしながら呟く。
「……チーム戦というより、完全にティシアの独壇場だったな。まさにあいつの一人勝ちだ」
アレクサンドラとリコリスも呆れ顔だ。
「途中からティシアちゃんのチームのメンバー、棒立ちで見てただけだしね」
「ティシアがあのサークルに入ったら、ボールやゴールの費用だけで潰れちゃうんじゃない?」
斯くして没になった。
その他、様々なサークルを見学したが……
主にレオニダスとティシア、アレクサンドラの身体能力や才能がぶっ飛び過ぎていた所為で尽く没となった。
「いやー、中々決まらないね」
ティシアは厨房から持ってきたケーキと紅茶を並べながら言った。
ここはティシアが働かせて貰っている喫茶店である。
もっとも、今日は出勤日ではなく……お客として来ていたが。
「もう、いっそ入らなくて良いだろ。その方が俺とティシアは組手ができる」
「あまりティシアちゃんを巻き込むのも良くないでしょ」
ティシアから師事を受けたがるレオニダスを、アレクサンドラが咎める。
ティシアにもいろいろと都合があるのだから、自分勝手な理由で拘束してはいけないとアレクサンドラが言うと、レオニダスは肩を竦めた。
「お前はどうするんだ?」
「私? うーん、面白そうなのは無かったし。面倒くさいし、良いかな。リコリスは?」
「私も別に良いです……その、こうしてお友達もできましたし」
リコリスは照れながら言った。
元々友達が作りたくてサークルに入ろうと考えていたリコリスであるが……
今まで以上にアレクサンドラやレオニダスと仲良くなれ、ティシアとも友人になれたので、心情的にはどうでもいいという気持ちが強い。
「ティシアちゃんはどう?」
「うーん、折角だから入ってみたいと思うんだけどね。なーんか、私が入っちゃうとサークルの空気が悪くなっちゃうみたいだし」
さすがのティシアもその程度の空気は読める。
四人で話をしていると、一人のウェイトレスがティシアに声を掛ける。
「あの、ティシアさん。その、店長が……」
そのウェイトレスによると、たまたま偶然に本来来るはずのウェイトレスが風邪をひいて来れなくなってしまったらしい。
その代わりとしてウェイトレスとして働いて欲しいというのが店長からの依頼だった。
店長には借りがある。
ティシアは笑顔で頷き、レオニダスたちに断ってから店の奥へ行き、ウェイトレス衣装に着替えて働き始めた。
「いらっしゃいませ、お客様……あああ!!」
「へぇ……本当にやっているとはね、アルティシーナ」
ティシア――アルティシーナ――の前に現れたのは美しい青年だった。
その青年、いや神の名は……
「『輝ける者』ポーロワ神……」
光明神ポーロワ。
ディシウスの息子であり、アルティシーナの異母兄である。




