↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪役令嬢の破滅回避に奔走していたら、忠実な護衛騎士が逃げ道を全部塞いで溺愛してきます  作者: フトダマノミコト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/20

第16話 ざまぁの結末

 王宮の大広間での断罪劇から、七日が過ぎた。


 王都は、その話題で持ちきりだった。


 王太子と聖女が、卒業パーティーの場で、公然と罪を暴かれた。


 あの夜の出来事は、一夜にして、国中を駆け巡った。




 玉座の間には、重苦しい空気が満ちていた。


 高い天井。赤い絨毯。


 玉座には、白髪の老王が、深い疲れを滲ませて座っている。


 その前に、鎖で繋がれた二人の姿があった。


 レオンハルトと、ミナ。


 つい先日まで、国の宝と讃えられていた二人は、今や、見る影もなくやつれ果てていた。


 私は、父と共に、証人席の隅に立っていた。


 傍らには、アルヴィンが、影のように控えている。


「王太子レオンハルト」


 老王の、低い声が響いた。


「そなたに、判決を下す」


 レオンハルトの肩が、びくりと跳ねた。


「公金の不正流用、偽証の教唆、無実の令嬢への冤罪の捏造。いずれも、王族として、決して許されぬ大罪である」


「父上、どうか、お慈悲を」


「黙れ」


 老王の声が、冷たく、彼を断ち切る。


「王位継承権を、完全に剥奪する。廃嫡の上、王宮から追放の身とする。以後、王家の名を名乗ることを、一切許さぬ」


「そ、そんな……!」


「さらに、流用した金貨八千枚は、全額、返済を命じる。その財源は、そなたの私財、及び、母方の領地の没収をもって、充てる」


「やめてくれ……! それでは、私には、何も……!」


「そうだ」


 老王は、冷徹に頷いた。


「何も持たぬ身になって、初めて、そなたが踏みにじった者たちの痛みが、少しは、わかるであろう」


 レオンハルトは、がくりと項垂れた。


 かつて、金色に輝いていた髪は、くすんで見えた。


 彼は、顔を上げて、すがるように、ミナを見た。


「ミナ……君だけは、私の味方だと、言ってくれ……」


「……」


 ミナは、顔を背けた。


 一度も、彼を見ようとしなかった。


「ミナ……」


「私は、あなたなんて、知りません」


 かすれた声で、そう言い放つ。


「あなたが、勝手に私を利用したんです。私は、何も……」


 その言葉に、レオンハルトの目から、最後の光が消えた。


 乾いた笑いが、唇から漏れる。


 それは、泣き声にも、嘲りにも、聞こえた。




「聖女ミナ・リーヴェ」


 老王は、続けて、ミナのほうを向いた。


「聖女の称号は、徳と清廉をもって授けられるもの。そなたの所業は、その称号にまったくふさわしくない」


 大司教が、一歩、進み出る。


「神の名のもとに、ミナ・リーヴェ嬢の聖女認定を、取り消します」


「待って! 待ってください!」


 ミナが、叫んだ。


「私には、癒しの力があるんです! あの時の奇跡は、本物でしょう!?」


「ええ。確かに、力は、本物でございました」


 大司教は、静かに首を振った。


「しかし、聖女の力は、その使い手の心の在り方に、深く左右されるもの。あなたは、その力を、他者を陥れるために用いようとした」


 彼は、懐から、小さな水晶を取り出した。


 それを、ミナの前に掲げる。


 水晶は、一瞬、淡く光ったかと思うと、次の瞬間、すうっと色を失って、灰色に濁った。


「ご覧なさい。もう、あなたの中に、聖なる光は、ほとんど残っておりません」


「そんな……! 嘘……!」


 ミナは、自分の両手を見つめた。


 震える指先から、何かが、さらさらと零れ落ちていくように、力が抜けていく。


 大司教が、枯れかけた白い花を一輪、彼女の前に差し出した。


 ミナは、慌てて目を閉じて、念じる。


 けれど、何も起こらない。


 白い花は、しおれたまま、一枚、花びらを落とした。


「どうして……どうして、何も……」


「ミナ・リーヴェ。そなたには、北の果ての、戒律の厳しい修道院にて、終生の奉仕を命ずる」


 老王の宣告が、玉座の間に響いた。


「そこで、己の罪と向き合うがよい」


「いや……いやです! あんな寒いところ、嫌! 誰か、助けて!」


 ミナの叫び声が、虚しく響き渡る。


 けれど、誰一人として、彼女のために、動く者はいなかった。


 かつて、彼女を取り巻き、持て囃していた貴族たちは、皆、視線を逸らしていた。


 リーヴェ男爵家も、爵位を剥奪された。


 彼女を助けようとする者は、もう、どこにも残っていなかった。




 二人が、騎士たちに連行されていく。


 扉が、重々しい音を立てて閉まった。


 玉座の間に、ようやく、静寂が戻る。


「ローゼンベルク公爵」


 老王が、父に向き直った。


「そなたの娘には、このような濡れ衣を着せ、辛い思いをさせた。王家として、深く詫びる」


「もったいなきお言葉でございます」


 父が、深く頭を下げた。


「婚約は、王家の有責により、破棄とする。ローゼンベルク家には、補償と名誉の回復を約束しよう」


 老王の視線が、ふっと、私のほうへ向けられた。


「セレスティア嬢。そなたは、よく耐えた」


「……恐れ入ります、陛下」


 私は、深く頭を下げた。


 けれど、胸の内は、驚くほど静かだった。


 喜びも、達成感も、なかった。


 ただ、長い夢から覚めたあとのような、空っぽの感覚だけが、そこにあった。




 謁見を終えて、王宮の長い廊下を歩く。


 父は、先に帰途についていた。


 去り際に、彼は、私を一度だけ振り向いて、ぎこちなく言った。


「……すまなかった」


 それだけだった。


 私は、何も答えられなかった。


 今さら、と思う気持ちと、それでも、少しだけ救われたような気持ちが、胸の中で入り混じっていた。


 廊下の窓から、夕日が差し込んでいる。


 橙色の光が、床に長い影を落としていた。


 その影が、もう一つ、私の影に重なった。


「お嬢様」


 アルヴィンが、隣を歩いていた。


「お疲れでしょう。お屋敷に戻って、ゆっくりお休みください」


「……ええ」


 私は、足を止めた。


 窓の外を見ながら、ぽつりと、口を開く。


「ねえ、アルヴィン」


「はい」


「あなたは、どうして、あんなにも準備ができていたの」


 夕日の中で、彼の横顔が、わずかに動いた。


「……お嬢様を、お守りするためです」


「いつから、用意していたの?」


「ずっと前から、です」


 淡々とした答えだった。


 けれど、その声には、不思議な静けさがあった。


「ずっと、前……?」


「はい」


 アルヴィンは、ゆっくりと、私のほうを向いた。


 夕日が、彼の瞳を、琥珀色に染めている。


「お嬢様。少し、お話ししたいことがあります」


 その声は、これまで聞いたどんな声よりも、穏やかで、優しくて。


 そして、どこか、決定的な何かを告げようとしているような、重みを帯びていた。


「お時間を、いただけますか」


 私は、心臓が、どくんと音を立てるのを感じた。


 勝利の余韻など、どこかへ消えてしまっていた。


 代わりに、全身を、言いようのない予感が、覆っていく。


 私は、頷いた。


 彼の瞳に映る自分の顔が、少しだけ、怯えているように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。