↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪役令嬢の破滅回避に奔走していたら、忠実な護衛騎士が逃げ道を全部塞いで溺愛してきます  作者: フトダマノミコト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/20

第11話 断罪の筋書き(アルヴィン視点)

 卒業パーティーまで、あと三日。


 その夜、学園の裏庭にある旧温室は、月の光を浴びて、青白く浮かび上がっていた。


 割れたガラス窓の向こうに、人影が二つ。


 僕は、温室裏の庭師小屋の影に身を潜めて、換気窓から漏れてくる声に耳を澄ませた。


「殿下、本当に、大丈夫なのでしょうか」


 ミナの、甘えるような声だ。


「何がだ?」


「私、少し怖くて……あんなに大勢の前で、セレスティア様を」


「怖がることはない。すべて、私が手配してある」


 レオンハルトの、自信に満ちた声。


「あの女は、君を傷つけ続けた。その罪を、公の場で裁くだけのことだ」


「ふふ……ありがとうございます、殿下」


 ミナが、くすくすと笑う。


 先ほどの怯えた声は、どこへ行ったのか。


 僕は、拳をゆっくりと握りしめた。




「それで、証拠のほうは?」


「ああ。協力者から、今朝、最後の品が届いた」


 レオンハルトが、懐から何かを取り出す気配がした。


 かちゃり、と、小さな硝子の音。


「聖女暗殺未遂の、動かぬ証拠だ。毒の入った小瓶でな。セレスティアの私室の近くから見つかったことにする」


「まあ、素晴らしい」


「それに、もう一つ」


 紙をめくる、乾いた音が続く。


「これは、あの女が、隣国の親戚に宛てて書いた手紙だ。王家への反逆を匂わせる文言がある」


「手紙……? そんなもの、いつの間に」


「協力者が、うまく手に入れてくれた」


 満足げな声が、夜気に混じる。


 僕は、思わず、唇の端を持ち上げた。




 その「協力者」とは、僕のことだ。


 正確には、僕が雇った、素性の知れない仲介人。


 三ヶ月前から、その男を通じて、王太子の側近に、少しずつ「情報」を流してきた。


『聖女様を害そうとしている者がいる』


『証拠を集めてお渡しします。見返りは不要です。ただ、正義が行われることだけを望んでいます』


 彼らは、あっさりと、それを信じた。


 自分たちに都合のいい話は、人は、疑わずに受け入れる。


 だが、彼らが「動かぬ証拠」だと思い込んでいる品々には、一つ残らず、細工が施してある。


 毒の小瓶の底。


 そこには、薄く、王家の紋章入りの封蝋の跡が、残してある。


 王太子しか使えない、特別な封蝋の跡だ。


 小瓶を届ける前に、金に困っていた側近の一人に、殿下の執務机の上で、こっそり押させておいた。


 王家への反逆を匂わせる手紙。


 その筆跡は、お嬢様のものではない。


 代筆屋に書かせる時、手本として渡したのは、ミナの筆記帳の写しだ。


 注意深く見れば、癖がそっくり同じだと、誰にでもわかる。


 目撃者として用意された令嬢たちは、全員、ミナの実家から金を受け取った記録が残っている。


 彼らは、自分たちで握りしめた縄で、自分たちの首を絞めようとしている。


 それも、卒業パーティーの、一番華やかな舞台の上で。




「では、当日の段取りを確認しよう」


 レオンハルトが、温室の中を歩き回る足音。


「パーティーの中盤、私が、壇上でセレスティアを呼び出す」


「はい」


「そこで、婚約破棄を宣言する。罪状は三つだ。聖女への継続的な嫌がらせ。聖女の暗殺未遂。そして、王家への反逆の疑い」


「あの人は、きっと、否定するでしょうね」


「当然だ。だが、証拠と証言が揃っている。反論の余地は、ない」


「ふふ、楽しみ」


 ミナの笑い声が、夜の静寂に響く。


「あの人が、青ざめて、膝をつくところ。ずっと、見たかったんです」


「ミナ」


「だって、あの人、いつもいい子ぶって、私に優しくするんですもの。見ているだけで、腹が立つの」


 その瞬間。


 僕の中で、何かが、静かに切れた。


 ああ、やはり。


 この女は、お嬢様の優しさを、すべて、悪意で受け取っていたのだ。


 小屋の壁に、爪が食い込む。


 飛び出して、その首を握りつぶしてやりたい。


 けれど、まだだ。


 まだ、足りない。


 あの舞台の上で、彼らが自ら、罪を口にするまでは。




 二人が去ったあと、僕は、闇の中から、ゆっくりと立ち上がった。


 足元には、冷たい土の匂い。


 空には、満ちかけた月。


 懐から、小さな封筒を取り出す。


 中には、騎士団長と大司教に宛てた、書簡の写しが入っている。


 王太子の公金流用の帳簿。


 ミナの嫌がらせの記録。


 そして、今夜の、温室での会話を書き起こしたもの。


 二人には、すでに、先日の面会で証拠の大半を見せてある。


『卒業パーティーの当日、会場の端で、事態を見届けていただきたい』


 騎士団長は、険しい顔で頷いた。


 大司教は、静かに目を伏せて、「真実が、明らかになるのであれば」と答えた。


 舞台は、整った。


 あとは、幕が上がるのを、待つだけだ。


「お嬢様」


 空に向かって、囁く。


「あなたは、何も知らないまま、舞台の上に立ってください」


 夜風が、僕の髪を揺らした。


「全部が終わった後に、あなたが、頼れる唯一の相手が、僕だけになるように」


 その声は、愛の言葉のように甘く、そして、檻の鍵のように、冷たかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。