第9章:不本意な魔法決闘と「不動明王」の戦術
レンの部屋の壁に空いた穴を魔法職人に修理してもらう間もなく、とんでもないトラブルが降りかかってきた。
学園の中庭にある巨大な魔力結晶の掲示板が光り輝いている。そこには、生徒会と「旧生徒会」――クレアを失脚させようと目論む保守派の貴族グループ――との親善試合の先鋒として、レンの名前が堂々と刻まれていた。
「ミオネ!! これは一体どういうことだ?!」
レンは机を叩き、鋭い「悪役」のような眼差しで獣人の少女を睨みつけた。
ミオネは尻尾をビクッとさせ、引きつった笑顔で両手を合わせて懇願する。
「レン様、怒らないでください! 上級生たちが、『生徒会が負けたら今年の予算を50%削る』なんて言ってきたんです! お金が惜しくて、つい魔が差してレン様を『秘密兵器』として登録しちゃいました……。安心してください、この試合の賞金は3割お渡ししますから!」
「金なんていらん! 俺は魔法なんて使えないんだぞ!」
レンは心の中で叫んだが、顔の筋肉は固まり、冷酷で謎めいた笑みを浮かべることしかできなかった。
隣で腕組みをしていたクレアは、金色のツインテールを揺らしながら、レンを崇拝するような眼差しで言った。
「もう実力を隠さなくていいわよ、レン。相手を罠にかけるために弱そうなフリをしているんでしょう? この試合、この私が特別に、あの『花柄のパンツ』のパワーを10%解放することを許可するわ!」
シルヴィアも静かに短剣を抜き、氷のような表情で告げる。「私が先陣を切って掃討しておきます。レン様は後方で、その精神を圧倒する眼差しを向けているだけでいいのです」
さらにルミナリアまで現れ、杖を握りしめて言った。「光の教会があなたに最高の加護を授けます。神聖なる力を見せつけてやりなさい、レン!」
レンは力なく机に突っ伏した。ハーレムの面々は頼もしいが、彼女たちの「脳内変換」が自分を確実に死へと追い込んでいる。
午後、学園のコロシアム。
観客席は数千人の生徒で埋め尽くされ、歓声が轟いている。今回の対決相手はギデオン(17歳)――人間とオークのハーフで、脳筋として有名であり、強力な「岩石系」の魔法を纏う猛者だった。
「あの黒髪の新入りはどこだ?! 出てこい!」
ギデオンは巨大な石の大剣を担ぎ、中庭を震わせるほどの怒号を上げた。
レンがフィールドに足を踏み入れる。制服は整えているが、中には願掛けの「ひまわり柄のパンツ」を履いている。体からは魔力の欠片も感じられず、手はズボンのポケットに突っ込んだまま、ゆっくりと歩を進める。
(どうすればいいんだ? 逃げたら恥だし、あいつの攻撃を一発でも食らえばこの世とサヨナラだ……)
あまりの恐怖に足が震えたレンは、仕方なくその場に立ち尽くし、逃げ道を探そうとギデオンを睨みつけた。
パッシブスキル「神秘のオーラ」、出力200%発動。
数千人の観客とギデオンの目には、構えもせず、防御魔法さえ展開せず、ただ冷徹に相手を見下ろすレンの姿が、「絶対的達人」の風格として映った。それは、岩石魔法による一撃を完全に無視する者だけが持つ余裕のように見えたのだ。
「俺を侮るのか?! 死ねぇ!!」
激昂したギデオンが突進し、千斤の重圧を込めた大剣がレンの頭上へ振り下ろされる。
舞い上がる土煙に目が眩み、レンは反射的に目を固く閉じた。
ドォォォォン!!!!
石の大剣はレンの肩をわずか1センチの差で逸れ、地面に突き刺さって深い穴を開けた。ギデオンが外した理由は、突進の際、レンの「恐怖を感じさせない静かな瞳」を見て精神的に崩壊し、手が震えて照準が狂ったからだった。
土煙が収まる。レンはゆっくりと目を開けた。そこには傷一つ負わず、仁王立ちするレンの姿があった(実際は土埃で咳き込むのを必死に耐えているだけである)。
ギデオンは地面に突き刺さった自分の剣と、レンを交互に見た。そしてガタガタと膝をつき、顔面蒼白になりながら勝手に妄想を膨らませた。
「あの男……避けることさえしなかった! 俺の剣筋をミリ単位で計算し尽くしているんだ! 一歩でもズレれば俺が負けていた……これが最高位の『心眼』か! 俺と奴の間には、埋められないほどの絶望的な実力差があるんだ!」
「わ、私が負けだ!」
ギデオンは剣を放り投げ、頭を抱えて叫ぶと、あまりのプレッシャーに耐えかねて昏倒した。
会場が3秒間沈黙し、次の瞬間、雷鳴のような歓声が爆発した。
「なんてことだ! レン様が勝ったぞ! 指一本触れずに!」
「生徒会の『不動明王』! あいつ、強すぎる!!」
観客席のクレアは興奮で顔を赤らめ、「見た!? 私の助手は無敵なのよ!」と叫ぶ。
シルヴィアとルミナリアは胸を抑え、目を輝かせている。ミオネはガハハと笑いながら、全校生徒から集めた賭け金を袋に詰め込んでいた。
レンはフィールドの中央で、足元で泣き崩れる巨大なオークと、制服の裾からチラリと覗くひまわり柄のパンツを見つめ、力なく呟いた。
「えっ? こいつ、頭でも打ったのか? 命乞いなんてまだしてないんだけど……。この世界、一体全体どうなってるんだよ!?」




