表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第三章 英霊たちとの邂逅――だが、哲理に付き合っている暇はない

引き続きお楽しみください。よろしくお願いいたします。

「ここが賢哲聖堡ノビレ・カステッロか」


青翠たる緑地を歩みながら、聖騎士は顔を上げて深く息を吸い込んだ。ここの空気はひときわ清浄で、神聖な力がこの地を守護しているかのようだ。


「お迎えが遅れました、聖騎士殿」


(「いつ声が?」)


聖騎士が周囲を見渡すと、荘厳な城門の前に、長袍を纏った銀髪の男が立っていた。


「ウェルギリウスか。その名は聞いている」


---


(賢哲聖堡・城内)


ウェルギリウスに城内へ案内された聖騎士は、多くの賢者たちと対面した。彼らは皆、ゆったりとした亜麻布の長袍を身にまとっている。


「ウェルギリウス、そちらが天から遣わされた天使か?」


「その通りだ。紹介しよう。神の命を受け、地獄の悪魔たちを掃討せんと降り立った聖騎士殿だ」


ウェルギリウスは横に立ち、穏やかな表情で聖騎士を見た。


「ところで、聖騎士殿。貴殿の御名は?」


「ローラン」


「シャルルマーニュ大帝麾下の十二聖騎士の首座、聖騎士ローランか?!」


「まさか、貴殿であられたとは」ウェルギリウスも一瞬驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻した。「今日お目にかかれ、誠に光栄に存じます」


「では、なぜ至福の園から林勃の地へと降り立たれたのです?」賢者の一人が問うた。


「ふっ」聖騎士が首を振ると、賢者たちは訝しんだ。


「聖ミカエル、ガブリエル、ケルビム――彼らには会ったことがある。神にも謁見した。だが、永遠の至福を得たことなど、一度もない」


「なるほど」ウェルギリウスは眉をひそめ、賢者たちに向かって左腕を掲げた。「彼はローラン騎士ではない」


「なっ!」


「そうだ。ただの冗談だ」聖騎士は反応した者たちを見渡して続けた。「ローランは私が敬う人物の一人だ。外見から見ても、私が彼でないことは分かるはずだ」


「確かに」長い髭を蓄えた賢者が言った。「貴殿は色褪せぬ聖光の戦袍を纏っておらず、聖剣デュランダルも携えておられぬ」


「正直に申せば、私は名もなき騎士だ。そして凡人ではなく、天上から化身として降りた存在でもある」


「これは!」


ウェルギリウスはその言葉を聞き、内心で尊敬の念を抱いた。天使でありながら彼らを茶化すとは、心根の優しい人物に違いない。


「ならば、私が一つの名を贈りましょう。そうすれば他者も呼びやすくなりましょう」


「不要だ」聖騎士は首を振った。「名があれば、呼び回される。面倒だ」


「なるほど。では無理には申しません。『聖騎士』とお呼びするのがよろしいか?」


「それで構わない」


聖騎士とウェルギリウスは賢者たちに別れを告げ、城内へと進んだ。二人が古ローマの神殿列柱を歩いていると、遠くから低く継続的な「ゴオォ――ン」という共鳴音が響いてきた。


「おい、ウェルギリウス。客が来たなら、なぜ事前に知らせぬ?」


その声の主は、廊下の向こう側、凱旋門から現れた。


月桂冠が灰金色の短髪を斜めに押さえている。冠は純金を極薄の葉状に打ち延ばしたもので、幾重にも重なり、縁は微かに巻いている。何枚かは眉先に垂れ、額に細かな影を落としていた。葉の裏面には極細のラテン銘文が刻まれ、歩くたびに風鈴よりも低い音を立てる。その隙間からは、何本かの髪が蓬と飛び出し、耳の横で跳ねていた。


緋色のパルダメントゥム(将軍外套)が左肩から垂れ、厚手の羊毛布は足首近くまで届いている。歩くたびに外套の内側からは深紫色の縁取りが覗いた。右肩の甲葉は外套に覆われ、露出した左肩には金メッキの胸甲が据えられている。そこには筋肉の線をなぞるような浮き彫りが自身の体格と重なり――まるで鎧そのものが呼吸しているかのようだ。しかし、本当に息を呑むのは、月桂冠の陰から持ち上げられたその双眸だった。琥珀色の瞳には、細かな金色の沈殿物が揺らめき、あたかも溶けた陽光が半透明の宝石に封じ込められたかのようだ。


「おや、独裁官。今日も城内の巡視か?」


「ああ」カエサルは手にしたローマ短剣を収め、その姿は堂々として雄々しい。「そちらは?」


「天より遣わされた聖騎士殿だ」


「どうやら、かなりの手練れのようだな?」カエサルは微笑みながら近づいた。「私はガイウス・ユリウス・カエサル。ローマの執政官であり独裁官だ」


「それは今からどれほど昔の話だ?」ウェルギリウスが口を挟む。


「ちっ。今でも私の末裔たちは『カエサル大帝』と呼んでおるぞ」カエサルはウェルギリウスに舌打ちを返し、聖騎士へと向き直った。「名を何という?」


「名はない」


「ならば、神遣い(かみつかい)と呼ぼう」


「私は神の命を受け、地獄の乱れを鎮めるために来た」


「ユピテルの使いが、いつから鉄甲を着るようになった?」カエサルは軽く笑い、すぐに口元を引き締めた。


「おい、カエサル」ウェルギリウスが横から口を出す。「聖騎士殿に無礼であろう」


「構わない」聖騎士は髭のない顎を撫でた。「不意に訪れたのはこちらだ。それに、諸君に教えを乞う必要もある」


「おや? 神遣いがそこまで寛大とは、失礼を詫びよう」カエサルは微笑み、二人を前方の広間へと導いた。「詳しい話は、そこでお聞かせ願おう」


「行くとするか」ウェルギリウスがため息をついた。「ダンテ以来、我々を訪れる者などほとんどおらぬのだ」


---


(「アケローン」の橋)


「くそっ……あの野郎、いつになったら来るんだ!」


吊橋の前に立つアンドラスは、地面に突き立てた鎖鎌の柄頭を左手の人差し指で回しながら、右手は橋の欄干に凭れていた。その怪力ゆえ、欄干はすでに一箇所歪み、吊橋全体が微かに揺れている。


「組長、今日もあの聖騎士は来ませんでした。まだこの橋を守り続ける必要が?」


「ん?」


アンドラスは見下ろすように、黒鉄の胸甲を着けた魔蝙蝠の斥候兵を睨みつけ、鎖鎌を持ち上げた。


「も、申し訳ございません、組長――」


「死ね!」アンドラスはその場から前方へ一振り。刃が空気を裂くや否や、白い衝撃波が刀先から炸裂し、扇状に押し広がった。その衝撃波が山体に当たると、岩石は砕けることなく、整然とずれていった。一刀――赤い山脈が真っ二つに断ち切られた。三秒後、切断面から崩落が始まり、轟音が大地を震わせた。


「うう~」魔兵は翼を縮めて地面に伏せる。他の魔兵たちも、この突然の振動に足元をふらつかせた。


「お前に、あいつがいつここへ来るか分かるのか?」


「わ、わかりません」


「なら、何を言ってやがる?! このクソ野郎」アンドラスは鎖鎌を地面に叩きつけ、その重みがアケローン橋をさらに揺るがせた。


「うううううっ!」魔蝙蝠は両膝をつき、アンドラスに額を擦り付けた。「お言葉を返すようで恐れ入ります。どうかお命ばかりは――」


「この腑抜けが。お前を殺したところで何になる?」アンドラスは鼻を鳴らし、鷲のような眉をひそめた。「俺が一刻も早くこの任務を終わらせたくないと思っているとでも? こんな場所に長く立たせやがって、ろくな相手にも出会えずにいるんだぞ!!」


(「アンドラス、その物言いは八つ当たりに聞こえるわよ~」)


「えっ?!」


「どうしたんです、組長?」魔蝙蝠が顔を上げる。


「……何でもない」アンドラスは声を潜めて言った。


(「サタン様、先ほどは失言でした。どうかお許しを」)


(「分かっている。お前は故意ではない。奴を見かけたら、即座に始末しなさい。時間を稼げば稼ぐほど、戦局は奴にとって有利になる」)


「要するに、あの野郎を殺せばそれでいいんだろ!」


---


(悪魔王宮)


(「細部を見落とせば、結局は奴の手に敗れるわよ~」)


サタンは悪魔王宮の円卓に座っていた。そこには、地獄九層の領域を統べる女悪魔領主たちが集まっている。


「さて、諸君。アンドラスが戻るまでの間、聖騎士への対処について、共同計画を練るとしよう」

この小説、ダンテの『神曲』からいろいろと影響を受けています。あらためて、先人の偉大さに感謝。(ぺこり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ