第二十話 三対一の戦局――『世人之書』とはいったい何なのか?
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【聖光裁決・波】
聖騎士が円環の光刃を放つと、ファウストは逆手に持った闘牛剣で聖剣の刃を受け止め、同時に左手でアンドラスの短刀を挟み込んだ。
(「どうやって……?」)
【ライプツィヒ】
ファウストの頬の聖火の薔薇の紋章が輝くと、聖騎士の聖剣とアンドラスの短刀が激しくぶつかり合った。二人が幾度か刃を交わした後、聖騎士は違和感に気づいた。
「止まれ!」
(「さっきのは幻覚か?」)
「このクズ野郎!」
【黒霧】
「失礼ながら、アンドラス様」ファウストはポケットからハンカチを取り出して闘牛剣を拭きながら、悠然とした口調で言った。「はっきり申し上げましょう。もし旧交がなければ、サタン王はあなたをこの領主の座に置きはしなかったでしょう」
「死ね――!」アンドラスはファウストの目前へ瞬時に移動し、短刀と闘牛剣が火花を散らす。「この欲深い虫けらめ。天使にも見放されたわけだ!」
「ここでは私は人間だ。思う存分、人間として振る舞える!」ファウストは素早く刃を引き抜き、一瞬のうちにアンドラスの身体に幾つもの穴を穿った。
【聖斥・聚】
「面白い」
ファウストは血の付いた闘牛剣を引き抜き、軽薄な目でアンドラスの流血する胸を見つめた。
(「すべてが異常すぎる」)
「そうだ、聖騎士殿」ファウストは再びハンカチで闘牛剣を拭きながら、高らかに聖騎士に向かって言った。「どうやらあなたは地獄のあらゆる変化に、不可思議さを感じているようだな?」
聖騎士は何も言わず、ただじっと彼を見つめた。
「どうやらサタン王のあの強力な魔書をご存じないようだな~だが、あなたはここまでだ」
【聖拳】
【マザーランド】
ファウストが胸元から迷彩色の魔鍵を取り出すと、地獄には属さない虚無の入り口が現れた。聖騎士は距離が近すぎたため、その虚無の中へ吸い込まれた。
「ここはどこだ?」
聖騎士は目まぐるしく変わる環境を見渡し、行く先を見失った。一方、別の場所ではファウストがアンドラスに幾度もの深手を負わせ、彼女をよろめかせていた。
「【黒鎖】がなければ、あなたは何もできない」ファウストは闘牛剣の血を雑草に振り払い、鋭い目でアンドラスを見据えた。「サタン王が『世人之書』を使えば、あなたの死は確定され、覆しようがない!」
「誰がお前ごときの虫けらに殺されるか! 私はお前のように安売りはしないぞ!」
大木の陰に隠れたヒルドは「雷風剣」を叩き、その中で眠る雷竜を呼び覚まそうとした。すると、思いがけず雷竜が目を覚ました。
「小僧、我を呼び起こして何用だ――」
「雷竜様、助けてください!」ヒルドは雷風剣を木の陰から差し出し、雷竜に戦況を確認させた。「聖騎士様があの変な奴にどこかへ消されました……」
「我は起きたばかりだ。お前の状況など知る由もないぞ」
ヒルドが顔を上げると、アンドラスは次第に劣勢に立たされていた。ファウストは無傷で、連続する刺突と斬撃が彼女を怒り狂わせていた。
「逃げるなよ、雑種!」
「私はここに立ったままですよ、アンドラス様」
ファウストはその場に立ち、片手で剣を操るだけでアンドラスの猛攻を次々と弾き返した。
(「どうすれば……?!」)
ヒルドは必死に考え、ふと聖騎士が自分を地獄へ連れてきた場面を思い出した。聖騎士が情報を自分に伝えられたなら、自分も情報を雷竜に伝えられるはずだ!
【心隙窥人】
「失敗した――?!」
……………
「ぐっ!」
アンドラスが黒森林の中へ撃ち飛ばされた時、ファウストは追撃を仕掛けた。彼は空中に舞い上がり、アンドラスに風刃を浴びせ、その鉄甲を粉々に砕いた。
(「駄目だ……」)
ヒルドは再び試みたが、やはりうまくいかなかった。
(「目で追えなければ、目を閉じて音を聞け」)
カエサルの言葉がヒルドの脳裏に浮かび、彼は目を閉じてみた。
(「こ、これは……?」)
「どうやら魔力の軌跡が見え始めたようだな、小僧」雷竜が彼の耳元で囁いた。「お前は体内に蓄えられる魔力が少なすぎる。だが、そのおかげで魔力の流れをより鮮明に感じ取れるのだ」
(「あれは――!」)
ヒルドは闇の中で、二つの強大な魔力の衝突を感じ取った。一方は激しくぶつかっているが、もう一方はそれを見事にかわしている。
(「なるほど、幻覚を使っているのか?!」)
「これで終わりだ!」ファウストはアンドラスの身体を無数の穴だらけにした後、闘牛剣を掲げ、真っ直ぐに斬り下ろした。
【神流・雷轟電爍】
予想外の出来事が起きた。目を見開いたヒルドはファウストの魂の集中点を捉え、両手で握りしめた雷風剣を外へ向けて振るった――轟く巨雷がファウストの頭上に落ちた。
「隙あり――!」
ファウストが雷撃で動きを封じられた隙に、アンドラスは魔力を短刀に集中させ、ファウストの胸を目掛けて思い切り斬りつけた。
「おりゃああああ――――」
ファウストは撃ち飛ばされ、その勢いで数十本の黒木をなぎ倒した。彼の意識が一瞬途絶えたその瞬間、聖騎士が虚無の間から平地へと跳び戻った。
「戻ったのか?」
「聖騎士様!」ヒルドが駆け寄り、状況を説明した。「あの男、幻術を使ってます!」
(「なるほど。幻術で視覚的に攻撃距離を誤認させていたのか」)
「あいつは姿が定まらない。唯一の方法は動きを封じることだ」
「分かりました、聖騎士様」聖騎士は聖剣を呼び出し、刃に魔力の薄膜を張った。「まずはアンドラスを助けに行け。周囲から魔物が現れないとも限らん」
「でも――」
ヒルドは一瞬躊躇し、自分の胸を押さえた。
(「くそ……急に胸が痛む」)
【聖愈】
「あいつが鍵を出した時、もう一度あの技を試してみろ」
「わ、分かりました……」
聖騎士が構えを取り、前方へ瞬時に移動した。ファウストがようやく体勢を立て直したその時、聖騎士は聖剣を彼のこめかみに振り抜いた。
【ライプツィヒ!】
【聖斥】
聖剣とファウストの頭部は紙一重。聖騎士はさらに左拳を振るい、ファウストの右後頭部を打った。
「やはりな。お前は実際には右に首を振ったが、俺には左に刃をすり抜けているように見えた――視覚幻術。その小細工はここまでだ!」
【聖拳】
聖騎士の強烈な一撃により、ファウストの頭蓋骨は陥没し、そのまま地面に叩きつけられた。
(「幸い、俺は剣身に【聖斥】を張り、彼の頭を左側に反発させた。もしそれが彼の本当の身体の位置なら、幻術も解けるはずだ」)
ファウストが突如起き上がり攻撃を仕掛けるが、すべて聖騎士に防がれる。彼の七竈から血が流れており、あの【聖拳】を受けた後はもはや消耗しきっていた。
【マザーランド】
【神流・雷轟電爍】
ファウストが胸元から魔鍵を抜き出す前に、聖騎士は素早く彼の左手を斬り落とした。
「くそっ!」ファウストは地面に崩れ落ち、血を吐いた。「私を倒したところで、どうなるというのだ?」
「お前が言っていた魔書とは、何だ?」
「ふん……天使でありながら、『世人之書』も知らぬとは。天使として、この私ほどの知識も持ち合わせていないのか?」
「『人間は奮闘するときに迷うものだ』――お前が言った言葉を借りる。私はまだ奮闘している。知らなくて当然だ」
「戯言を……」ファウストの頭頂からも血が滲み出ていたが、それでも彼は胸を張り、虚勢を張った。「『世人之書』はこの地獄では誰もが知っている。お前が天使ですら無い異端者でない限りはな」
(「…………」)
「そうだ。私は異端者だ」
「何?」
「天使でありながら、全ての能力を捨てて地獄で苦しみを選ぶ者など、確かに異端者だ。しかし、だからこそ地獄に来てお前たちを救済できるのだ」
「何を言っている――」
「ファウスト!」聖騎士はファウストの襟を掴み、厳しく問い詰めた。「お前もまた人間の異端者だ。理想の欲望のために魂を悪魔に売った――しかし私が知っているファウストは、欲望のためだけに天使を裏切るような男ではない!」
「お前――!」
ファウストはその正義感あふれる言葉を前に苦悶の表情を浮かべ、口元を髭の端まで引きつらせた。この異端者がそんなにも無知であれば、彼の内に怒りが湧き上がる――無知に対する怒りだ!
「『世人之書』のおかげで、私は人間性という檻から解き放たれたのだ! メフィストと共に天使を退けた。それだけで私はより高みに達した証拠だ」
「違う。お前はただ落ちただけだ」
「何の権利があって私の努力を否定する――」
「メフィストとお前が天使を退けたのではない。お前の自堕落が、あの天使を完全に失望させただけだ」
ファウストは目を見開き、眉をひそめた。
(「やっと見えた!」)聖騎士は頭の中で髭のない顎を撫でるように考えた。
「『世人之書』の真実を教えてやろう――」
(「だが、これは推測だ」)
「『世人之書』は、お前が天国に昇るという事実を書き換えただけだ! メフィストがサタンに何かを願い、お前の結末を変えさせたのだろう!」
「このクズ野郎……」
(「果たして、そうなのか?」)
聖騎士は再び左拳を上げ、ファウストの腹部に叩き込んだ。
「ぐはっ!」
「やはりな。七つの大罪が九つになった。ミノタウロス、メフィスト、そしてヒルドの出現――すべてあの本が引き起こしたのだ!」
(「当たったようだな~」)
『世人之書』
『世人之書』――それは、人間界の古典文学の内容を書き換え、その改変を地獄の現実に反映させる宝物である。『ファウスト』、『神話大全』、『神曲』、『ビンスフェルト悪魔論』、『神学大全』……あらゆる古典文学が、サタン王の持つ『世人之書』によってその事実を書き換えられる。同時に、この名著改変の宝物は、本小説においてすでに起こった事実をも変改することができる――ただし、まだ起こっていない出来事を事前に変えるために使用することはできない。また、サタンは聖騎士が死亡した後の【回朔】の際に改変を行うこともできない――その時には彼女自身もすでに【回朔】の影響を受けているからだ。さらに、一度改変された部分は二度と修復できない――たとえ【回朔】によっても、改変された事実は変わらない。
「転ばぬ先の杖、という言葉もあるけどね~」(軽やかな口調)




