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【第二部】処刑された最強呪術師、魔法世界で異端となる 〜鬼使いと閃光の剣士〜  作者: 鬼喜怪快
序章 望遠の記憶編

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3話 ある鬼の話



 新天地を求め――

 白き鬼と黒き鬼は、人の姿で闇を歩いていた。 


 白き鬼の女は人の姿に化けた。

 黒き鬼もまた、小回りを利かせるため人に近い姿を取る。


 それでもなお、人のいない闇の道を歩いていく――。


 鬼として生まれた2体。

 生まれたばかりの頃、

 彼らはただ本能のままに生きていた。

 

 とにかく人間を食するように、脳から命令が送り続けられていたのだ。


 しかしある日、白き鬼の女はなにかの拍子で、

 人間が言葉で意思疎通を図っていることに関心を示すことになった。


 口から発する音で意思を伝え合い、

 多種多様な感情を表現していることに興味を持ったのだ。


 ――その日から。

 彼女は、人間を襲えなくなった。


 人間の方が、鬼より価値ある生き物だと――彼女は悟ってしまった。


 人に化け、人間に近づき、言葉に触れる機会を増やした。

 言葉を覚えてみれば、感情が増えた。


 そして――表情も増えた。


 この頃から彼女は――

 鬼と人の違いに興味を持ち、観察を始めた。


 

 ――――――


 

 黒き鬼は違った。

 ただ強き者と戦うことだけを生き甲斐にしていた。


 群れず、常に1体での単独行動。


 ある時、人間の村を襲う妖を始末したことで、

 村の守り神として祀り上げられたことがあった。


 そのため白き鬼の女より人間と接していた時間が多い黒き鬼だが、

 言葉には興味を持たなかったようだ。


 代わりに、黒き鬼が興味を持ったものは、火を使った食事だった。


 妖の中でも、かなり珍しい存在だった。

 食物を焼いたり煮たりして食べる鬼など聞いたことがない。


 だが黒き鬼は、村人に分けられた猪鍋や焼き魚などを好んで食べることを覚えた。


 その時からすでに彼は、妖や人間を食料として見ることはなくなっていたのだ。


 2体の旅は、互いにとって勉強になるものだった。

 白き鬼の女は黒き鬼に言葉を教え、

 黒き鬼は白き鬼の女に仕えながら――料理を振る舞った。


 

 ――――――


 

 白き鬼の女は、貴族の人間の立ち居振る舞いを好んだ。

 頻繁に人に化けては、貴族の屋敷へ侵入を繰り返し、

 人間を学ぶことにした。


 黒き鬼は、常に強き妖を求め戦いに明け暮れていた。

 たまに屋敷内へ侵入し、白き鬼の女の命令で貴族の料理を遠目に学んだりした。


 2体からすれば、それは満足のいく生活だった。


 だが――そんな生活も、長くは続かなかった。

 

 流しの呪術師や、祈祷師に鬼の存在を見破られて、

 土地を離れることもしばしばあった。


 そんな生活を何年も繰り返していると――

 2体の鬼は、巷で夫婦鬼と呼ばれ、

 人は襲わずとも恐れられる存在となっていった。


 

 ――――――


 

 「わたしたちのことを人間が夫婦鬼と呼んでいるようですよ」


 「……」


 「呼び名などどうでもいいものを……

 わたしたちは鬼、それ以上でも以下でもありません」


 「……」


 黒き鬼の狼狽ぶりを見逃さない白き鬼の女――。


 「あなた……いつになく歯切れが悪くありませんか?」


 「いやっ……うっ」


 「……もしや……あなた。

 名前が……ある?」


 「うぅ……あぁ」


 村人に祀られていたことのある黒き鬼――

 彼には人間によって名付けられた名前があったのだ。


 白き鬼の女は、大きく目を見開き尋ねた。


 「名を……申しなさい」


 黒き鬼は震えながら答えた。


 「――――」


 黒き鬼はそれから3日間、口を聞いてもらえなかったらしい……。


 

 ――――――


 

 そんな2体は、ある年の秋――

 ひょんなことから刀鍛冶の親子と出会った。


 紅葉の綺麗な山道を歩いている時のことだ。

 どこからともなく子供の泣き声が聞こえた。


 「おや……珍しい。このような場所で人間の泣き声とは……」


 「……」


 周囲を見渡すも人影は見えず、

 気にせず先を進もうとした――その時だ。


 黒き鬼が、崖の方へ指をさした。


 2体は足を進め崖下を覗き見ると、人間の女の子が倒れているのが見えた。

 足が折れ、身体を強く打ったため、肺を傷付けたのだろう。


 ――呼吸に乱れがある。


 そのため泣き声も通らないようだ。

 人の耳では、聞き取ることは難しい声であった。


 「放っておけば、日が暮れる頃には死んでいるでしょうね。

 野生動物の餌となり、大地の糧となる――放っておきましょう」


 すると黒き鬼は崖を飛び降り、少女を抱え戻ってきた。


 「キズ……の」


 「どういうつもりです?」


 「か……かい……ふくを」


 白き鬼の女はため息を吐く。


 「……あなた。人間と繋がりがあっただけに、

 見かけによらず人間が好きですよねぇ」


 「はやく……しぬ」


 「……」


 少女に手のひらを向けて妖術を唱える。


 『万回のばんかいのこく


 すると少女の傷は、塞がり始めた。

 皮膚が繋がり、骨の形も元通りになる。

 肺に刺さっていた骨も抜き取られ、呼吸が整った。


 少女は意識を取り戻しつつある。


 「これでいいのでしょう? ……行きますよ」


 「……あぁ」


 人間とは関わるまいと、

 その場を立ち去ろうとする2体。


 背を向け、少し進んだところで――

 


 「おじちゃんとお姉ちゃんが助けてくれたの?」


 白き鬼の女と黒き鬼は、少女から声をかけられた。


 振り返ると――


 少女は、怯えることもなく、

 ――ただ、笑っていた。





 


 

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