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落ち着いた頃に、数名の教師と王太子が騎士を連れて戻ってきた。
やはり王太子が避難の指示を出していたらしい。
王女がいるから戻ってきたのだろう。
マリアンナがレイスリーネの腕を治していると、王太子であろう生徒が近づいてきた。
「よくやってくれた。おかげで生徒への被害はない」
レイスリーネ達にねぎらいの言葉をかけたあと、王太子は怜悧な眼差しでまだ座り込んでいるベアトリーチェへと向き直った。
その眼差しにベアトリーチェがびくりと体を揺らす。
「やってくれたな。ここまで考えが足りないとは思わなかった」
「何のことかわからないわ」
「捕獲玉を使った生徒は拘束している。お前に指示されたそうだ」
「勝手に言ってるだけよ」
ベアトリーチェがツンと顎をそらすけれど、王太子はそれに対して鼻で笑った。
「捕獲玉はもともと魔物の素材を入れるためのものだからな。売買には必ず記録が残る」
「……うそ」
「まして魔物が入っていたなら金額も跳ね上がるだろう。お前の金の動きと捕獲玉を取り扱っている店を調べれば、すぐにどこで何をいくらで買ったかわかる。辺境と違ってここでは稀少だからな」
王太子の言葉に、ベアトリーチェは真っ青になっていた。
こんな大事になるとは思わなかったと言わんばかりだ。
「こんな騒ぎを起こすなんて、ここまでやって父上に庇ってもらえると思うな。まずは彼女の傷を癒せ」
レイスリーネを示す王太子に、ベアトリーチェは不服そうに眉を吊り上げた。
マリアンナが治してくれているけれど、まだ傷は半分ほどしか塞がっていない。
「その女がやってるじゃない」
「お前の方が力が上だ。傷が残ったらどうする」
「知らないわ。その女が勝手に戦って怪我しただけよ」
断固として拒否する姿勢にハイドラがギリと奥歯を噛みしめた。
当然だろう。
ベアトリーチェの尻ぬぐいでこうなったのだから。
「あなたという人は……!」
「お前が私の言う事を聞くというなら考えてあげるわよ」
得意気なベアトリーチェに思わずレイスリーネは半眼になった。
そんなの完全拒否である。
「いいよハイドラ。どうせ治すわけないもの」
「何ですって!」
「ハイドラの傷だってまともに治さなかった人が、私を大人しく治すわけないと言っているのです」
言い切ると、ベアトリーチェは悔しそうに歯噛みした。
どうせ中途半端に治して恩着せがましくするのだろう。
目に見えている。
そんなやりとりをしていると、マリアンナの手元から溢れる光が強くなった。
「大丈夫です! 私が跡形もなく治します。レイスリーネだって言ってたわ、やれない、出来ないじゃない、やるんだって!」
そういえば練習を始めた頃にそんなことを言った。
マリアンナもあの時より成長しているのだ。
信じて待っていると、レイスリーネの傷が塞がった頃には傷なんてなかったように滑らかな肌になっていた。
その様子に、ベアトリーチェの口元がひくりと引きつる。
「嘘よ! そんなの出来るはずがないのに」
自分と同等か上の実力がマリアンナにあるとわかったことに、その目がギラギラと剣呑になる。
そのまま王太子の指示でベアトリーチェは騎士に引き立てられていった。
マリアンナたちも生徒に合流するべく地面に座っていたのを立ち上がって歩いていく。
レイスリーネはどうしようと思っていると、ハイドラが手を差し伸べてきた。
その手を困った顔で見上げてしまう。
「どうしました?」
「最後の着地で足を思いきりグキッと」
「早く言いなさい!」
「ひゃあ」
言うなり、ハイドラに抱き上げられた。
思わず妙な悲鳴が出てしまう。
とっくに先へ行ってしまったマリアンナを追いかけるハイドラに、レイスリーネはじわりと頬が林檎のようになっていくのを自覚した。
「恥ずかしぃ~」
「二回目です」
「一回目は討伐中で訳がわからなかったもの」
「我慢してください、歩けないんですから。落ちないように腕を首にまわして」
言われたとおりにすれば、思いきり顔が近い。
目の前にあるお月様の瞳をじっと見つめて、あのねと口を開いた。
「顔、ズタズタになっても誰より可愛いって言ってくれたの嬉しかった」
「事実です」
ハッキリ言われるのがこそばゆい。
レイスリーネは吐息で笑って嬉しそうにはにかんだ。
「大好き」
控えめに囁くと、一瞬ハイドラの体が不自然に揺れた。
どうしたのかと思って顔を見ると、その美貌の頬が色づいている。
「動揺で落としてしまうかもしれないので、今はやめてください」
そんな言葉が返ってきて、レイスリーネは声を出して笑った。




