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ハイドラが上着を脱いで布を裂くと、手早くレイスリーネの腕に止血していく。
「痛みは?」
「大丈夫、いける」
「そうではありません」
「無茶はしない。ハイドラがいるから大丈夫」
断言しきると、ハイドラははあとため息を吐いた。
レイスリーネの弾丸のような性格に、止めても無駄だと思っているからだろう。
「魔力を剣に込めて、脇腹の外殻を体の中心側から切り込んでください。そうすれば簡単に剥がれます」
辺境でどれだけ知識をたくわえたのかと驚きながらも、ほんの少しだけレイスリーネは自信なさげに唇をもにょりとさせた。
「レイスリーネ?」
「まだ魔力上手く入れられないから、ちょっと自信ないや。でも何とかするから」
ごまかすように笑うと、ハイドラの手に剣を持っている手を包まれた。
ぱちりとひとつ睫毛を上下させると、ハイドラが口元をゆるりと笑みに形作る。
「大丈夫、たくさん練習したでしょう? 私の魔力の流れを思い出してください」
「ハイドラの……」
じっとその顔を見つめたあと、包まれた手を見る。
そうだ。
何度だってこの手に教えてもらった。
それを思い出してレイスリーネはきゅっと唇を引き結んだ。
「この野蛮人! さっさと倒しなさいよ」
腰を抜かしたままのベアトリーチェがわめき散らす。
その姿に冷たい眼差しがみんなから集中した。
「もとはと言えばあなたが原因じゃないですか。自分のやったことがどれだけのことか、わかっているんですか?」
「なんですって! 腕だけじゃなく、その顔ズタズタにされたらいいわ! 絶対治したりなんかしてやらないから」
ベアトリーチェがわめき散らすけれど、レイスリーネは無視してじっと大型魔物に視線を向けた。
凛と立った姿は、いっそ清廉としている。
ハイドラの前へと踏み出すと、背中越しにぽつりと呟いた。
「私の顔がズタズタになったら、婚約解消する?」
「傷があったって、あなたは誰より可愛らしいですよ」
間髪入れず返ってきた言葉は揺るぎない。
レイスリーネに嘘は言わない。
それがハイドラの以前言った言葉だ。
その言葉に満面の笑みで一度振り返ると、パールピンクを飾る髪飾りがキラリと光を弾く。
レイスリーネは剣を持つ手に力を込めて飛び出した。
大型魔物に肉薄し、再び襲ってきた四枚刃を軽やかな身のこなしで避ける。
身の軽さは自慢だ。
攻撃をよけながらじわじわと距離を詰め、一瞬の隙に刃の隙間へと飛び込んだ。
剣に一気に魔力を流し込む。
壊れない、けれど鋭い切れ味を意識して。
ハイドラの手の感触を思い出しながら、レイスリーネは指示された通りに外殻の中心に剣を突き立てた。
そのまま左へと抉り取るように剣を薙ぎ払う。
勢いよく力の限りにしたので、ぐらりと姿勢を崩した。
着地と同時に左足に痛みが入る。
内側から大型に見合った大きさの核が露出した途端、鋭い声が背後から飛んだ。
「離れて!」
その言葉に、体勢なんかめちゃくちゃのまま何とか大型魔物から距離をとる。
瞬間、圧縮された光の筋が尾を引いて核を正確に打ち抜いた。
そこにはもう核の欠片すら残っていない。
「やっぱり凄いや」
はじめて見たときも思ったけれど、魔力を圧縮なんて普通は出来ないよと笑ってしまった。




