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小型はともかく中型からは外殻が固くなっていくし、核の場所を知らないものもいる。
剣が刃こぼれすることに気をつけながら切り捨てていくなか、ハイドラの落ち着いた声が的確な核の場所を指示していく。
さすが、手記を頭に叩き込んだだけはある。
「凄い……」
マリアンナ達は呆然と縦横無尽に駆けるレイスリーネを見ていた。
動くたびにふわりふわりとパールピンクの髪が舞って、まるでダンスをしているようだ。
「なあ、核ってなんだ?」
「魔物の弱点ですよ。それを壊さないと死なないし、個体によってどこにあるかわかりません」
「お前さっきから全部の魔物に指示出してるよな」
「レイスリーネのために頭に叩き込みました」
「大好きじゃねーか」
フラップのからかいの声に、ハイドラはいたって当たり前のように「そうですよ」と頷いた。
そして残ったのは大型魔物のみだ。
以前かなわなかったものと同じ、カマキリのような姿に四枚刃の魔物だ。
レイスリーネは、じりとわずかに後退した。
この魔物には剣はほとんど通用しない。
核の場所は左わき腹。
外殻さえ剥がせば、あとはハイドラが打ち抜いてくれると確信がある。
そのためには魔力を注いだ剣で外殻を剥がさなければ駄目だ。
あとは剣が通用するように、魔力を上手く剣に通せるかどうか。
木剣よりはマシだけれど、以前の魔物狩りのときにちゃんとした剣でも試して失敗した。
(魔力ちゃんと入れられるかな。壊れる気しかしないや)
弱気になって躊躇していたときだ。
レイスリーネの後ろから何かが飛び出した。
「俺だって戦える!」
飛び出してきたのはトキーノだった。
レイスリーネ同様に教師から剣を拝借したらしい。
けれどただの剣では適わないし、そもそもトキーノは魔物を相手にすることも核の存在もわかっていないはずで、死にに行くようなものだ。
「この馬鹿!」
トキーノの剣が弾かれ体勢が崩れた瞬間、大型魔物の四枚刃がひらめいた。
トキーノに届く前に、あいだに滑り込み剣で受け止める。
「ああぅ!」
そのまま吹き飛ばされた瞬間、刃のひとつがレイスリーネの左腕を薙ぎ払った。
焼けるような熱さが前腕に走り、喉の奥から悲鳴が上がる。
吹き飛ばされたのはハイドラ達の方向だったらしく、二人はゴロゴロと地面を転がりながらみんなの場所へと後退した。
「レイスリーネ!」
ハイドラが真っ先にやってきて、顔色を見てくる。
それに何とか笑い返すと、ハイドラは苦々しい顔で血に濡れた腕を見下ろした。
「だ、誰が助けろなんて」
「あなたはレイスリーネがいなければ死んでいました。騎士を目指すなら緊急事態に自己顕示欲を出すな」
トキーノは喉を詰まらせたけれど、冷淡な声を出したハイドラはすぐに興味が無さそうにレイスリーネへと向き直った。
「早く手当を」
マリアンナの焦った声にレイスリーネがゆるりと首を振る。
「あいつ倒さないと」
にこりと微笑めば、マリアンナが泣きそうに眉を下げた。




