47
後日、ベアトリーチェは休学した。
反省を促すために一年間の軟禁状態になるらしい。
しかも反省の色が見えなければ期間延長。
王太子が国王にブチ切れたというのがもっぱらの噂だ。
ついでにこれは駄目だと思った王太后が離宮から出てきて、国王はめちゃくちゃ叱られたというのも噂のひとつだ。
王妃が帰ってきたらさらに説教されるのではというのが、ハイドラが公爵から訊いた見解である。
学園というか、レイスリーネ達にとっては平穏がやってきた状態だった。
「どう?」
ハイドラの傷跡を覗き込むマリアンナに、レイスリーネがそわそわと話しかけた。
「結構酷い痕ですね」
「やっぱり難しい?」
あの騒動でマリアンナの力はどんどん強くなっている。
本人いわく根性を入れたらコツがわかったらしい。
意外と脳筋なのかもしれない。
そんなわけでレイスリーネはハイドラの傷跡を消せないか相談してみたのだ。
再び見ても赤くひきつれていて痛々しい。
一緒にいるフラップも顔を顰めていた。
「いえ、大丈夫だと思います」
「俺が毎日練習相手になってたからな、もうどんなものでも治せるさ」
「そんな、何でもだなんて」
フラップの言葉に、マリアンナが頬に手を当ててピンクに染める。
婚約してからたびたびこういうことが起こるけれど、今は自重してほしい。
髪をかきあげているハイドラもいたたまれない表情をしている。
「イチャイチャしてもいいから、先にこっちお願いできるかな」
「「イチャイチャなんてしてない」」
二人の声は完全にハモった。
いやしてたよ。
完全にしてた。
そんな雰囲気を察したのか、気を取りなおすようにマリアンナはこほんとひとつ咳をした。
「じゃあやります」
手をかざすと、光が手から溢れてハイドラの赤い傷跡が薄くなっていくのがわかる。
それを真剣な顔で見つめていると、傷跡は影も形もなくなってしまった。
「やった、消えた」
「消えたんですか?」
喜色の声を上げると、ハイドラの不思議そうな声がする。
嬉しそうに頷くと、レイスリーネはいそいそと手鏡を差し出した。
それを手に取り、傷跡のあった部分をハイドラがまじまじと見つめる。
「本当に消えてますね」
感心した声でハイドラはマリアンナに礼を言った。
レイスリーネは大変満足そうにしている。
「綺麗に消えてよかった」
「そんなに気になるものでしたか? 髪で隠れる場所でしたが」
不思議そうなハイドラに、しかしレイスリーネはむうと唇を尖らせた。
これを言うのは大変恥ずかしい気がするけれど、訊かれてしまったのなら仕方ないとぽしょりと呟く。
「見えなくても他の女の痕跡、悔しかったの」
それにハイドラは目を丸くして、吐息で笑った。
「やっぱりあなたは可愛らしい」
恥ずかしい主張にぷいと顔を背ければ、ハイドラがそっとレイスリーネの右手を取った。
「あのとき婚約破棄をされてよかったと思っています。こんな幸せが待っていたなんて思わなかった」
じっと見上げるハイドラの瞳はキラキラしていて、いつかの夜に見上げた満月のようだった。
「私もだよ。キラキラになった目を一番近くで見られるの嬉しい。私のお月様だ」
二人で微笑みあって瞳をしんなりとやわらげていると、隣からゴホンと大きな咳が聞こえた。
ハッと我に返ってそちらを見ると、フラップ達が見ていられないとばかりに気まずそうにしている。
「自分たちもイチャイチャしてるじゃないか」
「イチャイチャなんてしてない!」
「いいえ、してますよイチャイチャ」
ハイドラにはっきり言われてしまい、レイスリーネはボンと顔に熱を上げて恥ずかしそうに両手で顔を覆った。




