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そして放課後になり、現在レイスリーネは冷や汗をかいている。
(私は馬鹿じゃなかろうか)
木剣を片手にレイスリーネはハイドラと向き合っていた。
ハイドラは気まずそうな顔をして、レイスリーネは途方にくれた顔をしている。
マリアンナはフラップと一緒に床に座っていた。
怪我をしていなくても光魔法を当てる感覚を覚えるためには、ただ魔法を出すより人にかけた方がいいらしい。
なので練習台としてフラップが名乗り出たのだ。
そんなフラップが不思議そうな顔を二人に向けた。
「辺境でもやってたんだろ?誰もいないし、いつも通りやれよ」
フラップの言うとおりだ。
ハイドラを見上げると、口元がわずかに強張っている。
おそらく自分も同じ顔をしているだろうとレイスリーネは思った。
「ええと……やれる?」
「……私は構いませんが、レイスリーネは大丈夫ですか?」
実はレイスリーネは、どうやって練習していたかすっぽり頭から抜けていた。
今あの体勢に耐えられるのかと挙動不審になりそうだ。
(いやなんか、辺境出る直前からちょっとハイドラに対して変なんだよな。やっぱりやめた方がいいかな)
しかし一人ではすぐ壊すので、木剣がいくつあっても足りない。
脳内でぐるぐる考えてから、重々しく頷いた。
「大丈夫……いつも通りやろう」
「……わかりました」
ハイドラも重々しく頷いた。
そして背を向けたレイスリーネを抱きしめるかのように、後ろから木剣を握っている手にハイドラが手を重ねる。
「きゃあっ」
「うおっ」
二人分の慌てた声にぎこちなく声の方を見ると、練習していた二人が顔を真っ赤にしていた。
「お前ら……」
「ちが、違うの」
「そうです、レイスリーネに剣に流す魔力量を伝えるためには手を重ねなければいけないんです」
「私がすぐ木剣壊すから、向かいあうのは危なくて!本当に危ないから!不可抗力だから」
慌ててまくしたてる二人に、フラップは引き気味に頷いた。
「じゃあ、仕方ないな……」
多分全員、仕方なくはないよなと思ったけれど誰も何も言わなかった。
そしてそれぞれ練習を開始する。
一度目に剣を壊したときは、体温こんなに高かったっけと思った瞬間だった。
二度目は吐息がここまで耳に近かっただろうかと、そわそわした途端。
そしてなんとか平静を保っていたけれど量を流しすぎて、パンと音を立てて三本目が壊れた。
「レイスリーネ今日はここまでにしておきましょう」
ハイドラの言葉にこくこくと頷くと、ようやく腕の中から解放された。
内心「うぅ」と疲れ切った気持ちで呻いてしまう。
なんだか自分のテンションの乱高下が激しくて、無駄に疲れた気がする。
ぐったりとしていると、そちらも練習を終えたマリアンナがレイスリーネに声をかけてきた。
「上手くいかないこともあるよね。私も放出量がなかなか上がらないけど練習あるのみだって思って頑張るわ」
「そう、そうよね!やれない、出来ないじゃない。やるのよね!」
「素晴らしい言葉だわ! 明日からも毎日頑張りましょう」
「もちろん!」
マリアンナのテンションに呼応して大きく頷きハイドラを見ると、口元に手を当てて目を斜め下に向けていた。
あれと思っていると、フラップが半眼でこちらを見ている。
「お前ら毎日あれやるのか」
そういえばそうだった。
すぐに肝心なところがすっぽ抜けるのをどうにかしたい。
思わずやっぱり、と言いかけたけれどマリアンナの期待に満ちた頑張りましょうねオーラが強すぎて、その言葉は出てこず。
「もちろんよ」
正反対の言葉を口から出していた。




