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魔物の頭が四散したのはハイドラの魔法だったらしい。
結構な威力だったのに、四散したのは頭部の半分だけ。
しかも瞬時に再生を始めた。
「待って! あいつ野放しに出来ない!」
「戻ってタッシェ様に対処してもらうのが確実な方法です。本職の狩人や騎士にまかせるべきです」
ハイドラに抱きかかえられたままの敵前逃亡に、レイスリーネは悔しさでキリッと強く唇を噛んだ。
森の出口まで来ると、ようやくハイドラは下ろしてくれた。
のろのろと自分の足で立つと、向かいあったハイドラが唸るような声を出す。
「どうして飛び出したんです」
「……」
「あなたが勇敢なのは知っています。他人をほっとけないから、あれをどうにかしようとしたことも。でも無謀と勇敢をはき違えてはいけません」
怖いくらいの低音に、レイスリーネはわずかに俯いた。
「わ、私は次期辺境伯で、だから」
「たしかに次期辺境伯です。でもあなたはまだ学園入学前の子供ですよ。私もあなたもまだ子供で、大人に頼るべき存在です」
「……そんなことハイドラに言われたくない。自分だって一人で背負い込んでたくせに」
「ええ、それが間違いだったと思っています。だからこそ今のあなたが間違っているとわかる」
ハッキリとした言葉に、言っていることはそのとおりだとレイスリーネも思う。
けれど、素直にそれを頷けるものではなかった。
「わたし、は、一人でできる。やれる。怪我なんかしたって全然平気で痕だって残っても———」
ぱちんと音がして最後まで言わせてもらえなかった。
ハイドラに頬を両手で小さく叩かれたのだ。
そのままぐいと顔を上げさせられる。
「そんな言葉二度と言うな」
敬語がとれた、なんて場違いな事が脳裏をよぎった。
見上げる瞳は冷えた満月だ。
こんな目が見たいわけじゃない。
視線を足元に向けると手を離されたので、のろのろと下を向いた。
赤い瞳がじわりと水分を増し、唇がふるふると震える。
「帰りましょう」
そのままハイドラに手を引かれて屋敷へと帰った。
部屋に戻るなり、汚れた格好もかまわずベッドへと倒れ込む。
ハイドラに言われた言葉を思い出したら、じくじくとした痛みが胸を襲った。
「……無茶だって言われても、そうやってやってきたんだもん」
両親にも次期辺境伯になるからと、女だけど鍛えられた。
強くなるのは好きだったし、性にあっていた。
上手くやれたら自信がついて、プレッシャーが軽くなった。
その繰り返し。
「怒らせちゃった」
森では我慢した涙が再び瞳に浮かんだ。
横になっているそのまま、ぎゅっと膝を抱え込む。
「呆れられちゃったかな」
すんと鼻を小さく啜った。
お月様色の瞳。
怖いと思ったのは、はじめてだった。
そのまま寝てしまい、翌朝うわあと思いながら風呂へ行ってサッパリしたときだ。
ハイドラに顔をあわせづらいから部屋にこもっていようかなと考えたところで、メイドに呼び止められた。
伝言だと言われたので、まさかと思うとハイドラから図書室で待っているというものだ。
へにょんと眉が下がったけれど、行かないという選択肢はレイスリーネのなかには無く、重い足取りで図書室へと向かった。




