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「魔物には核があるので、それを壊すと倒せるんですよね」
勉強も目途がついたので、今日はのんびりお茶をしていた。
そろそろ不可侵の森へ行こうかと、レイスリーネの躊躇もなんのそのでハイドラが確認を口にする。
「あの森の魔物は魔法耐性が高いものが多い。それに、大型の魔物になるにつれ核は固くなる。魔物によって核の場所も違いますね。そして例外なく外殻も強度が高い」
その通りだ。
レイスリーネは適切な知識にあっけにとられた。
ぽかんとした顔に、ハイドラが小さく笑う。
「歴代の当主が残した魔物に関する手記を読みました」
「いつのまに……あれ覚えても戦ってるとすっぽ抜けちゃうんだよね」
少しバツが悪そうにこたえると、ジトリとした目を向けられてしまった。
一人で行っているのがバレてしまったいま、それはハイドラ的に駄目なのだろう。
「これらは頭に叩き込みましたので、ある程度の魔物には対応可能です」
「ん……叩き込んだ?」
「ですから、その手記の内容すべてを覚えました」
「ここ最近、ずっと私と勉強してたよね。いつ読んだの?まさか無理して睡眠時間削ったんじゃ……!」
それは駄目だ。
ハイドラ健康育成計画に破綻が生じる。
思わず眉根をよせれば、まさかと否定された。
「今までの環境が悠長に時間をかけて覚えることが許されなかったので、なんとか短期間で暗記できるように試行錯誤したんです」
ハイドラの過酷な生活を思わせる言葉に、レイスリーネは大体ハイドラの過去を知るたびに思っているベアトリーチェへの悪態を喉の奥に仕舞いこんだ。
そして、感心した眼差しでハイドラを見つめる。
赤い瞳がまっすぐにハイドラを貫いた。
「今までたくさん本読んだり書いたり勉強した努力がハイドラを作ってるんだね。凄いよ。それだけ努力できるハイドラを尊敬するな」
「……あなたは私の自尊心をいつも取り戻してくれますね」
「何か言った?」
ぽつりと零された声は聞こえなかったけれど、ハイドラが気にしないでと首を振ったので気にしないことにした。
「それにしても手記の内容がすっぽ抜けるということは、今まで核の場所もわからず戦っていた、と」
「いやいや、よく戦うやつはわかってるから!」
「つまりわかるまでは魔法も使えないのに、無謀なことをしていたということですね」
藪蛇だ。
レイスリーネは空気を変えるようにパンと手を叩いてごまかした。
「でも魔法がとおりにくいから物理が一番でしょ」
「ただの剣では限界がきます。なので魔法で補いましょう。王都の騎士がやっているのですが、剣に魔力をこめて強度や切れ味を高めるんです」
「そういえば、うちもみんなやってた気がする」
再び胡乱な目を向けられたので、ぷいとそっぽを向いた。
それにハイドラが嘆息する。
「それが出来れば魔物の外殻も切れます。切れさえすれば、核を狙えます」
「でもあれ、魔力を入れすぎても少なすぎても駄目で難しいって聞いたけど……私に出来るかな」
「ええ、なので」
ハイドラはいっそ神々しい微笑みでキッパリと言い切った。
「練習です」




