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わんぱく令嬢は不遇の令息をさらって婚約する  作者: やらぎはら響


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お出かけ日和の晴天のなか、白いワンピースの裾を揺らしてレイスリーネは振り返った。


「ハイドラ!こっち」


 パールピンクの髪を揺らすレイスリーネの目線の先には、和やかな表情のハイドラが歩いている。

 ハイドラが辺境に滞在して二カ月近くたった。

落ち着かない。

まったくもって、落ち着かない。

横に並んだハイドラをちらりと盗み見る。

ようやく、くたびれたというか萎れた過労死一歩手前の様子がなくなって、すっかり元気になったハイドラはキラキラとした外見に変貌していた。

もう肌のカサつきもない。

瑞々しくきめ細やかな皮膚へと生まれ変わっている。

長い銀髪もレイスリーネが指示をして夜だけでなく昼も手入れしただけあって、艶々ピカピカと光を弾くものになっていた。

瞳だって隈もなく、髪と同じ長い睫毛が影を落とすことでよりお月様色を際立たせている。

つまり完全に健康体になっているのだ。

そしてそれに比例して本来の輝いた美貌が復活したおかげで、大変眩しい。

 思わずレイスリーネは手でひさしを作って目を細めた。


「どうしました?」

「いや……いっそ神々しいなって」

「何がです?」

「何でもない」


 まさかあなたが美しすぎて眩しいですよと言うわけにもいかない。

 今日ははじめて街に来た。

 しばらくは敷地から出ずに療養していたけれど、完全に健康になったからだ。


「レイスリーネ、そんなに急いだら危ないですよ。落ち着いてください」

「今日は食べ歩きでもしようかと思ってるんだ。華やかなものとか繊細なものは無いけどね。ご令嬢が好きそうなやつ」


レイスリーネも王都でカフェやスイーツ店に行ったけれど、見た目がとにかく凝っていたのを思い出す。

あれは都会ならではだろう。


「あなたもご令嬢なんですけどね」


苦笑するハイドラの言葉に、ご令嬢って言えるほどちゃんとした淑女ではないからなあと内心困った。

何人も見た王都の令嬢とは自分はまったく違った。

 自分が淑女と言われるカテゴリから外れている自覚はある。

 そんな感情が一瞬よぎったけれど、レイスリーネはそんな考えを押しやってハイドラににぱりと微笑んだ。


「露店でも平気?」


 王都で貴族が食べ歩きなんて一切見ていない。

 公爵令息にはハードルが高すぎるだろうかと、少し心配になった。


「大丈夫ですよ。露店での食べ歩きをしてみたいです」

「そっか、よかった」


 ほっとこっそり息を吐く。

 無理をしている様子はないので、大丈夫かなと心配を残しつつも当初の予定を敢行することにした。

 とりあえず食べ物の並んでいる露店をゆっくり見てまわりつつ、レイスリーネはハイドラに何を売っているのかなどを大雑把に説明する。

 ハイドラは物珍し気にレイスリーネの視線や指差す先を見ては、好奇心を覗かせていた。


「とりあえずお肉でも食べようか」


 レイスリーネはお菓子の名前でも言いそうな口から、実にワイルドな単語を吐き出した。

 ハイドラが意外そうな顔をする。

 当たり前だろう。

 繊細で可憐な妖精が肉を食べたいなんて言うとは誰も予想しない。


「肉ですか?意外です」

「よく言われる。見た目と中身を一致させろって」


 苦笑すると、ハイドラがまっすぐにレイスリーネに視線を向けた。

 気に入っているお月様が見つめてくることに、レイスリーネはわずかに喉をこくんと鳴らす。


「会ったばかりの私が言うのもなんですが、たしかにギャップはあります。でも、なんだかあなたらしい」


 レイスリーネをまっすぐに見つめてくる瞳が優し気にほんのりと細められた。


「やっぱり図書館で言ったことと同じ気持ちになります。あなたといると、元気が出る」

「そ、うなんだ」


 それだけ言うのが精一杯だった。


「そんなの、はじめて言われた」


 ほんのりと頬が赤くなるのを感じてしまう。

 外見と中身が違いすぎる。

 一致させろ。

 ずっと言われてきた言葉だ。

 誰にも言ったことはないけれど、ひそかに気にしてもいた。

でも外見は変えられないし、中身だって少しは大人しくしようとした時期もあったけれど上手くいかなかった。

それならもう開き直るしかない。

そう思ったからその通りに行動してきたけれど、ハイドラのように肯定的な言葉をくれた人間ははじめてだった。

ごしりと手のひらでごまかすように頬を擦ると、レイスリーネは「こっち」と足早に目当ての露店へと歩き出した。

肉の串焼きを買ってから、二人は仲良くベンチに並んで座る。

甘辛いタレの匂いが鼻をくすぐって食欲を誘うのを、レイスリーネは何の躊躇もなく肉にもぐりと齧りつく。

 もう何度も食べているので手慣れたものだ。

 清楚なワンピースにパールピンクの髪をした美少女が、肉串を手にして食べている。

 ギャップがあるにも程があった。

 ハイドラがレイスリーネを一瞥したあと、それに習うように肉を齧る。

 もぐもぐと噛めば、肉汁が出てタレとの相性が抜群だった。


「外でこんなふうに食べるのは新鮮ですね」

「そっか。やっぱり王都の貴族はこんなことしないよね……無理してない?」


 今頃になってやっぱり気になる。

 おそるおそるハイドラを見やれば、平気な顔で肉を食べ進めていた。


「してないですよ、おいしいです。こんなのはじめてですけど本で読んだことはあります。やっぱり読むのと経験は違いますね」

「そう?」

「ええ、楽しいです」

「そっか」


 長い銀の髪を揺らして淡く微笑むハイドラに、レイスリーネもほっとして花が綻ぶように笑顔を浮かべた。

 この場所だけやけに麗しい空間に、通行人が二度見しながら通り過ぎていくけれど、二人はまったく気づいていない。


「喉渇かない?カフェでも入ろうか」

「そうですね」


 案内したのは若い女の子が好きだろう、白と水色の壁紙が貼られたカフェだった。

 この街ではだいぶ華やかな店だ。

 王都に比べれば圧倒的に地味だとは思うけれど、そこは我慢してもらおうと思った。


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