↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/47

じゃあね

 それからは、とくに、問題が、起こることも、なく、毛皮の、鞣しが、終わった。

 迷った挙げ句、毛皮は、そのまま、持ち出すことに、した。この、毛皮で、なにを作るべきか、わたしには、まだ、わからなくて。

 村を出ることを、やめるつもりは、ない。

 けれど、旅人と、共に行くことを、決めたことだけは、本当に、これで、良かったのかと、繰り返し、思った。

 旅人は、そうか、嬉しい、と、喜んだ顔を、してくれた。

 毛皮もあって、荷物を、小さくまとめられず、犬ぞりを、用意することに、した。

「イウジェナ、犬ぞりも、作れるんだな……」

 ラディに、感心した、顔をされて、首を振る。

「組み立て式、なんだよ。行商で、使うの。頼んで、古いやつを、譲って、貰った」

 お金を、払うと、言ったけれど、行商の長は、餞別だと、代金を、受け取らなかった。

 呪い師も、いくつか、薬や道具を、譲って、くれて。

 確かに、大事に、されて、いたのだと、また、心苦しく、思った。

「組み立て式なのか!なら、馬車買っても解体して載せられるな!」

 どうやら、ラディのなかで、馬車を買うことは、確定、らしい。

「犬ぞりって、牽いたことないな。これ、オレでも牽ける?」

「シウィに、牽けるから、ラディも、大丈夫だと、思うけど」

「へー!じゃあ、今度牽かせてくれよ!シウィが疲れてる時とかさ!」

 わたしは、構わない、けれど。

「それ、牽いてるあいだ、旅人さんは、どうするの?」

「走らせる!」

「それは、駄目じゃないかな……」

 オオカミとヒトでは、走る速度が違う。かと言って、そりを牽きつつ、ヒトを乗せるのは、大変だろうし、シウィは、わたし以外、乗せない。

 旅人は、そりに乗れる、だろうか。

「えー?」

「そりなら、ラディ、ふたり引っ張れるんじゃない、かな?」

 譲って貰った、犬ぞりは、荷物と一緒に、ふたりなら、ギリギリ乗れる、大きさだ。

「んー、まー、オレ、力持ちだからな!」

「助かるよ」

 どうやら、旅人を、置いてけぼりには、しなくて、済みそうだ。

 持って行かない、荷物は、処分しようと、考えていた。けれど、村長夫婦の、強い希望で、わたしの、部屋に、残して行く、ことにする。

「きちんとお布団も干して、お掃除もしておきますからね。いつでも、帰って来なさいね」

 村長に、なにか言われたのか、村長の妻が、わたしを、引き留めようとする、ことはなく。けれど、いつでも帰って来るように、と、何度も、繰り返し、言われた。身体に気を付けて、病気にならないように、怪我をしないように、と、心配も、散々、される。

 それは、いざ、村を出る、そのときさえ。

「ありが、とう、ございます」

 そんな、言葉しか、返せない、自分が、情けない。

 いつか。

 いつか、わたしは。

「イウジェナ」

 そんな、わたしに、村長が、呼び掛ける。

「はい」

 振り向いた、わたしの、手を、村長が取り、なにかを、握らせる。温かい、それは、

「金貨……」

 一枚の金貨と、数枚の、銀貨。

「手紙を」

 目を細めて、村長が、言う。

「送って下さい。年に一度でも構いませんから」

「手紙」

「あなたが無事でいることが、なによりのおくりものです」

 手に乗った、硬貨を、返そうと、する。けれど、村長は、わたしの、手を、握らせ、受け取っては、くれなくて。

「こんな、お金、貰わなくても、」

 手紙くらい、書く、だろうか。

 否。

 わたしは、きっと、言われなければ、手紙など、書かなかった。

「書けなければ、書かなくても構いません。このお金は、別のことに使っても良いです。ただ、どうか、無事に、生きて下さい」

「っ……」

 ぎゅ、と、握り締めた、手のひらに、硬貨が、痛みを、伝える。

「はい。村長も、どうか、元気で」

「ええ。もし、あなたがどこかで定住するなら、返事を書きますから、教えて下さいね」

「わかり、ました」

 村長が、微笑んで、わたしの、手をなでる。

「気を付けて、いってらっしゃい」

 わたしは。

「いって、来ます」

 戻って来る、気もない、のに。

 ああ、人間は、嘘吐きだ。

「行こう、シウィ」

 俯いて、犬ぞりに、手を伸ばす。

「イウジェナ!」

 大きな声に、肩が、跳ねた。

「リー、フィン」

 リーフィンと、会うのは、あの、作業場の、会話、以来だった。

「俺、待ってるから!」

「え」

「お前が、帰って、来るの、ずっと、待ってるから!」

 そんな、こと、言われたって。

「勝手に、待つ、だけだから、気にしなくて良い。ただそれだけ、伝えたかった」

「そんな、待ったって、わたしは、」

「わかってる。忘れていい。ただ俺が、待ちたいだけだ」

 手が、冷えて。握ったままの、硬貨の、温かさに、救われる。

「ごめん。んなこと言われたって、困るよな」

 リーフィンが、痛そうに、笑う。

「リーフィンは、もっと、ちゃんと、良い相手が、いるよ」

「うん。だから、イウジェナは、忘れて良い。俺は、忘れないけど」

「忘れてよ」

「それは嫌だ。ごめん」

 なんでだ。なんで、そんな。

 そんな、想われるような、ことは、わたしは。

「いってらっしゃい。気を付けて」

 ひとの、こころを、散々に、乱して、おきながら、リーフィンは、すっきりした顔で。

「っ、じゃあね!」

 なんだか、腹が立って、八つ当たりのように、行って来るでも、またねでも、ない返事を、返す。

「ああ、またな」

「っ」

 ふん、と、振り切って、犬ぞりへ乗り込む。

「シウィ、出て良いよ」

 シウィが、どこか、呆れたような、目を、わたしと、リーフィンに、向けてから、走り出す。

 村を、出ると、言っても、旅人と、行くと、言っても、シウィは、反対するような、素振りは、見せなかった。ほんとうは、どう、思っているのかは、わからない。

 雪道でも、シウィに、牽かれたそりは、よどみなく、走る。ラディも、シウィに負けない、速度で、並走して。

 リンの村は、たちまちに、離れて、見えなくなった。

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。