毒を喰らわば
わたしを、慮って、なのだろう。ラディは、その夜も、わたしの部屋で、眠ると言った。
「なー、イウジェナ」
シウィが、いないからか、わたしの布団の、そばに寝転んで、ラディが、言う。
「オレは善いオオカミだから、警告してやるけどさ」
「うん?」
警告、とは、穏やかでない。気配を探っても、危ないものは、感じない、けれど、どうしたの、だろうか。
「これは、罠だぜ」
「罠」
なんのこと、だろう。
「イウジェナは、オオカミに甘過ぎんだよ」
それは、否定しない、けれど。
「それが、どうしたの?」
「イウジェナがオレに警戒しないのを良いことに、懐に入らせてじわじわ骨抜きにしようとしてるんだぜ」
「ラディが?」
「いや、オレじゃなくて」
ラディが首を振って、言う。
「あいつが」
「旅人さんが?なんで?」
そんなことして、旅人に、どんな利があると、言うのだろう。
「イウジェナがオレなしで生きられなくなったら、オレの相棒であるあいつも、自動的にイウジェナと一緒にいられるだろ」
なるほど?
「ずっりーんだぜ、あいつ。自分に自信がないからって、オレをダシにしやがってよー」
タスタス、と、前足で、床を叩く、ラディは、可愛い。ラディには、シウィにはない、魅力がある。それは、確かだ。
共にいた、時間は、ぜんぶ、掻き集めても、一週間に、届かない、だろうに。旅人は、わたしをよく、理解している。
それは、たぶん、わたしと、旅人に、似たところが、あるからで。
「ラディは、愛されてるね」
「え?まー、オレ、愛されキャラだからな!」
唐突な言葉でも、まんざらでもなさそうに受け止める、ラディは、やっぱり、可愛い。
「そんなオレを罠に使おうなんて、おっそろしい男だろ?だから、警告」
「ラディは」
つまりはわたしへの、優しさ、なのだろう、けれど。
「旅人さんの、味方を、しないの?」
黙っていた方が、旅人のためには、なっただろうに。
「べっつにー?どっちかに肩入れするつもりはないぜ。どっちにも幸せになって欲しいからな。ただ、相手を口説こうってのにせこい遣り口は好かん!正々堂々行け!」
なんとも、ラディらしい、言い分だ。
「ラディは、格好良いね」
「まーな!否定はしないぜ!」
「うん」
可愛いな、と、思って、ラディの頭を、なでる。今日も、わたしが、手入れをしたから、つやつやで、ふわふわだ。シウィには、劣るけれど。
「じゃあ、お礼に、わたしも、警告する、けど」
「うん?」
「わたしこそ、ラディを、骨抜きにして、旅人さんから、奪ってしまおう、って、魂胆かも、しれないよ?気を付けて、ね」
「おっとぉ?」
ぱちくり、と、目をまたたく、ラディに、ふふ、と、笑って、見せる。
「ひゃー、オレってば、大人気じゃん。いやー、モテるオオカミは、罪だぜー」
「そうだね」
クツクツ、と、笑うラディが、可愛くて、両手で、わしわし、と、なで回す。くすぐったい、と、ラディは、また笑った。
シウィほど、毛量は、多くない。けれど、抱き締めれば、柔らかく、あたたかい。
「あったかいね、ラディは」
「生きてるからな!って、まてまて、このまま寝る気か?そりゃ流石に油断が過ぎるしオレが各方面から怒られる、って、イウジェナ?聞いてるか?ちょ、おーい、イウジェナー?」
シウィと同じ、手入れ道具だから、シウィと同じ、匂いがして。それは、とても、安心する匂いで。
ラディを抱き込んだ、わたしは、そのまま、ころん、と、布団に、転がって。
「あー……まーじで寝やがった……イウジェナー……」
そのまま、すや、と、意識を、手放して、しまった。
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