繋がるもの
目覚めて、村長に、話を聞かれる。ラディと共に、昨夜の状況を、説明した。すでに、ユキオオカミにと、犯人たちには、事情を聞いて、あったらしく、ユキオオカミの証言と合致する、わたしとラディの言い分が、事実であろう、と言う判断が、下されたようだった。
なにか、処遇に要望はあるか、と訊かれて、首を振る。
「わたしの、鞣し作業が、終わるまで、作業場に、近付かなければ、それでいいです」
「それは」
「謝罪も、償いも、いりません。ただ、顔を、見せないで、欲しい」
村長を、見据えて、言う。
「わたしは、今回の毛皮を、村の、ために、手放す、つもりは、ありません。だから」
九年間、親代わりをしてくれた、ひとに、告げる。
「この村を、出て、行きます」
「イウジェナが、出て行く、必要は」
村長の妻の言葉を、村長が首を振って止めた。
「行くあては、あるんですか?」
「ありません」
偽らず、そのまま答える。
「でも、もう、ここには、いられません。鞣し作業が、なければ、すぐにでも、出て行きたい、くらいで」
「気持ちは、わかります」
村長が、頷く。
「ですが、急いて決めて、後悔して欲しくはありません。せめて、毛皮の鞣しが終わるまで、落ち着いて、考えて下さい。結論を出すのは、それからでも遅くないでしょう?」
「……はい」
「櫓番は、変わって貰いましょうね。村のことは考えなくて良いですから、自分のことを、ゆっくり考えてみて下さい」
決して、怒鳴ったりせず、静かに、道理を説く。こう言うひとだから、村長は、誰からも慕われて、いるのだろう。
「それから」
しっかりと、目を見つめて、村長は微笑んだ。
「たとえ、村を出たとしても。ここがあなたの家です、イウジェナ。あなたの部屋は、そのままにしておきますから、いつだって、帰って来て良いのですよ」
「でも、わたしは、」
捨てる、つもりなのだ。この村を。
「戻っても、戻らなくても、構いません」
村長は、ただ、優しく、微笑んでいた。
「私が、あなたの帰る場所を残したいだけですから。ただ、まあ、」
微笑みが、苦笑に変わる。
「この歳ですから、いつまで残しておけるかは、わかりませんが。出来るだけ長生きはしますし、この家を継ぐ者がいるなら、後継にもイウジェナの部屋は頼みましょう。イウジェナ」
シウィは、喋らない。そんな、シウィだけが、家族として、残って。
それでも、わたしが、"イウジェナ"で、在れたのは。
村長夫婦を、はじめとする、村の住人が、こうして、呼んで、くれたからだ。
「帰るところが、あると、ないとでは、大違いですよ。あなたは、この村の子。ここを、帰る場所にして、良いのです」
「そーだな」
隣で聞いていた、ラディが、不意に、口を挟む。
「故郷はあった方が、気が楽だぜ、イウジェナ。そこに、大事な誰かが、眠ってるなら、余計に」
「ラディ」
ラディは、故郷に、大事な番を、遺して、旅をしている。
その、ラディの、言葉は、重い。
「でも、わたしは、村長の、」
娘でも、孫でも、ない。血の、繋がりは、なにも。
「なにを、言っているの」
言って、手を取ったのは、村長の妻、だった。
「九年も、一緒に過ごしたのだもの。イウジェナは、わたしたちの娘よ。ねえ、あなた」
「ええ、もちろんです。イウジェナ、こんな老いぼれの、業を継いでくれた、優しい子。あなたは私の、もうひとりの子供です」
子供らしい、ことなんて、なにも。
「旅立つとしても、渡した道具は持って行きなさい。新しいものでなくてすまないけれど、古くとも手に馴染んだ道具は、役に立つでしょう」
優しい、ひとたちだ。最後まで、馴染めは、しなかったけれど。
鼻が、ツンとして、うつむいた。手を握る、しわくちゃの、硬い手が、温かい。
「あり、がとう、ございます」
いつか。いつか。
ここが、故郷だと、思える日が来たら。
この、優しいひとたちへ、少しは、報いに、なるのだろうか。
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