↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/47

繋がるもの

 目覚めて、村長に、話を聞かれる。ラディと共に、昨夜の状況を、説明した。すでに、ユキオオカミにと、犯人たちには、事情を聞いて、あったらしく、ユキオオカミの証言と合致する、わたしとラディの言い分が、事実であろう、と言う判断が、下されたようだった。

 なにか、処遇に要望はあるか、と訊かれて、首を振る。

「わたしの、鞣し作業が、終わるまで、作業場に、近付かなければ、それでいいです」

「それは」

「謝罪も、償いも、いりません。ただ、顔を、見せないで、欲しい」

 村長を、見据えて、言う。

「わたしは、今回の毛皮を、村の、ために、手放す、つもりは、ありません。だから」

 九年間、親代わりをしてくれた、ひとに、告げる。

「この村を、出て、行きます」

「イウジェナが、出て行く、必要は」

 村長の妻の言葉を、村長が首を振って止めた。

「行くあては、あるんですか?」

「ありません」

 偽らず、そのまま答える。

「でも、もう、ここには、いられません。鞣し作業が、なければ、すぐにでも、出て行きたい、くらいで」

「気持ちは、わかります」

 村長が、頷く。

「ですが、いて決めて、後悔して欲しくはありません。せめて、毛皮の鞣しが終わるまで、落ち着いて、考えて下さい。結論を出すのは、それからでも遅くないでしょう?」

「……はい」

「櫓番は、変わって貰いましょうね。村のことは考えなくて良いですから、自分のことを、ゆっくり考えてみて下さい」

 決して、怒鳴ったりせず、静かに、道理を説く。こう言うひとだから、村長は、誰からも慕われて、いるのだろう。

「それから」

 しっかりと、目を見つめて、村長は微笑んだ。

「たとえ、村を出たとしても。ここがあなたの家です、イウジェナ。あなたの部屋は、そのままにしておきますから、いつだって、帰って来て良いのですよ」

「でも、わたしは、」

 捨てる、つもりなのだ。この村を。

「戻っても、戻らなくても、構いません」

 村長は、ただ、優しく、微笑んでいた。

「私が、あなたの帰る場所を残したいだけですから。ただ、まあ、」

 微笑みが、苦笑に変わる。

「この歳ですから、いつまで残しておけるかは、わかりませんが。出来るだけ長生きはしますし、この家を継ぐ者がいるなら、後継にもイウジェナの部屋は頼みましょう。イウジェナ」

 シウィは、喋らない。そんな、シウィだけが、家族として、残って。

 それでも、わたしが、"イウジェナ"で、在れたのは。

 村長夫婦を、はじめとする、村の住人が、こうして、呼んで、くれたからだ。

「帰るところが、あると、ないとでは、大違いですよ。あなたは、この村の子。ここを、帰る場所にして、良いのです」

「そーだな」

 隣で聞いていた、ラディが、不意に、口を挟む。

「故郷はあった方が、気が楽だぜ、イウジェナ。そこに、大事な誰かが、眠ってるなら、余計に」

「ラディ」

 ラディは、故郷に、大事な番を、遺して、旅をしている。

 その、ラディの、言葉は、重い。

「でも、わたしは、村長の、」

 娘でも、孫でも、ない。血の、繋がりは、なにも。

「なにを、言っているの」

 言って、手を取ったのは、村長の妻、だった。

「九年も、一緒に過ごしたのだもの。イウジェナは、わたしたちの娘よ。ねえ、あなた」

「ええ、もちろんです。イウジェナ、こんな老いぼれの、わざを継いでくれた、優しい子。あなたは私の、もうひとりの子供です」

 子供らしい、ことなんて、なにも。

「旅立つとしても、渡した道具は持って行きなさい。新しいものでなくてすまないけれど、古くとも手に馴染んだ道具は、役に立つでしょう」

 優しい、ひとたちだ。最後まで、馴染めは、しなかったけれど。

 鼻が、ツンとして、うつむいた。手を握る、しわくちゃの、硬い手が、温かい。

「あり、がとう、ございます」

 いつか。いつか。

 ここが、故郷だと、思える日が来たら。

 この、優しいひとたちへ、少しは、報いに、なるのだろうか。

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。