白い揺り籠
そろそろ交替、と言う時に、旅人は再び、やって来た。
「おはよう、イウジェナ」
「おはよう、ございます」
作る表情に、困りながら、答えたわたしを、旅人がなでる。
「きみを、送り届けたら、ラディと替わって、おれが毛皮の、見張りをする。指一本、触れさせないから、きみは、安心して、休むと良い」
「……あの」
これを言ったら、わがまま、だろうか。
「どうか、したか?」
「ラディの、様子を、見たくて」
昨日、怪我がないとは聞いたし、目視でも、外傷は見えなかった。けれど、打ち身なら、あとから痛みが、出ることもあるし、目視したのは暗いなかなので、見落としがあるかもしれない。
明るいなかで、もういちど、無事を、確認したい。
旅人は、笑って、頷いた。
「それなら、先にラディと、交替しよう。家までは、ラディに送って貰うと、良い」
「ありがとう、ございます」
「いや。ついでと言っては、なんだが、ひとつ、頼めるだろうか」
なんだろう。
「なんですか?」
「その、嫌でなければ、ラディをきみの部屋で、寝かせてやってくれるか?」
「え?」
「土間より、きみの部屋の方が、暗くて静かだから、ゆっくり休めるかと、思って」
このひとも。
「わかりました」
オオカミのような、ひとだ。
ただただ、わたしに、優しい。
「すまない。助かる」
ラディのため、と言いながら、きっとこれは、わたしへの、気遣いだ。
櫓番の交替は、問題なく。シウィと、旅人と、共に、作業場へと向かう。
なにごともなく、尻尾を振って歩み寄って来る、ラディの姿に、ほっとする。
「なんでイウジェナと一緒?」
「ああ。イウジェナに、頼みごとをしたからな」
「頼みごと?」
首を傾げるラディの身体に、動きのおかしい、ところはない。新しい血の匂いも、ラディからは、しなかった。
「寝るなら、暗くて静かな方が、良いだろう。イウジェナに、部屋に入れて貰えるよう。頼んでおいた」
「え、いや、そりゃ、」
驚いて、旅人と、わたしを、見比べる、ラディ。
「あー、良いのか?オレは助かるけど、イウジェナも、寝るだろ?オレがいて、嫌じゃない?」
「わたしは、大丈夫」
「なら、ごめん、甘えるぜ」
ラディも、やっぱり優しい。オオカミは、いつだって。
「うん」
「なら、家までイウジェナを頼むぞ、ラディ」
「任せとけよ」
請け負ってくれた、ラディと、シウィと共に、村長の家まで、歩く。どこか伺うような、気配は感じたけれど、話し掛けて来る、ひとはいなかった。
村長も、なにも聞かず、ゆっくり休みなさいと、言ってくれる。
部屋のなか、ラディが扉の近くに、シウィがわたしのそばに、陣取る。
ここには、味方しか、いない。毛皮も、オオカミの味方が、守ってくれて、いる。
ほ、と、息を、吐いた。
「おやすみ、ラディ、シウィ」
「おやすみ、イウジェナ」
疲れた。とても。
手を伸ばせば、シウィが心得たように、寄り添ってくれる。柔らかい、お腹の毛に、手を潜らせた。
温かい。
手のひらに、穏やかな、シウィの呼吸のリズムが、伝わる。ゆっくりと、一定の。
その、拍を感じていれば、溶けるように、意識は眠りへと、落ちて行った。
とても、疲れた。いまは。考えるのは、あとで、いい。
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