↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/47

象牙色の狼

 その夜は夜番で、当然のように、ラディが一緒に、ついて来た。旅人には、怪我がまだ良くなっていないだろう、と、すげなく留守番を、言い渡して。まだ、怒っているのかもしれない。

「なんで二頭」

「村長の家に、泊まっている、旅人さんの、オオカミだよ」

「懐かれたのか。お前、ほんと、オオカミに好かれるのな」

 昼番と、そんな会話を交わして、交替する。

 吹きさらしの、櫓の上でも、前後をオオカミに取り囲まれれば、温かい。

 シウィはいつも通り、背もたれと肘掛けに徹し、ラディは興味深そうに、レースを編む、わたしの手元を、見つめている。

「レースって、露天とかで売ってるのは見たことあるけど、こうやって出来てたんだな」

「ラディはなんにでも、興味津々だね」

「そりゃ」

 さもありなん、と、ラディが頷く。

「オレが旅してるのは、それが理由だからな!」

「そうなの?」

「ああ」

 語るラディは、楽しげだ。

「せっかく自由に動く足があるんだ。いろんなところ行って、いろんなもの見た方が、楽しいと思ってな!あいつはひとつところに留まったり、同じところを周回したりしないから、一緒に旅するには良い。行ったことない場所や、見たことないものに、たくさん出会えるぜ!」

 自由に動く、足。

 わたしにも、あるはずだ。自由に動く、足が。

「ひとつところに留まって」

 手元のレースに目を落としながら、問う。

「仲間と暮らしたい、とかは、少しも思わない?」

 それが本来、オオカミの生き方のはずだ。自分に合った土地で、生涯を、過ごす。多くのユキオオカミが、そうであるように。イワオオカミだって。

「それこそ、灰色の毛並みが岩に馴染む美狼と、つがいになって、子供を授かって、ずっと、一緒に」

「そーだな」

 ラディは、軽い口調で、答える。

「まだ番が生きてたら、そうしてたかもな」

「……え?」

 あまりに、軽い口調で言われて、咄嗟に意味を、取り逃がす。

 番が、生きて、いたら?それは、つまり、

「ごめ、」

「あー、いーいー。知らねーもんは、気遣いようもないだろ。それにな、そんな、なんつーか、悲劇みたいな感じじゃ、ねーんだよ」

 顔色をなくして顔を上げると、ラディは気にするなとでも言うように、ぽに、と、わたしの頬を触った。

「灰色じゃなく、象牙色の毛並みなんだけどな。なんつーんだっけ?センテンテキ、シキソケツボウショウ?ってやつ、だったんだろうな。目も、赤くてさ。でも、めちゃくちゃ美狼だったんだぜー」

 語るラディの口調は、あくまで明るく軽い。

「仔狼は五頭も産んだし、乳離れまでちゃんと育ててくれたけど、そこで、力尽きちまってさ。いまは、いっとう眺めの良い岩の下で寝てる。仔狼はオレに似てみんな元気で、たぶん、いまごろは自分の番を見付けて仲良くしてんじゃねーかな」

 ぽにぽにと、ラディが前足で、わたしの頬をこねる。

「たぶん長生きしないってのは、お互いわかってて、それでも番になったし、子供も授かったんだ。まあ、たとえば、ニンゲンに飼われたりしたら、もっと長生きしたかもしんねーけど。でも、不自由に長生きするくらいなら、短命でも自由が良いって」

 珍しいものを欲しがる好事家は、どこにでもいる。アルビノのオオカミなんて、引く手数多だろうし、大切に大切に飼われるだろう。

 檻に入れて、鎖に繋いで、アルビノの天敵である日光から、出来るだけ遠ざけて。

「ニンゲンは嫌いだったみたいだしな。だから、ニンゲンには辿り着けないような、断崖絶壁の上に隠したんだ。でも」

 ぽに、と、ラディは両の前足で、わたしの頬を、挟む。

「イウジェナだったら、レニィも気に入ったかもな。そしたら、皮を、鞣して、形見に出来たかな」

「形見」

「イワオオカミは、同胞を食べたりはしないんだ。地に埋めて、生命の循環に任せる。でも、ニンゲンを見てると、なんか、形見を持っても良かったんじゃないかって、思うんだよな。忘れないって思っても、どうしたって、記憶は薄れる」

 そう言ったラディが、寂しげに見えて、伸ばした腕で、ラディを抱き締める。

 なにを言って良いか、わからない。両親の、形見でもある毛皮を、あっさり手放したわたしに、なにか言う資格があるのかすら。

「どうせ薄れるなら、楽しいことで上書きしようと思ってな!それに、レニィがもし、灰色の毛皮だったら、きっと旅をしたと思うんだ。その方が、故郷でレニィを想いながら、子供の成長を見てるより、オレたちらしいなって」

 わたしの頭に、頭を寄せて、ラディは言う。

「誰かから見りゃ、短命だったり、早くに番をなくしたり、可哀想なオオカミかもな。イウジェナは、可哀想だって思うか?オレと、レニィのこと」

「思わ、ない」

 なんでだろう。涙が出そうになって、言葉が途切れる。わたしが、泣くのは、おかしい。

「ははっ」

 ラディが笑う。

「イウジェナは、泣き虫だなー」

「ごめん」

「うん?謝るこたないだろ?まー、なんつーかさ、だから」

 すりすり、と、頭でわたしの、頭をなでて、ラディが言う。

「オレっていま、余生なんだよ。だから、まー、ちょっと変わったニンゲンと一緒に、旅するのも良いかなって、見守ってんの、あいつのこと」

「うん」

 ラディが、また笑って、わたしの背中を、ぽにぽに、と、叩く。

「見守ってっから、幸せになって欲しいなとも、思ってっけど。あいつも、イウジェナもさ」

「ラディ」

「好きに生きろよ、イウジェナ。他人にどう見えたって、お前はお前の幸せを、求めて良んだよ」

 ああ、お父さん、の、言葉だ。

 無性に涙があふれて、なにも言えない。

「オレに出来る手助けなら、やってやるし。ユキオオカミだってみんな、イウジェナの味方だ。いざとなりゃ、ほかのニンゲンには追いかけて来れないとこまで、オレが背負って走ってやるよ」

 どうして。

 どうしてオオカミは、こんなに、優しいのだろう。

「……あり、がと」

 顔を上げることも、出来ず、くぐもった声で、呟いたわたしに、ラディは、おう!と、元気に答えてくれた。

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。