釜の中
※ラディ視点
〔なあ〕
櫓から、村長の家に向かう途中、斜め前を歩くロトカに問う。
〔もしかしてイウジェナってさ、両親が死んだの、自分のせいだって思ってる?〕
強盗に殺され、家を焼かれたと聞いた。イウジェナ自身は、熱を出して、呪い師の家にいたから無事だったと。
シウィはイウジェナを主と決めている。イウジェナが呪い師の家にいたなら、シウィも共にいたのだろう。シウィを連れてイウジェナが留守にして、そのあいだに強盗が両親を襲って殺した。
もしもシウィが両親と共にいたならば、強盗に殺されることはなかったかもしれないし、そもそも強盗がイウジェナの家を標的にすることもなかったかもしれない。
イウジェナが熱など出していなければ、両親は死ななかった、かもしれない。
全部仮定だ。いまさら言っても仕方ないし、家にいたとして、どちらにせよシウィはイウジェナのそばだ。両親までは守れなかったかもしれない。シウィもイウジェナも眠っているあいだに火にまかれて、共に死んでいたかもしれない。
ロトカがちらりとオレを振り向いてから、黙って視線を前に戻した。
答えはそれで十分だった。
〔なんで〕
確かに、イウジェナが熱を出していなかったら、シウィが家にいたら、両親が生き残った可能性はある。けれど、だからイウジェナのせいとは、ならないだろう。
ヒトの子供とはちょっとしたことで体調をくずすもので、だからと言って、そのことで責められるべきではないのだ。悪いのは他人の命を奪ってまで金品を獲ようとした強盗であり、決してイウジェナではない。
そんなの、当たり前のことなのに、なぜ、当時たった八歳だったイウジェナが、両親の死の責任なんて、重い咎を背負っているのだ。なぜ、なんの罪もない少女に、咎を背負わせたのだ、この村の、ニンゲンは。
〔……悪気ない言葉だ。悪気だけでなく、気遣いも想像力もない言葉だが〕
〔なにを聞かせたの〕
〔『まだ若いのに気の毒に、シウィが留守にしていなければ』と、井戸端会議をしていた。それを、たまたま通り掛かった子供たちが聞いた。そのなかに、イウジェナもいた〕
話し手は単純に、哀れな若い夫婦の、悲劇に酔って囀っただけなのだろう。あまりにも醜く、愚かな囀りではあったが。
〔子供の耳に入るようなところで、そんな話したらさ〕
〔意地の悪い子供が、『お前のせいで死んだんだ』『親殺し』とイウジェナを囃し立てた〕
〔最悪だ〕
ただでさえ、責任感が強く、聡い娘だ。きっと自分でも、薄々気付いてしまっていただろう。それを、大人から補強され、周りから罪だと責められたなら。
〔なんで、誰もイウジェナを助けないんだよ。ユキオオカミは、なにしてたんだ〕
〔何度も、言った。『間違った言葉だ。無視して良い』『イウジェナは、なにも悪くない』と。だが、我らは姫に、無条件で味方する。客観性と公平性を疑われ、聞き入れられなかった。『ユキオオカミは自分に甘いから、罪を責めはしないのだ』と〕
〔甘やかしの弊害が最悪に利いて来てるー!〕
オレがニンゲンだったなら、両手を上げて天を仰いでいただろう。まさに、お手上げ、だ。
イウジェナは、自分が育ての父の子でないことも、気付いていたようだった。その上、親殺し、とまで言われれば。
村に居場所など見付けられはしない。頼れるのは、シウィだけだろう。
〔だからあんなに、シウィに依存してるんだ〕
イウジェナのなかで、自分はあくまで余所者で。村のニンゲンは仲間ではない。ユキオオカミたちも、村と言う群れに属する以上、親しくても仲間と言う意識はないだろう。イウジェナにとって、自分と同じく余所者であるシウィだけが、仲間だったのだ。
ひどければその、シウィすら、実の父親に頼まれたからお守りしてくれているだけと、思っているかもしれない。
〔どうにか出来なかったのかよ。そんなの〕
両親が死んでから九年だ。九年もあったのに、なぜ、イウジェナの認識が変わらない。イウジェナは余所者のままなんだ。生まれてから、十七年も生きた村が、どうして居場所にならない。
オオカミなら、群れから弾き出されても、生きて行く者はいる。けれどヒトは、ニンゲンとして生きるものだ。どこからも爪弾きのあいつすら、旅人として、ニンゲンであることをやめられないのだ。
それなのに、どのヒトとも、共に在れないならば。
〔生き地獄じゃないか〕
ああ、あの馬鹿。
グルル、と意味もなく唸る。
馬鹿な意地張ってないで、さっさと認めて連れ去ってしまえば良かったんだ。
そうすれば、大事な番を徒に、苦しめることもなかった。
〔なあ〕
前を行くロトカに問う。
〔良いよな。イウジェナ、オレらが貰って行っても〕
まあ、答えを聞く気はないが。
〔大事な姫も、守れねーんだ。文句、ないよな〕
イウジェナはとっととこんな村、捨ててしまった方が良い。
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