迷子のような曇り空
※リーフィン視点
イウジェナは、櫓の主を名乗れるくらいには、櫓番をやっていて。
今日も夜番はイウジェナだから、交代のときに顔を合わせる。
と、思っていた。
「よっ、待たせたなー!交代に来たぜー!」
やたらノリの軽い灰色のオオカミが、櫓に登って来るまでは。
「は?交代?」
ユキオオカミは、純白の毛皮を特徴とする。村のユキオオカミも、全頭、毛皮は真っ白だ。だから、この灰色のオオカミが、村のオオカミでないのは、色から言って明白。
反射的に、腰の剣に手を掛けた俺を、ロマが止める。
「待て待て、落ち着け、リーフィン、大丈夫だ、見覚えがある。な、あんた、旅人さんの相棒だ、そうでしょう?」
「おう!そう言や名乗ってなかったなー。オレはラディ。イワオオカミだ」
「これはご丁寧に。僕はロマ。こっちは相棒のアズーロ。よろしくお願いします」
差し出されたロマの手に、愛想良くラディと名乗ったオオカミは手を乗せた。
「よろしく!つってももう交代だけどなー」
「今日の夜番はイウジェナのはずだったけど、ラディさんと替わったんですか?」
「いや、夜番はイウジェナのままだけど、ちょっとイウジェナが呼ばれちまったから、オレらは、そのあいだの中継ぎだぜ!」
な!と振り向いたラディの視線の先には、白いオオカミが二頭。こちらはよく見知ったユキオオカミ。ロトカと、シウィだ。
「うむ。イウジェナが出掛けねばならなくなった故、我らが、イウジェナが戻るまで番をする。我らに任せて、そなたらはもう戻って良い。若者はよく食べ、ゆっくり寝ろ」
「出掛けるって、こんな夜に?シウィも連れず?」
いくらイウジェナとは言え、それは危な過ぎる。
「ひとりじゃないから、大丈夫だぜ!」
俺の疑問に、ラディが答える。
ひとりじゃない。なら、誰と?
相棒を連れず一頭で歩き回っているラディを見る。なぜ、このオオカミは主人をほっぽって、こんなところにいるのか。主人は、どこにいるのか。
一緒にいるのは、まさか。
同じことを思ったらしいロマが問う。
「ラディさんの相棒が一緒にいるの?」
「いや?」
予想に反して、ラディは首を振った。
「あのうすのろは足を怪我してるから、大人しく留守番してろって言ってある。イウジェナと一緒にいるのは、ここ一帯のボスオオカミだぜ。用事があるって訪ねて来たんだ。んで、イウジェナが櫓番があるからって困ってたから、優しいオレたちが、戻るまでの代わりを申し出たってわけだ!」
予想に反し過ぎる答えに、ロマがぽかんと阿保面をさらす。
俺も唖然としかけて、昨日、野生のユキオオカミに囲まれていたイウジェナを思い出す。
「昨日、知り合ったのか。あ、ええと、ラディさん、俺はリーフィンです」
「ん!よろしくなリーフィン。そだな、元々知り合いじゃなかったっぽいし、昨日会ったんじゃねーかな」
「危なくは、ない、んですよね?」
なんにせよ、問題はそこだ。イウジェナは、危険ではないのか。
「んー?詳しい用事を聞いてないから断言は出来ねーけど、ボスオオカミは任せろって言ってたし、大丈夫じゃねーかな。姫だし、イウジェナって」
「姫?」
「ユキオオカミに、めちゃくちゃ大事にされるニンゲンのこと。ボスオオカミのそばにいれば、オオカミより弱い動物は近付かないし、この辺にいるオオカミはユキオオカミだけだろ?なら、ボスオオカミとはぐれでもしない限り、動物はイウジェナを傷付けねーよ」
ユキオオカミと、親しいとは思っていたが、それほどだったのか。
それなら、安心、なのだろうか。
「まあ、安全ってだけで」
けれどラディは、しれっと爆弾を投下した。
「ロマやリーフィンにとって安心かっつーと、違うけどな」
「は?」
「村を出ないかって、誘うかもだぜ?ボスオオカミが」
ユキオオカミが?イウジェナを、村から連れ出す?
「そんなこと、あるの?」
「あるある。ほら、オオカミって群れるだろ?ニンゲンとは言葉も交せるし、気に入りゃ群れに入れることもあるぜ!ま、稀だけどな!」
「でも、そうなったら」
ロマが探るように、問いを投げる。
「きみの、相棒としては、不都合じゃない?きみの相棒こそ、連れて行きたがってるでしょ、イウジェナのこと」
「まあ、ユキオオカミについてくくらいなら、自分と一緒に来て欲しいとは思ってるだろうけど」
そしてラディは、あっさり核心を口にした。隠してもいないことなのか、このオオカミの口が軽いのか。
「べつに、ユキオオカミの群れに入れられたとして、それはそれで不都合はねーよ。あいつも、昔はユキオオカミの群れにいたからな。イウジェナがユキオオカミの群れに入ったって、会いに行くことは出来る」
「ユキオオカミの、群れに?」
「ああ」
にこにこと、軽い口調でラディは語る。
「あいつはちょっと事情持ちでさ。ニンゲンよりも、オオカミとの方が、親しいくらいだからな。その点、イウジェナとは気が合うんじゃねーの?」
最悪の予想が当たってしまいそうだ。
行き場のない気持ちを持て余してロマに目を向ければ、ロマもまた、途方に暮れたような情けない顔で、俺の方を見ていた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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