孤狼の願い
「……」
シウィに寄り掛かり、ぼんやりと虚空を見る。
とっさに、手を、取ることも、拒むことも、選べなかった、わたしを、旅人が責めることはなかった。
しばらく、村に滞在するから、考えておいて欲しいと、それだけ言い置いて、布団を借りてもう少し休むと、部屋を出て行った。
ひとり残されて、なにをするでもなく、ぼーっと、シウィに懐く。
シウィがいれば、それで。それ以上の、大切なもの、なんて、必要ない。
わたしの望み、なんて、それだけ、なのに。
それだけの、ことが、どうしてこんなに、難しいの、だろう。どうしてみな、掻き回そうと、するの、だろう。
「誰かと、一緒に、生きたくない、ことは、異常?」
結婚し、子を授かることが、幸せで、それ以外は、幸せでは、ないの、だろうか。
そうは、思わない。けれど、それはおかしいと、言われてしまう。
「わたしは、シウィさえいれば、それで、いいのに」
生まれてから、いままで。ずっと、一緒だった。ずっと、一緒に、いてくれた。ほかの誰が、離れても。
ああでもシウィだってわたしの御守りを離れて自分の生を謳歌したいと思っているだろうか。早く身を落ち着けて面倒なお役目から解放して欲しいとそう思われてはいないだろうか。
身を起こし、膝を抱える。
「シウィは、」
その先を、口にすることが、いたく、難しかった。
「シウィ、は」
それでも、口にしたのは。出来たのは。
「早く、わたしが、誰かと結婚して、シウィから離れたら、良いのに、って、思って、いる?」
いまだ人間の言葉は話せぬシウィが、明確な答えを、話すこと、は、出来ないと、わかっているから、だったのかも、しれない。
ずるいわたしは、シウィの顔を見ずに、そんな問いを、投げかけ。優しいシウィは、なにも言わず、わたしを身体で、抱き込んで、くれた。まるで、ずっと守ってあげるとでも、言うように。
「ごめん」
ずるくて。子供で。離して、あげられなくて。
ああ今日はシウィに、謝ってばかりだ。
「シウィ、大好きだよ、ごめん」
旅人と、また会いたいと、思っていた。それは、嘘ではない。
けれどそれは、手を引いて、連れ出して欲しかったわけではなくて。
「ねぇ、シウィ」
シウィの首元に抱き付いて、問い掛ける。
「もしもわたしが、村を出て、旅に出るとしても、いっしょに、いてくれる?」
シウィが、わたしの頭に、頭をすり寄せる。
「ありがとう」
大丈夫。シウィさえいれば、わたしは。
目を閉じて、シウィの柔らかい毛の触り心地だけを、感じる。
リーフィンの申し出。旅人の申し出。どちらを選んでも、どちらも選ばなくても。
怒るひとも、口を出すひとも、わたしには、もういない。
ただ、変わり者の娘と、また陰口を叩かれる、だけ。
それなら。それなら?
息を吐き、立ち上がる。
どんな結論を、選ぶとしても。
迷っているあいだにも、時間は、進む。
もう、大人だと、名乗るなら。
「ごはん、食べに行こうか」
きちんと、食事を、して、今日の仕事を、こなさなければ。
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