↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/47

許されぬもの

「シウィ」

 階段を昇りながら、後ろをついて来るシウィに声を掛ける。

「シウィは、ごはん、食べて来て、良いよ」

 わたしに付き合う、必要はない。そう思っての言葉だったが、シウィは従わず、鼻先でわたしの背を、押した。

「ごめんね」

 真実は、知らない。けれど。

 シウィも、あの毛皮も、わたしが生まれる前に、この村を訪れたと言う、旅人が残した、もの。

 あれは恐らく、シウィの親の、毛皮だ。

「ごめん」

 シウィが話せないのを、良いことに、わたしはシウィから、親の形見を奪った、のだ。

 シウィは鳴きも唸りもせずただ、わたしを自分の部屋へと、押し、やった。

 部屋へ入り、扉を閉めようとした、その時。

「イウジェナ」

 扉に手が、かかり、名前を、呼ばれた。

「あ」

 痛みを含んだ表情をした、旅人が、こちらを見下ろして、いた。

 そうだ彼は、足を怪我、して。

 ここなら明るいし、道具も薬も揃って、いる。暗い櫓よりはマシな、手当てが、出来る。

「足。手当て、します。入って」

 旅人の、手を引き、部屋へと、引き込む。

「え?足?いや、そんなことは、いまは、」

「手当てをおろそかにして、悪化したら、どうするんです。さあ、座って」

 丈の足らない、部屋着だから、痛めている足首が、よく、見える。湿布どころか、包帯も、巻いていない、ではないか、この、ひとは。

 湿布薬と、包帯を取り出し、湿布薬を付けた足首を、包帯でしっかり、固定する。

「きちんと、治さないと、癖になり、ます。ちゃんと、固定、して、安静に」

 やはり呪い師の、ところに、行って貰った方が良い、だろうか。

「ああ、すまない。気を付ける。が、おれの怪我など、どうでも、いいんだ」

「良くないです」

「……怪我は、気を付ける。手当ては、終わった。話を、移させて、くれ」

 旅人が、わたしの肩を、掴む。

 ただでさえ、険しい顔立ちが、より険しく、なって、まるで鬼の、ようだ。

「あれは、大事なもの、だろう」

「あれ?」

「あの、毛皮」

 ぐ、と、息を詰めて、シウィに目を、やる。

「それは、でも、」

 塩漬けにした仔狼の皮を見る。騎士たちがいるあいだに、見せるわけには行かないから、簡易的だが防腐処理をした。

「仔狼の皮は、渡したく、なくて、だから、」

「両親の、ものは、ほとんど、遺っていないの、だろう。それに、あれは、きみの父親の」

「でも!」

 自分勝手でも。シウィの親の形見を奪っても。

「ユキオオカミの、毛皮が手に、入らなければ、次はなにを、されるか、わからない!」

「だからと言って」

「シウィに償いは、これから、必ず、する」

「シウィだけの話な、ものか。あれは、きみにとってだって」

「なら!」

 それでも仔狼の皮以外に、差し出せるものは、あれしか、なかった。

 旅人の胸に掴み掛かって、噛み付くように問う。

「ほかに、どう、出来たの!」

 しがらみがなければ。ここ一帯のヒトの命を考えなければ。いくらでもやりようはあった。

 ユキオオカミは、ヒトが立ち入れないような、極寒の山奥でも、生きられる。もちろん獲物の多寡や、住みやすさに違いは、ある。けれど、ヒトに煩わされるのを、厭うなら、ヒトのいない、ところに、彼らは行ける、のだ。

 あるいは仔狼の仇を全員咬み殺すことだって、ユキオオカミには出来る。それで人間がユキオオカミを殺そうとしたとして、大人のユキオオカミならば、人間ごときにそうそうやられはしないのだから。

 やらないのは、やらせないのは、そうすればここ一帯の人間は死ぬことが、わかっているから。

 顔が歪む。きっと、いま、ひどく、醜い顔を、している。

 わたしは、わたしの自己愛エゴで、シウィの心も、親の思いも、踏みにじった、のだ。

「わかってる!」

 償えるような、ことではない、と。

「わかって、る……」

 許されるような、ことではない、と。

 それでも、仕方ない、と、言い訳をして、わたしは。

「イウジェナ」

 旅人が、うつむいたわたしを、呼ぶ。

「すまない。責めたかった、わけじゃ、ない」

 背を引かれ、硬い腹に顔を埋められる。

「きみは、悪くない。なにも。間違って、いない」

 力強い腕が、身体を、包み、大きな手が、背中を、なでる。

「イウジェナは、悪くない」

 子供を、あやすような、穏やかな、声。

「すまない。イウジェナ、すまなかった」

 静かな、声は、子守唄の、ようで。

 そんなに、謝らなくて、いい。

 そう、告げる、前に。

「知って、いれば、もっと」

 わたしは、眠りに、落ちて、いた。

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。