昏迷なる王の命にて
※三話の改稿をしています(旅人の来訪:七年前→十年前、両親の死亡:五年前→九年前)
投稿前に直そうと思っていた箇所の訂正漏れです。申し訳ございません
※近衛騎士隊長視点
少女は血まみれの服を着て、二頭のオオカミと見上げる長身の男を連れて戻った。
「お帰り、イウジェナ」
だと言うのに、村長は穏やかに微笑んで迎え入れる。
「はい。ただいま、戻りました」
「旅人さんの分も、二階にお湯を用意してありますから、汚れを落として、温まって来なさい」
「はい。わかりました」
頷く少女の横で、ユキオオカミが当たり前のように、自分の足を小さな桶に張られた湯で洗い、布で拭っている。
「オレは外にいる」
その横にいた灰色のオオカミが、不意に喋って度肝を抜かれた。
「ああ、それでしたら、ユキオオカミ達が入る温泉がありますから、行ってみてはどうですか?」
「ん?そんなものがあるのか」
「ええ。ロトカ、案内して下さい」
村長に声を掛けられたユキオオカミが、のそりと立ち上がる。
「良いのか?悪いな。オレはラディ。イワオオカミだ。よろしくな!」
ご機嫌に尾を振った灰色のオオカミが、ロトカと呼ばれるユキオオカミに歩み寄る。ロトカは声を上げず、黙って外へと向かった。
「んじゃ、行って来るなー」
ラディと名乗った灰色のオオカミは、長身の男に声を掛けてから、ロトカを追い掛ける。もう一頭も追うのかと思ったが、こちらは我関せずで足を清め終えると、段差を越えて居間に上がった。
「まあ!」
村長とは対照的に、村長の妻は驚きもあらわな声を上げる。
「イウジェナったら、真っ赤じゃない。洗ってあげるから、湯浴みを終えたらすぐ持っていらっしゃいね」
「ひどく汚して、しまったので、自分で、」
「ひどく汚したから、私がしっかり洗います」
血まみれの少女に恐れはないのか、村長の妻はみなまで言わせず少女の言葉を却下した。
「わかりました。ありがとう、ございます」
「旅人さんも、汚れものがあれば出して下さいね。ついでに洗っておきますから」
「え、いや、そんな、お手間は、」
「ついでですから」
笑顔でおしきる村長の妻。
「ありがとうございます。助かります」
「湯浴みが済んだら食べられるように、食事を用意しておきますからね。食べたら休みなさいね。ふたりとも、寝ていないでしょう」
有無を言わさぬ畳み掛けは、故郷の母を思い出させた。
「そうそう。二階に息子の部屋着を出しておいたから、少し丈が足りないかもしれませんが、良ければ使って下さいね。布団も敷きましたから」
「なにからなにまで、済みません」
「気にしないで下さいな。ラディさんのごはんは、ロトカさんと同じもので大丈夫かしら?今日は塩抜きした干し肉なのだけれど」
「大丈夫です。その、あとで、お代を、」
「あらあら律儀なこと。ああごめんなさいね足を止めさせて。早く湯浴みをして、ゆっくり休んで下さいね。イウジェナ、ドゥミの部屋を開けてあるから、案内してあげて」
「わかりました」
少女が頷き、長身の男の足許に跪いた。長靴の紐を、手早くゆるめている。
「イウジェナ、自分で、」
「怪我人は、大人しく」
村長の妻の気質は、少女にも継がれているようだった。拒否を許さず長靴をゆるめた少女は、居間に上がると男に手を差し伸べる。
「さあ、どうぞ」
「その、すまない」
少女の手を借りて居間に上がった男は、やはり驚くほどの長身だった。顔立ちも険しく、威圧感がある。
「こちらです」
気圧される我々になど見向きもせず、少女は今の奥へと向かった。
男とユキオオカミだけが、去り際にこちらを一瞥して行く。
「ロトカさんから聞いていたけれど、本当に背の高いひとでしたねぇ」
しみじみと言う村長の妻の言葉に、男と初対面だったのだと知る。
「あの、男性は」
「旅人さんですよ。十年前にも、この村に来たことがあって。あのときも背は高かったけれど、十年でまた伸びたようですね」
「とくに、ゆかりの者では」
まるで身内のように、迎え入れたかのように見えたが。
「名前すら知らない方ですけれど」
ふふふと、村長の妻は笑う。
「イウジェナが、自分から誰かをそばに置くなんて、初めてのことですから」
「少し、はしゃぎ過ぎですよ」
「だってあなた、嬉しいじゃありませんか。あのこが誰かと、いっしょにいたいと思ってくれるなら。まだ十七なのに、シウィだけで良いなんて、寂しいでしょう」
あの少女は、親類を亡くして、オオカミを親代わりに育ったと言う話だったか。
確かに、村長夫婦への受け答えには、どこかよそよそしさがあった。それこそ、他人だと言う長身の男相手の方が、打ち解けて見えるほどに。
「彼女は、なぜ、親族を?」
「それは……」
「強盗に襲われ、家ごと焼かれたのです」
村長の妻が言いよどんだ内容を、村長が口にする。
「イウジェナが生き残ったのは偶然で、家は焼け落ち、遺品も遺体も残らず、イウジェナに遺ったのは、ユキオオカミ達が強盗から取り返した金品だけでした」
ヒトの手で、親も家も奪われ、遺品すらオオカミに守られてやっと手にした、と言うことか。
「イウジェナは、あの見目ですので」
この辺りでは珍しい、否、王都ですらお目にかかれないであろう、美しい白銀の髪を思い出す。先程は、その白銀ですら、赤く血で染まっていたが。
「村でも少し遠巻きにされている、浮世離れしたところのある子です。ヒトよりも、ユキオオカミの方があの子には優しい」
まあ、と村長は苦笑する。
「あの見目ですので、村の若者も優しいですが、あの子はみんな袖にしていますね」
こちらを見ることはなかったものの、夕暮れではなく朝日の下、はっきりと見えた顔を思い起こして納得する。あの美しさは、王都一の歌姫にすら劣らないだろう。ユキオオカミの毛皮がなくとも、あの少女を連れ帰れば、国王陛下は満足するはずだ。
アオォォ……ン
そんな思考を咎めるように、響いた遠吠えに身を固める。周りの部下達も、一様に身体を強張らせ、青ざめていた。
「愚かなことを考えるのはおよしなさい」
村長が、こちらを見て言う。
「復讐の牙は納められただけで、消えたわけではありません。あなた方の行動如何では、すぐにでも喉笛を咬み千切られますよ」
「しかし我々も、なにも獲られぬまま帰るわけには……」
「それで命を落としては、元も子もないと思いませんか。ユキオオカミの恐ろしさは、よくよくわかったでしょう」
村長の言葉に対する反論は、頭のどこを探しても見付からなかった。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
Q.投稿が間に合わなくなっていませんか
A.自転車操業(破綻気味)です
全体的に誤字や訂正漏れ等多いかと思います
申し訳ありません
とりあえず完結まで勢いを止めずに走りたいので
完結後にまとめてチェックします
続きも読んで頂けると嬉しいです




