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trip  作者: 水澤シン
旅の途中〜魔物の王〜
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6/15

十日目

 旅を始めるにあたって、まずセル・クロムは壊れていた方位計を直した。それから世界中の知り合いという知り合いに、今回の一連の出来事に関する手紙を書き、情報があれば極秘で知らせて欲しいと伝書鳥を飛ばした。

 それらを見ていたセシル・レイナー──シーラは、世界中に彼の知り合いが居るという事実にまず驚いて。それから行動の手際の良さに感心した。

 首都から出てはじめの町では、何の手掛かりも得られなかった。数日滞在し町人に話を聞いても、自ら気配を追っても、目的のものらしい情報は無かった。その間にもセルは、シーラが動くのに困らないよう、宿の手配などは手早く済ませてしまっていた。

 探し物──シーラの力そのものである水晶球の欠片は、まだ出発前にセルが見付けた一つだけだ。

 収穫の無い地にいつまでも居ても仕方が無いとその町を出て数日後、次に着いたのは首都ほどでは無いが大きな街だった。

「レッカーさん、先日振りです」

「おっ、セル君じゃないか。思ったより早かったんだな。目的の人には会えたのかい?」

「ええ……まあ」

 宿屋に入って店主らしき初老の男性と話すセルの笑みが弱くなる。首都に向かう際にもこの街、この宿屋を訪れたのだろう。そういう会話だ。

 そしてセルの「会いたかった人」は……会えはしたが、望んだ形では無かった。四年も前に亡くなっていたというのだ。ただその人物──前魔王であるゼシスの名が刻まれた小さな墓標を前に、少し言葉をかける程度しか出来なかった。

「今回は少し目的の違う旅になるので、数日滞在させていただきますね」

「そうかい。アンタなら大丈夫だろうが、無理はすンなよ」

「はい。お気遣いありがとうございます」

 首都でも前回の町でもそうだったが、セルは通りがかりに逢った人とも話をすることがあるようだ。利用したことがあるらしい店の者は彼を知り声をかけ、時折どこで知り合ったのかと思うような人ともすれ違いざまに挨拶や短い会話をする。

 これでは行く先々に「知り合い」が出来るのも無理はないし、旅の範囲次第でそれが世界中にだってなるのも理解出来た。だがこの様子と、“セシル”の側近であるギトスの話を考えると、手紙を送る相手は世界中と言えど彼なりに厳選はしたのだろう。

 数日分の宿代を先払いして、セルはシーラを連れて外へ出た。シーラが気を張り広げ、水晶球の気配を探すのに街の中心付近へ行くのが都合が良い。そこで人通りのほとんど無い場所を探し、そこから探るのだ。

「この街の中心は広場になってるから、少し外れた所に行かないと人通りは多いと思うんだ」

「どうして分かるの?」

 そんなに頻回に訪れているのだろうか。だとすれば知り合いだというゼシスに四年以上も会いに来なかったのは違和感だが。

 そんなことを考えると、思考を読んだかのようにセルは口を開く。

「街や村に入ったらまず宿屋の案内板を見るんだ。そこにその地の全体の簡易地図が掲示されてることが多いから、道具屋も武器屋も探してから動くと迷わずに行動出来るんだよ」

 分かりやすく説明され、ふぅん、と返す。確かに、ある程度の地理が分からないと街中を無駄に歩くことになるということもあるだろう。人によっては急ぎの旅をしている者も居るだろうから、そういう簡易地図などは必要なものなのだろうと理解出来た。

 広場に近付いてくると、後ろの方からバタバタと駆けてくる複数の足音が聴こえた。それらは勢いを緩めることなく迫り、そのまま思い切りセルに飛び付く。

「! うわっ!?」

 突然のことに反応しきれなかったようにバランスを崩したセルは、顔面から地面に倒れ込んだ。彼をクッションにするように、足音の主である子供達も次々とその上に倒れる。

 顔を上げたセルは地面にぶつけた鼻をさすりながら、涙目で背中に乗った子供達を振り返った。

「き、君らか……もうちょっと考えてくれないかな」

「えっへへへ〜」

「ひさしぶり!」

「セルさま、遊ぼ!」

 歳の頃は恐らく十にも満たない程度、そんな子供達が男女三人。無邪気にはしゃぐ様子に、全く、と苦笑しては子供達が転がり落ちないようにしながら起き上がった。

「君達は怪我してない?」

 問えば、大丈夫、と三人が声を揃える。不可抗力とはいえ全てセルが受け止めたおかげで、子供達は皆かすり傷ひとつ無かった。

「シーラ……」

「いいんじゃない? この旅、いつまでかかるか分からないんでしょ? だったら一日や二日くらい、無駄とは思わないわよ」

「ありがとう。やっぱり君は聡明だね」

 投げかけるように向けられた視線の意味は、本当はシーラには分かっていなかった。だけど子供達が「遊ぼう」と言っているのだから、それに応える時間くらいはあるだろうと思っただけで。

 正解だったようだ。セルはふわりと微笑み、子供達も喜んだ様子があった。特に女の子はセルに飛び付き、とても嬉しそうに。

「でもセルさま、さっきのってほんとは……」

「リタ」

 何かを言おうとした女の子・リタの口元に、そっと人差し指を添える。それからその指を自分の口元に持っていき、しぃ、と小さく言っては目を細めた。

 かあっと顔を赤らめたリタは俯くようにして頷き、その様子を見ていた二人の男の子が彼女をからかう。途端に元気になったリタは彼らに言い返す様子も見られた。強かなものだ。

 くすくすと笑ってその様子を見るセルに、シーラは冷めた目を向ける。

「あんな小さな女の子たぶらかすなんて……」

「えっ!? そ、そんなつもりは……」

「冗談よ」

「シーラ〜」

 何とも質(たち)の悪い冗談だ。思ったが、それ以上は何も言えず。

 その後は日が暮れるまで、子供達が望むままに走り回った。

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