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trip  作者: 水澤シン
旅の途中〜魔物の王〜
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11/15

魔王の力を持つ魔物

 思い出して、良かった筈だ。これでセルの言った通り、ちゃんと両親の死と向き合える。ちゃんとお別れが出来るのだから。だけどただ、タイミングが悪かった。

 四年前のあの日のことを思い出して、その魔物の力も思い出してしまって……更に今は、あの魔物は父の力も持っているのだ。

 きっとゼシスならば、娘を守らなければ魔物を倒すことは出来ただろう。だがその彼が、フローラの援護を受けながらも結局負けてしまったのは事実だ。恐らくは魔族の中で誰よりも強い、故に魔王と名乗れている、その彼が。

 魔物の目がシーラを捉え、咆哮をあげる。途端、セルの剣を握る手に力がこもったのを、シーラは見てはいなかった。

「……過去形にするな。あの人は紛れもなく最強の魔王で、彼女はその娘だ」

「え……?」

 地響きのような魔物の声が止むなりセルが言ったことに、シーラは驚きを隠せなかった。どういうことだ。まるで、魔物の言葉を理解したかのようなそれではないか。そんな人の存在など、今まで見たことも聞いたことも無い。

 魔物がまた一声鳴く。それにまた返すようにセルは、術力(マルス)ではない『何か』を放った。

「あの人を、嘲弄(ちょうろう)するな……っ!」

 動き出したセルのその剣さばきを、シーラは追えなかった。冷静さを欠いては相手の思うツボだ……と直前まで思っていたのに、魔物からの攻撃も受けず好戦している彼を見ると言葉が出なくなった。

 その戦いの中で感じるのは、魔物が時々放つ魔法の術力(マルス)だ。先程ここに着く前に感じたものは、魔物のそれだったのかも知れない。

 また、魔物がひとつ鳴く。

「! しまっ……シーラ!!」

「っえ──」

 呆然と、立ち尽くしてしまっていた。何が起こるとも知れない戦いの最中だというのに。思考が止まってしまっていた。

 魔物が放った魔法が、セルの剣をすり抜けてシーラに迫る。たった一声でかわせる筈だった……本来、彼女の持つ力があり、正しく扱えるならば。だけど当のシーラは、力の使い方があまりに未熟だった。

「──!」

 声も出せないまま、魔法が直撃したシーラの身体は宙を舞う。すぐに足を、手を伸ばしたセルがその華奢な身体を受け止めた時、彼女の大きく裂けた腹からは血が溢れ、意識を失っていた。

「シーラ……シーラ!」

 いくら呼びかけても返事は無い。何とか傷を癒さなければ。だけど背後には既にまた魔物が放った魔法が迫り、そんな暇は無い。

「……──シルト」

 声とともに、盾の魔法が展開する。今まで全く無かった筈の、セル自身の術力(マルス)によって。その強力な盾は、いとも簡単に魔物の魔法を弾き返した。

 跳ね返った魔法はそのまま魔物に襲いかかり、何とかそれを避けたと思った魔物の片足を裂いていた。

 その隙に軽くシーラの傷を塞ぐだけの治癒魔法をかけ、ゆっくりと横たえてからセルは魔物の方へ向き直り立ち上がった。本当はもっとちゃんと治療したいし、離れた場所へ寝かせたい。だが今はそれどころではない。

 体勢を立て直すなり次々と放ってくる魔物の魔法をかわしながら、セルは少し苛ついてくる自分に気付いた。

「いくらゼス兄の力を持っていても、それでは持ち腐れだな」

「へぇ……そいつが例の魔物なのか」

 背後でふわりと風が舞ったのが分かり、少し弾んだ呼吸をしながらの声が届いた。この声は知っている。この風は、きっとシーラを少し離れた安全な場所まで運んでくれているんだ。

 振り返ってわざわざ隙を作ってやることなどせず、そこに居るのが『誰』かなんて分かりきったことを確認することもなく、一言「そうだ」と返した。

「アシュヒト、援護を頼む」

「はいよっと──フェーダー」

 そこに居た人物・アシュヒトが紡いだ魔法で、セルの身体がふわりと軽くなった。これで動きやすくなった。

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