第9話 『誤算』
残り10分を切った。
あと少しでゲームクリアに、たどり着ける。
洸たち、全員がそう思っていた。
龍斗「あと何分?♪」
その言葉から、實は携帯を取り出し確認した。
實「残り7分だ!みんな、がんばれ!!」
その掛け声で、全員が安堵を感じたのだ。
この瞬間、この瞬間を黒いローブの鬼は狙っていた。
安堵し、気持ちが緩むその瞬間を狙っていた。
――――――――・・・・・・。
快兎「なんだ…。何の音だ…?」
洸「どうした?快兎!」
茜「手を止めたらだめよ!」
白「なにかあったの快兎?」
森下快兎。彼は耳が良かった。
そこらの人よりも何十倍、何百倍にも良かった。
生まれつきのことだった。
快兎は、生まれつき耳が良かった。
昔、そのことが原因でいじめられていた。
小学生の頃は、気味が悪い、化け物だ。罵詈雑言ばかりが聞こえてくる日常。
中学時代には、快兎に好きな女子ができた。
そして、勇気を出したら付き合えた。小学校の頃が嘘かのような毎日だった。
だが、それもすぐに壊された。耳が良すぎるから、彼女がどんな行動をとっているのかも、
すぐにわかってしまった。浮気が発覚した。それを注意すると、彼女からも気味悪がられた。
結局元々の日常が帰って来た。一人だったあの頃に。
快兎は、自分の耳を恨んだ。憎んだ。
だが、高校に入り変わった。
そんなことを気にする人間はいなかった。
最初は驚かれた。だけど、すごいって褒められもしていた。
そのきっかけが、『彼』だった。
初めてだった。今までにそんな人はいなかった。
もちろん最初は疑っていた。どうせ裏切るって。
そんなこと、高校生活の最後までなかった。
初めて出会えた。『友人』と呼べる人に。
その人の周りには、不思議な人が多かった。
誰も蔑まなかった。罵詈雑言もなくなった。
そして、初めて耳のことで泣けた。
いい涙だった。悔しいとか、憎い涙じゃなかった。
嬉しい涙を流していた。
もう、一人じゃなくなった。
仲間ができた。心の底から大切にしたいと思える仲間が。
そして、今もその耳の良さは健在していた。
その耳が捉えた音は、なにかははっきりとわからなかった。
ただ、本能では嫌な気配を感じ取っていた。
快兎「いや…。何か聞こえたんだ。」
――――――――・・・・・・・・・・・。
快兎「まただ!またした!」
洸「何が聞こえるってんだ?」
それと同時に、もう一人何かを感じ取っていた人がいた。
蒼「(なんだ…?煙の流れが変わった…?)」
焦吉「どうした!蒼!」
猫峰蒼。彼は目が良かった。
生まれつきに備わっていたものだった。
その目の良さは人並を外れていた。
視力4.0。普通の人間には見られないような距離の物ですら見える。
動体視力もよかった。
そんな彼は、その凄味から人気者だった。
普通の人間では、あり得なかったからだ。興味を引き付けていた。
周りの人間に興味を持たせていた。
蒼は、そんな目をいつまでも大事にしようと決めていた。
上手く使えば、人を助けられる。そう信じていた。
今も、その目は健在だった。
蒼の捉えたものの変化。投げているときの、自分たちの風によるものかもしれなかった。
蒼「いや。気のせいかもしれない。」
焦吉「そうか?手止めんなよ!」
蒼「あぁ!」
蒼は、不確定なことは言えなかった。
そして、休むことなく、全員は煙玉を投げ続けた。
實「いけるぞ!あと5分だ!!」
龍斗「この煙玉もギリギリだね♪」
――――――――・・・・・・・・・・・・。
快兎「鬼からだ!あの場所からするんだ!!」
洸「なに?」
茜「あと少しなんだよ!大丈夫よ!」
鬼から聞こえた音。
それは気のせいではない。
風を切る音。
その正体もすぐにわかってしまった。
そんな事態が起きた。
――――――――ヒュンッ!!!!!!!1
快兎「なんだ…音が…!音が近づいてくる!!!」
洸「なに?!」
茜「え?何が近づいてくるって?」
快兎「避けろ!!!!」
そう快兎の叫びが聞こえた瞬間に、
快兎は洸を連れて、白は茜を引っ張り、隣の教室へと入れた。
その瞬間だった。
目の前を勢いよく、ワイヤーが突き抜けた。
もしいち早く気づけていなかった、突き刺さっていた。
そう思わせる速度だった。
歩「いやあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
歩の声と同時に、4人は後ろの廊下、美南たちを見た。
美南「うそ…でしょ…?」
麻衣「……っ。」
座り込んでいる麻衣、目を閉じて叫んでいる歩、立ち尽くしている美南。
3人の姿が洸たちの目に入った。
そして、もう一人。
腹部にさっきのワイヤーが突き刺さている未希の姿もあった。
蒼「なっ…?!」
龍斗「…え。」
實「…っ。」
反対側の3人の目にも、衝撃的な光景が飛び込んできた。
焦吉「なにっ…!」
蒼「焦吉!!」
龍斗「うそ…でしょ…?」
焦吉の太腿には、鬼のワイヤーが突き刺さっていた。
龍斗たちには、耳で探知することが出来なかった。
目に映った時に、ようやく気づけていた程だった。
快兎たちは、耳で探知できていたから回避できた。
實「あの鬼!まだ動くぞ!!」
鬼は、そのワイヤーを引き戻した。
焦吉の足に刺さったのと、未希の腹部に刺さっていたワイヤーが抜けた。
その瞬間、2人は倒れた。
焦吉は、足から崩れるように、未希は前に倒れるように倒れた。
煙が晴れていき、鬼の姿が目で捉え始めた。
鬼はワイヤーを左右に伸ばして、教室に入れていた。
そして、次の瞬間。
――――――――パリーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!
教室の窓を派手に割った。
龍斗「まずいな…。はやく、目の届かないとこに焦吉さんを!」
その声と共に、焦吉を担ぎ近くの階段を駆け下りた。
そして、龍斗は洸たちの方向へと走った。
作戦の失敗を報告するために走った。
鬼の目の前に、もう一度残り少ない煙玉を投げ、龍斗は鬼の横を通り抜けた。
危険な賭けだったが、龍斗は確信していた。
ワイヤーを伸ばしている両手で、すぐには攻撃できない。
そう、確信していた。
そして、ついさっきの出来事や作戦のことを話した。
龍斗は洸を連れて2階へ。
歩、美南、麻衣、白、茜、快兎の6人は未希を運び、治療のできる保健室へと向かった。
龍斗と洸は、あえて遅く走り背後の3人と、保健室に向かう女子たちの囮になった。
龍斗「ごめんね♪巻き込んで♪」
洸「貸しだぞ。」
龍斗「はいは~い♪お互い、生きてたらね♪」
2人は2階の化学準備室に向かった。
――――――――ガチャン。
2人は足早に、化学準備室に入っていった。
洸「残り5分きったか…。」
龍斗「そうだね♪」
2人は、心身ともに疲れ切っていた。
鬼をまき、クラスメイトも傷を負ってしまった。
その場にいた12人は、大損害だった。
洸「で?ここに来たってことは、煙玉を作るのか?」
龍斗「ううん♪違うよ♪いま、僕の持っているこれ使って時間稼ぎするんだよ♪ここでね♪」
そう言い、この狭い空間で準備を始めた。
――――――2階 階段踊り場 <蒼・焦吉・實SIDE>――――
鬼の反撃から脱した3人は、階段の踊り場で座り込んでいた。
そこで2人は、焦吉の怪我の血を止めていた。
蒼「大丈夫か…?!」
實「くそっ。この様子だと、走ることができねぇぞ…!」
焦吉「お……てけ……。」
焦吉が口を開いて何かつぶやいていた。
蒼「どうした…?」
焦吉「俺を…俺を置いてけ……!足手まといだ……!」
声を振り絞って、そう言った。
置いてけ。それは、俺を犠牲にして逃げろ。
そういう意味も込められていた。
蒼「何ふざけたこと言ってんだ!!できるわけないだろ!!みんなで……みんなで生き残んだよ!!」
焦吉「馬鹿野郎……っ!死ぬぞ…。俺のせいで3人共倒れは嫌なんだよ……!」
實「焦吉の言う通りだ。共倒れはごめんだ。」
蒼「は……?なにいってんだよ…。見捨てろってことかよ!!」
實「ちげぇよ。共倒れはごめんって言ったんだ。なにも見捨てるなんて言ってねぇだろ。」
蒼「……っ。」
焦吉「馬鹿……。そのせいで…俺のせいになったら耐えられなくなる……!!」
實「うるせぇ。死なせねぇ。誰一人欠けることなく保健室に向かう。そこなら治療できんだろ。応急処置くらいはな……。」
焦吉「もし…。もし奴がきたら…!!」
實「問題ねぇ!!奴は来ない。絶対にだ。龍斗が言ったんだ……!!」
――――逃げる直前の出来事――――
煙に覆われた空間に怪我人と、それを見て唖然としている3人がいた。
―――――――――パリーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!
鬼はワイヤーを利用し、教室の窓を派手に割った。
龍斗「まずいな…。はやく、目の届かないとこに焦吉さんを!」
その声と共に、焦吉を担ぎ近くの階段を駆け下りようとした。
だが、龍斗は逃げようとしなかった。
實「龍斗!はやく!!」
實が立ち止まり、そう問いかけた。
龍斗「いや。逃げてよ。僕は他の人に伝えに行くよ。焦吉くんが動けないんだ…追われたら逃げれないでしょ♪」
實「そこはなんとかすれば……!」
龍斗「むりだね。なーに、4人とも死ぬことはないよ。僕は時間を稼ぐ。だから、逃げてね♪」
實「バカ!それじゃ、お前が!!」
龍斗「これは、僕の作戦のせいで起きたことなんだ♪巻き込んだ僕が何もしないのは、僕が後々後悔する。それが、嫌なんだ。だから、行って。2人を……頼んだよ♪」
實「龍斗……!」
龍斗は微笑みながら、その煙の向こうに走り去ってしまった。
――――そして、現在――――
その細かな話を實は話した。
その時、蒼は焦吉のことで手一杯で聞いていなかった。
だから、わからなかった。
こんな一連の流れがあったとは。
蒼「じゃあ、龍斗は!?」
實「……っ。わからない。」
蒼「俺らのために……あいつは……。」
實「今は信じるしかねぇ。」
蒼「……。」
實「必ず生きて帰ってくる。必ずだ!」
實はどこからかわからなかったが、そんな自信を抱いていた。
それと同時に、鬼への怒りも覚えていた。
第9話 『誤算』(完)




