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ログアウト  作者: 狐野柄
第一章:FIRST GAME
9/22

第9話 『誤算』

残り10分を切った。

あと少しでゲームクリアに、たどり着ける。

洸たち、全員がそう思っていた。


龍斗「あと何分?♪」


その言葉から、實は携帯を取り出し確認した。


實「残り7分だ!みんな、がんばれ!!」


その掛け声で、全員が安堵を感じたのだ。

この瞬間、この瞬間を黒いローブの鬼は狙っていた。

安堵し、気持ちが緩むその瞬間を狙っていた。


――――――――・・・・・・。


快兎「なんだ…。何の音だ…?」


洸「どうした?快兎!」


茜「手を止めたらだめよ!」


白「なにかあったの快兎?」


森下快兎(もりしたかいと)。彼は耳が良かった。

そこらの人よりも何十倍、何百倍にも良かった。

生まれつきのことだった。

快兎は、生まれつき耳が良かった。

昔、そのことが原因でいじめられていた。

小学生の頃は、気味が悪い、化け物だ。罵詈雑言ばかりが聞こえてくる日常。

中学時代には、快兎に好きな女子ができた。

そして、勇気を出したら付き合えた。小学校の頃が嘘かのような毎日だった。


だが、それもすぐに壊された。耳が良すぎるから、彼女がどんな行動をとっているのかも、

すぐにわかってしまった。浮気が発覚した。それを注意すると、彼女からも気味悪がられた。

結局元々の日常が帰って来た。一人だったあの頃に。


快兎は、自分の耳を恨んだ。憎んだ。

だが、高校に入り変わった。

そんなことを気にする人間はいなかった。

最初は驚かれた。だけど、すごいって褒められもしていた。

そのきっかけが、『彼』だった。

初めてだった。今までにそんな人はいなかった。

もちろん最初は疑っていた。どうせ裏切るって。

そんなこと、高校生活の最後までなかった。

初めて出会えた。『友人』と呼べる人に。

その人の周りには、不思議な人が多かった。

誰も蔑まなかった。罵詈雑言もなくなった。

そして、初めて耳のことで泣けた。

いい涙だった。悔しいとか、憎い涙じゃなかった。

嬉しい涙を流していた。

もう、一人じゃなくなった。

仲間ができた。心の底から大切にしたいと思える仲間が。


そして、今もその耳の良さは健在していた。

その耳が捉えた音は、なにかははっきりとわからなかった。

ただ、本能では嫌な気配を感じ取っていた。


快兎「いや…。何か聞こえたんだ。」


――――――――・・・・・・・・・・・。


快兎「まただ!またした!」


洸「何が聞こえるってんだ?」


それと同時に、もう一人何かを感じ取っていた人がいた。


蒼「(なんだ…?煙の流れが変わった…?)」


焦吉「どうした!蒼!」


猫峰蒼(ねこみねあお)。彼は目が良かった。

生まれつきに備わっていたものだった。

その目の良さは人並を外れていた。

視力4.0。普通の人間には見られないような距離の物ですら見える。

動体視力もよかった。

そんな彼は、その凄味から人気者だった。

普通の人間では、あり得なかったからだ。興味を引き付けていた。

周りの人間に興味を持たせていた。

蒼は、そんな目をいつまでも大事にしようと決めていた。

上手く使えば、人を助けられる。そう信じていた。


今も、その目は健在だった。

蒼の捉えたものの変化。投げているときの、自分たちの風によるものかもしれなかった。


蒼「いや。気のせいかもしれない。」


焦吉「そうか?手止めんなよ!」


蒼「あぁ!」


蒼は、不確定なことは言えなかった。


そして、休むことなく、全員は煙玉を投げ続けた。


實「いけるぞ!あと5分だ!!」


龍斗「この煙玉もギリギリだね♪」


――――――――・・・・・・・・・・・・。


快兎「鬼からだ!あの場所からするんだ!!」


洸「なに?」


茜「あと少しなんだよ!大丈夫よ!」


鬼から聞こえた音。

それは気のせいではない。

風を切る音。

その正体もすぐにわかってしまった。

そんな事態が起きた。


――――――――ヒュンッ!!!!!!!1


快兎「なんだ…音が…!音が近づいてくる!!!」


洸「なに?!」


茜「え?何が近づいてくるって?」


快兎「避けろ!!!!」


そう快兎の叫びが聞こえた瞬間に、

快兎は洸を連れて、白は茜を引っ張り、隣の教室へと入れた。

その瞬間だった。

目の前を勢いよく、ワイヤーが突き抜けた。

もしいち早く気づけていなかった、突き刺さっていた。

そう思わせる速度だった。


歩「いやあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


歩の声と同時に、4人は後ろの廊下、美南たちを見た。


美南「うそ…でしょ…?」


麻衣「……っ。」


座り込んでいる麻衣、目を閉じて叫んでいる歩、立ち尽くしている美南。

3人の姿が洸たちの目に入った。

そして、もう一人。

腹部にさっきのワイヤーが突き刺さている未希の姿もあった。


蒼「なっ…?!」


龍斗「…え。」


實「…っ。」


反対側の3人の目にも、衝撃的な光景が飛び込んできた。


焦吉「なにっ…!」


蒼「焦吉!!」


龍斗「うそ…でしょ…?」


焦吉の太腿(ふともも)には、鬼のワイヤーが突き刺さっていた。

龍斗たちには、耳で探知することが出来なかった。

目に映った時に、ようやく気づけていた程だった。

快兎たちは、耳で探知できていたから回避できた。


實「あの鬼!まだ動くぞ!!」


鬼は、そのワイヤーを引き戻した。

焦吉の足に刺さったのと、未希の腹部に刺さっていたワイヤーが抜けた。

その瞬間、2人は倒れた。

焦吉は、足から崩れるように、未希は前に倒れるように倒れた。


煙が晴れていき、鬼の姿が目で捉え始めた。

鬼はワイヤーを左右に伸ばして、教室に入れていた。

そして、次の瞬間。


――――――――パリーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!


教室の窓を派手に割った。


龍斗「まずいな…。はやく、目の届かないとこに焦吉さんを!」


その声と共に、焦吉を担ぎ近くの階段を駆け下りた。

そして、龍斗は洸たちの方向へと走った。

作戦の失敗を報告するために走った。

鬼の目の前に、もう一度残り少ない煙玉を投げ、龍斗は鬼の横を通り抜けた。

危険な賭けだったが、龍斗は確信していた。

ワイヤーを伸ばしている両手で、すぐには攻撃できない。

そう、確信していた。

そして、ついさっきの出来事や作戦のことを話した。


龍斗は洸を連れて2階へ。

歩、美南、麻衣、白、茜、快兎の6人は未希を運び、治療のできる保健室へと向かった。

龍斗と洸は、あえて遅く走り背後の3人と、保健室に向かう女子たちの囮になった。


龍斗「ごめんね♪巻き込んで♪」


洸「貸しだぞ。」


龍斗「はいは~い♪お互い、生きてたらね♪」


2人は2階の化学準備室に向かった。


――――――――ガチャン。


2人は足早に、化学準備室に入っていった。


洸「残り5分きったか…。」


龍斗「そうだね♪」


2人は、心身ともに疲れ切っていた。

鬼をまき、クラスメイトも傷を負ってしまった。

その場にいた12人は、大損害だった。


洸「で?ここに来たってことは、煙玉を作るのか?」


龍斗「ううん♪違うよ♪いま、僕の持っているこれ使って時間稼ぎするんだよ♪ここでね♪」


そう言い、この狭い空間で準備を始めた。


――――――2階 階段踊り場 <蒼・焦吉・實SIDE>――――


鬼の反撃から脱した3人は、階段の踊り場で座り込んでいた。

そこで2人は、焦吉の怪我の血を止めていた。


蒼「大丈夫か…?!」


實「くそっ。この様子だと、走ることができねぇぞ…!」


焦吉「お……てけ……。」


焦吉が口を開いて何かつぶやいていた。


蒼「どうした…?」


焦吉「俺を…俺を置いてけ……!足手まといだ……!」


声を振り絞って、そう言った。

置いてけ。それは、俺を犠牲にして逃げろ。

そういう意味も込められていた。


蒼「何ふざけたこと言ってんだ!!できるわけないだろ!!みんなで……みんなで生き残んだよ!!」


焦吉「馬鹿野郎……っ!死ぬぞ…。俺のせいで3人共倒れは嫌なんだよ……!」


實「焦吉の言う通りだ。共倒れはごめんだ。」


蒼「は……?なにいってんだよ…。見捨てろってことかよ!!」


實「ちげぇよ。共倒れはごめんって言ったんだ。なにも見捨てるなんて言ってねぇだろ。」


蒼「……っ。」


焦吉「馬鹿……。そのせいで…俺のせいになったら耐えられなくなる……!!」


實「うるせぇ。死なせねぇ。誰一人欠けることなく保健室に向かう。そこなら治療できんだろ。応急処置くらいはな……。」


焦吉「もし…。もし奴がきたら…!!」


實「問題ねぇ!!奴は来ない。絶対にだ。龍斗が言ったんだ……!!」


――――逃げる直前の出来事――――


煙に覆われた空間に怪我人と、それを見て唖然としている3人がいた。


―――――――――パリーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!


鬼はワイヤーを利用し、教室の窓を派手に割った。


龍斗「まずいな…。はやく、目の届かないとこに焦吉さんを!」


その声と共に、焦吉を担ぎ近くの階段を駆け下りようとした。

だが、龍斗は逃げようとしなかった。


實「龍斗!はやく!!」


實が立ち止まり、そう問いかけた。


龍斗「いや。逃げてよ。僕は他の人に伝えに行くよ。焦吉くんが動けないんだ…追われたら逃げれないでしょ♪」


實「そこはなんとかすれば……!」


龍斗「むりだね。なーに、4人とも死ぬことはないよ。僕は時間を稼ぐ。だから、逃げてね♪」


實「バカ!それじゃ、お前が!!」


龍斗「これは、僕の作戦のせいで起きたことなんだ♪巻き込んだ僕が何もしないのは、僕が後々後悔する。それが、嫌なんだ。だから、行って。2人を……頼んだよ♪」


實「龍斗……!」


龍斗は微笑みながら、その煙の向こうに走り去ってしまった。


――――そして、現在――――


その細かな話を實は話した。

その時、蒼は焦吉のことで手一杯で聞いていなかった。

だから、わからなかった。

こんな一連の流れがあったとは。


蒼「じゃあ、龍斗は!?」


實「……っ。わからない。」


蒼「俺らのために……あいつは……。」


實「今は信じるしかねぇ。」


蒼「……。」


實「必ず生きて帰ってくる。必ずだ!」


實はどこからかわからなかったが、そんな自信を抱いていた。

それと同時に、鬼への怒りも覚えていた。




第9話 『誤算』(完)

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