第10話 『抗い続ける人間』
残された時間はあと僅か。
化学準備室の2人は鬼が来るのを待っていた。
洸「そういえばよ、こんなこと聞くのおかしいと思うんだけどいいか?」
龍斗「ん?♪」
洸「お前のよ、家族ってどんな人なんだ?」
龍斗「……っ?!」
洸「いや、ほらよ、龍斗の家族と会ったことないなって思ってだな。」
龍斗「……。」
龍斗はその質問に対して、しばらく沈黙していた。
何も言わずに、ただ黙っていた。
洸「どうしたんだ……?って!聞いちゃまずかったか?!」
龍斗「え?!いや!別に大丈夫。あまり聞く人いなかったから、珍しいなって思ったんだ♪」
洸「そうか?」
龍斗「…うん♪」
また、しばらく沈黙した。
だが、すぐに龍斗は口を開いた。
龍斗「家族ね…。洸くんの家族はどんな人なの?」
洸「おれか?俺はなー、仲がいいんだ。弟も母さんも父さんもな。みんな仲がいいぞ。それに母さんは怒ると怖いけど、優しくて、心配性で…。」
洸の口が止まった。
龍斗「え……。」
龍斗は驚いていた。
洸の姿を見て驚いていた。
洸は泣いていた。
洸「母さん…。父さん…。達輝…。会いてぇな…。生きてぇな…。」
泣いていた。涙を流していた。
『会いたい』『生きたい』二つの言葉を言いながら、泣いていた。
龍斗「洸…。大丈夫?」
洸「…っ!あぁ!わりぃな…。恥ずかしいなこの歳にもなってよ…。」
龍斗「恥ずかしい?どうして?僕はいいと思うな。いつまでも…親のこと思える人って……。すこし、羨ましく思えるよ。」
洸「え?」
龍斗「ううん♪何でもないよ♪」
洸「龍斗は、会いたいのか?家族に……。」
龍斗「……っ!」
龍斗は、また少しだけ黙った。
龍斗「あぁ。会いたいな。母さんにも、父さんにも、姉ちゃんにもね。」
洸「姉ちゃんいるのか!」
龍斗「うん。困ってる人がいたら、助けずにいられないくらいに優しくて、僕のことをいつも気にかけてくれる、そんな姉ちゃんだよ。」
洸「そっくりだな。」
龍斗「え?」
洸「そっくりだって言ったんだよ。龍斗にさ。」
龍斗「……っ!!」
その言葉を聞き、下の向いていた頭が勢いよく上がり、洸のことを見た。
洸「そうだろ?すぐに誰かを助けるために、自分を犠牲にする。龍斗そのまんまじゃんか。」
『龍斗!!危ないっ!!!!!』
『姉ちゃん?お姉ちゃん?』
『………………が……じ…で良かっ…た……。』
龍斗の頭の中で、何かがフラッシュバックした。
洸「おい?大丈夫か?」
龍斗「あ、うん。大丈夫。」
洸「そっか。」
龍斗「洸くん。」
龍斗が立ち上がり、洸に背中を見せて言った。
龍斗「僕は、まだそんな大層な人間じゃないよ。」
洸「……龍斗。」
龍斗「(そう。そんな大層な人柄じゃない。まだ、この身が滅んでいない以上、僕はまだ何もできない頃のまんま。この場を借りて、僕は姉ちゃんのような優しくて、強い人間になるんだ。約束なんだから。)」
――――――――コツ、コツ、コツ・・・。
鬼の足音が近づいてくる。
2人には感じ取れた。
もうすぐここに来る。
洸「龍斗。」
龍斗「わかってます♪」
洸「母さんたちに、また会うために!」
龍斗「待ってくれてる仲間のために!」
洸「必ず生き残ってみせる!」
龍斗「必ず生き残りますよ♪」
足音が扉の前で止まる。
目の前に、鬼がいる。
すぐそこにいる。
洸「さて、たった残り1分だ。凌いでやろーぜ。」
龍斗「そうだね♪たった1分ぐらい楽勝だね♪」
――――――――プシューーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
2人は煙を撒いた。
それと同時に…。
――――――――ガンッ!!!
鬼はカギを壊した。
洸「最後の時間楽しもうや。」
龍斗「えぇ♪」
煙が廊下にも広がった。
鬼の姿も、互いの姿も見えないくらいに。
――――――――ヒュン!!!
鬼は、持っていたワイヤーをまっすぐ飛ばした。
凄まじい速度でワイヤーは、2人を通り抜けた。
洸「(こんなの当たったら一発で天国だな……。)」
――――――――パリーーーーーーーーーーーーン!!!!!
直線上にあった窓ガラスが激しく割れた。
龍斗「(当たれば即死…だね♪)」
――――1階 廊下 <實・焦吉・蒼SIDE>—―――
3人は、1階にある保健室へと向かっていた。
實は焦吉を担ぎ、蒼は辺りを注意深く見ていた。
蒼「今の音…!鬼が?!」
實「あぁ、多分な。」
蒼「すごい音だった…。」
實「急ぐぞ。あと少しだ。」
蒼「お、おう。」
實「(龍斗…。俺は信じてるからな。お前の頭脳で、乗り切れることを信じてるぞ。)」
3人は、引き返すことはせずに、ただ信じて廊下を進んだ。
――――化学準備室 <洸・龍斗SIDE>—―――
洸「(残り30秒…!あと少し!!)いける!!」
龍斗「油断禁物だよ♪」
ワイヤーが四方八方、縦横無尽に飛び交っている。
相手からは、洸たちの姿が見えていない。
洸「(くっ…!)」
ワイヤーの動きが徐々に激しくなる。
龍斗「(くっそ。かすってしまう。限界か…。)」
洸「(あと少し…!)」
龍斗「(人生で一番長い30秒だね、これ♪)」
洸「(20秒…!)」
ワイヤーは、2人の身体を何度も何度も掠めた。
2人の身体には、所々に切り傷ができていた。
龍斗「(狭い…。こんな空間でよく、僕たちは…。)」
煙が晴れてしまった。
時間切れ。
すでに、煙玉はもうない。
手元にあったものは、すべて使いつくしてしまった。
洸「しまっ………!!!」
鬼が、洸の目の前に飛び込んできた。
洸は、割れた窓を背にし、追い込まれていた。
鬼はすぐさま、身体にワイヤーを巻き付けようとした。
龍斗「洸くん!!!」
死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
そんなことで、洸の頭の中はいっぱいだった。
終わる。死ぬ。命の終わり。
こんなとこで終わるんだ。
もっと、生きたかったな。
まだ、したいこと終わってないな。
『まだ、生きていたいな。』
そう、頭の中で瞬時に、いろんな思い出と共に流れ込んできた。
第10話 『抗い続ける人間』 (完)




