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四十七話 入学編その三(誰に殺されるか分からなくなった今日この頃です)

 そこに立ち尽くしていたのはルビーだけではない。ハルも、ヤマ達もそこに居た。全員、瞳に光が無いのもまた同じだ。


 やはり、ヤマ達も捕らわれてしまっていたようだ。可能性としては考えていたが、まさか事実そうなるとは。これは少々、振り分けを考え直さなければならないだろう。


 そうして、ルビー達から視線を外して辺りの様子も探る。分かったのは、ここがだだっ広い部屋だと言うことと、ラファエロの趣味が窺える模様だと言うことか。


 あちらこちらに大小様々な人形が棚や椅子に並べられ、一見してファンシーな様相をしている。これでラファエロの物でなければ、随分と可愛らしいとでも表現出来るのだが。


「また気色悪いな」


 おかげで、気味の悪い部屋としか感じず、薄ら寒いとすら思えてくる。


「うえっ、んだよこの部屋」


「少し人形が生々しく感じますね」


「女の子舐めてるよねー」


「……アリア……女子……?……」


 いつの間に居たのか、後ろを向けばクリス達がこの部屋を思い思いに批評していた。シスはまた違う暴言を吐いていたような気もするが、指摘しないでおこう。アリアも気付いていないのだから、俺が触れることではない。


 それよりも大事なのは、クリス達の背後だ。先程まではあったはずの魔法陣は消え去り、残っているのは壁だけだった。これに、平然とした様子を心掛けながらも周囲を見渡す。扉は無い。完全に閉じ込められた形になる。


「ラファエロはどうした?」


 この状況で、まず俺が口に出したのがそれだった。閉じ込められるのはある程度予想出来ていた。だから、それはいい。問題はラファエロの居所だ。


 こちらを何とかしなければ、例えルビーを取り戻しても手の打ちようがない。クリス達を順々に見ていったが、答えられる者は居なかった。つまり、ラファエロ自ら姿を現さなければ、居所は分からないことになる。


 そうして、どうするべきか思考を巡らせる。だが、その居所は意図も簡単に明らかとなった。ラファエロ自らの手で。


「僕はここだよ」


 その言葉とともに、ラファエロは俺達の前に姿を現した。


「どうかな、僕のプライベートルームは。気に入ってくれたのなら嬉しいのだけど」


「生憎と、俺達にはハイセンスみたいで共感はしてやれないな」


 そう、残念だよ、と零すラファエロ。皮肉を言ったところで気にもしないと言った様子だ。そして、ラファエロはそのままくるりと踵を返す。


「それじゃあ、僕は見物をしているよ。君達がどうしたいのかは知らないけど、楽しませてくれたら嬉しいな」


 部屋の奥へと進むラファエロは、程なくして一つ空いていた椅子に腰掛けた。言葉通り、見物するために。


 だが、これはある意味俺達にとっては好都合だ。最初からラファエロを省ける。ヤマ達が増えてどうなるかと思ったが、少し振り分けを変えるだけで済みそうだ。


「リリー、何人結界に閉じ込められそうだ?」


「今はこの法衣しかありませんから。錫杖も無く、聖霊や神霊も居ないのでは、全員は無理です。精々、彼らだけでしょう」


 リリーが指差したのはハルを除いたヤマ達だった。それが今のリリーの限界だ。


 そう言えば、と思い出す。あれは学園に入学する二、三日前のことだった。たわいない話の流れで、以前の世界の話になった。もっとも、軽い談笑程度の話だったが、その時にリリーは言っていた。着の身着のままでこちらの世界に渡ったのだ、と。


 なるほど、と頷く。あの時の話はそのままの意味だったようだ。よくよく考えれば、アリアなどもそうだ。着の身着のままでこちらの世界に渡って来ている。


「分かった。なら、それで頼む。アリアとクリスはハルを任せた。シスには全員のサポートを頼めるか? 俺はルビーを正気に戻す」


 そうして多少の変化はありつつも、それで異論が出ることもなく、全員が頷く。俺一人でルビーに挑むのは危険を孕むものだが、信じてくれているようで有り難い。もっとも、俺が一人でルビーに挑むのには後ろめたい事情があるからなのだが。


 クリス達に言えば猛反発を食らうことを俺はやる。多分、やったあとでも猛反発は必至だ。と言うか、猛反発の一点に絞るなら事後の方が危険かもしれない。やる前だと止められてしまうので、仕方ないことだが。


 さて、それはさて置き、準備は整った。あとは実行に移すだけだ。


 そう思って前を向けば、タイミング良くラファエロが告げる。話し合いが終わるのを見計らっていたのだろう。


「準備は出来たようだね。では、始めようか」


『あの五人を倒せ。殺しても構わない』


 それが合図だった。光の無かったルビー達の瞳に、ほの暗くそれでいて不気味な光が灯る。直後、戦闘は始まった。


 まず、リリーが急ぎ結界を構築し、ヤマ達を閉じ込める。散らばる前に確保するため、かなり強引なものだったようだ。少しばかり息を乱していた。だが、捕らえてしまえば問題無いとばかりに、次の瞬間には笑みを浮かべていた。


 続いて、それを確認したアリアが飛び出す。追随しようとしたクリスを引き離す勢いだ。そのまま、真っ先にハルと抗戦する。片腕だけとは思えないその戦いぶりは、クリスの援護すら必要としないほどだ。慣れている、と言うべきか。どこかしらの四肢が欠損していてもバランスを失わず、戦う術を心得ているようだった。


 その間に、クリスも抗戦に加わる。だが、二人の戦いに割って入るようなものではなく、あくまでもアリアのフォローに徹するようだ。片腕で捌ききれない手数の多い攻撃を邪魔するなどして、上手く戦っている。


 シスは今のところ動き無しだ。全体のサポートであり、ラファエロの監視が主なため仕方ない。何か戦況に変化があれば、自ずと動くだろう。もっとも、それは俺が一番早くそうなるかもしれないが。


 アリアが飛び出した時、俺もまたルビーに向かい駆けていた。そして、対峙した瞬間にルビーとの戦闘が始まった。


 腹の怪我に加えて実力の差もあり、早々に防戦になってしまった。操られているためか、本来の力ではないようだが魔王と名乗るだけはある。正直、何故防戦とは言え戦えているのか不思議なくらいだ。


 だが、これは僥倖とも言える。目的を果たすにしても、早々に倒されては意味がない。何より、ルビーは近接戦闘での戦いをしてくれている。これは俺が行おうとしている事を考えれば好都合でしかなかった。


 じりじりとタイミングを計る。仕掛けるのはルビーが接近した時だ。その時に腕でも何でも掴んで懐に入れれば、俺の勝ち。つまりはルビーを取り戻せる。


 一撃、一撃を逸らす。まだ、まだ違う。ここではない。これも違う。来た、ここだ。


 そうして、絶好の機会が巡ってきた。腕は取れない。だが、右腕を犠牲にすれば懐には入れる。そう判断し、素早く俺は犠牲を払う決断をする。


 生々しく骨が砕かれる音が聞こえ、骨が飛び出たのだろうか、内側に血飛沫が飛ぶ。瞬間、毛が逆立ち形容しがたい痛みが駆け巡る。目の前が霞み、絶叫が喉元まで込み上げてくる。


 だが、懐には入った。絶叫も気力で飲み込んだ。覚悟は出来ている。あとはルビーの首裏に残った左手を回し、引き込むだけだ。


 そして、俺はルビーの唇に自分の唇を押し当てる。しかし、これで終わりではない。次いで、そのままルビーの唇をこじ開け、舌をねじ込む。直後、ルビーの柔らかな舌が触れる。それを絡め取るようにして、俺は口内を蹂躙し尽くした。


 しばらく経って、ようやく唇を離す。その時に思ったのは、痛みやキスの余韻の事などではなく、ただ一言、終わったな、の一言だった。



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