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四十三話 入学編その三(眠気がピークになると変なテンションになりがちです)

 あれから場所はそのままに、話は今後の動き方についてに移行していった。本当は一眠りして日が昇った頃にしようとしたのだが、このまま話してしまおうと言う意見があり、そちらに従った。


「まずはラファエロの居場所だけど、これに関して分かる奴は居ないか」


 話し合いが始まって一番にこれを挙げたが、やはり誰も知らないようだ。揃って首を横に振られてしまった。だが、こればかりは仕方ない。期待もしていなかったので、手早く次に移る。


「それじゃあ、これは俺の方で何とかする。次、役割分担しとこう。俺とアリアが直接戦闘、リリーとシスは後方支援。クリスはどうするか」


 正直言って、クリスをどこに配置するかは難しいところだ。以前にも言ったが、クリスの力は戦闘向きではない。いや、正しく言うのなら、戦闘に使うには危険過ぎる力なのだ。普段の何かを直すようなことならまだしも、戦闘では些細なミスで制御し切れなくなる恐れがある。


 そう考え、俺は判断出来ずにいた。だが、クリスは俺が悩んでいると知るや即答してきた。


「私も兄貴達の方に回らせろよ」


 それは一番配置してはいけないところだ。俺は即座に却下するため、首を振る。


「駄目に決まってるだろ。アリアだって本来なら怪我の影響考えて、待機にしたいのに」


「クロ、私は大丈夫だよ? 少し時間は掛かりそうだけど、戦いまでには腕も治せると思う」


「それならいいけど、あんまり無理するなよ? 二人を救えてもアリアが倒れたら意味がないんだから」


 そこで引き合いに出したアリアが話し掛けてきて、俺はそちらに話を移す。すると、やはり納得のいかないクリスは俺の腕を掴み、自分に意識を向かせる。


「兄貴! 私の話も聞けよ!」


「だから駄目だって言ったろ。確かに近接戦闘は得意かもしれないけど、根本的にクリスの力は戦闘向きじゃない。分かるだろ」


「また、そうやって私だけ守られんのかよ……。私だって戦闘に力使おうと思えば使えんだ。守られるだけなんて、そんなの……」


 そんなのは嫌だ、とクリスは吐露する。クリスには前世の記憶がある。そこで何か、今と同じような事があったのだろう。


 俺はクリスのその姿に、既視感を覚えた。泣き虫で、可愛らしい女の子がクリスと重なる。どこかで見たのか、ただの幻想なのか。ただ、胸が苦しいばかりに締め付けられる。


 そして、俺はそれに堪えられなかった。だからこそ、クリスに問い掛ける。


「クリス……。普段使ってるのは再生の力だけだろ。それ以外の力を制御出来る自信あるのか」


 ある、とクリスは力強く頷く。ここまで示されて、それでも駄目だ、とは言えない。俺は一つ息を吐き出し、クリスの配置を決めた。


「ラファエロとだけは戦うなよ。それだけは約束してくれ」


「じゃあ、いいんだな?」


「俺はクリスを信じる。頼むから、無茶だけはするなよ?」


 本当に、無茶だけはやめてほしい。でなければ、過保護なウチの家族が何をしてくるか。考えたくもない。


 もちろん、俺とてクリスには危険に首を突っ込んでほしくはないのだ。だからこそ、クリスには念入りに注意した。


「丸く収まったみたいですね。良かったです」


 そうして、クリスとのやり取りが終わった頃、リリーの安堵の声が届いた。見れば、アリアとシスもまた同様に安堵しているのが分かる。どうやら、心配を掛けていたらしい。


「何か心配掛けてたみたいで、ごめん。重要なことだったからさ」


「いえ、解決したのなら構いません。話を戻しましょう」


 苦笑混じりに謝ると、蒸し返すことでもない、とリリーは流してくれた。俺もその言葉に甘え、頷いて先に進む。


「あとは、ヤマ達か。恨んでるよな、きっと」


「そうでもないかもしれません。彼らからの言付けでは、ラファエロから二人を取り戻すのなら手を貸す、とのことでした。ただし、全て終わったら一発殴らせろとも言っていましたが」


 恨んでいる。そう思ったが、リリーの言葉を聞く限りでは、ラファエロへの敵意の方が強いようだ。思えば、ヤマ達はあの時動けなかった。それを悔いているのかもしれない。


 だが、出来るなら恨まれてでもヤマ達にはラファエロに手を出してほしくない。あの時も何があったのかは分からないが、動きを封じられてしまっていた。それを考えれば、また同じことになった場合に危険過ぎる。


 ただ、ヤマ達の事だ。俺が何を言ってもハルを取り戻そうと動くだろう。それならいっそのこと、協力し合った方が無難だろうか。


 どちらにしろ、ヤマ達には一度頭を下げに行く必要がある。ラファエロを連れてきてしまったのは俺で、それによってハルを奪われたのだから。


 俺はリリーに礼を言って、今のうちに決めておけるものを次々に話し合っていった。外部への協力は仰ぐか否か、学園の方はどうするか、などだ。


 ただ、話し合って分かったのは、ラファエロに対する情報が足りない事だ。ラファエロの居場所が分からない上に、その力の全貌も分からない。


 一端は垣間見えたが、それだけだ。対策を練ろうにも難しいため、ラファエロ自体の話はあまり進まなかった。


「こんなもんかな。今はこれ以上の話も出来ないし、今日のところはもう休もう。アリアは動かせないけど、クリスとシスはどうする?」


「ここで寝る。シスも一緒だ」


「そっか、それじゃ俺は自分の部屋に戻るよ」


「それでは、私もご一緒に」


「自分の部屋に帰れ。こんな時までそう言うのはいらないから」


 つれないですね、とリリーは唇を尖らせるが知ったことか。俺はクリス達に眠りの挨拶を済ませて、部屋を出る。あとを追ってリリーも出て来た。


 程なくして、俺の部屋に着いたのだが、案の定リリーも入ってこようとしてきた。


「本気でやめろ。夜這いはルビーの専門だろ」


「失礼です。私も専門ですよ。今日は添い寝で我慢しますから入れて下さい」


「信じられるか。専門とか言ってる時点でアウトだ、馬鹿」


「人肌が恋しいんです。服は着たままで結構ですから」


「譲歩したみたいに言うな。それで認めると思ってるのか」


 この攻防は数分ほど続いたが、最後にはリリーに押し切られる結果に終わった。腹に力を入れられない俺では、リリーの強引さには適わなかったのだ。


 結局、部屋への侵入を許してしまった俺は、仕方なくリリーの気が済むまでは放置する事にした。もう疲れて、改めて追い出す気にはなれなかったと言うのが実情だ。


 俺はベッドに潜り込み、寝る。後のことは知ったことではない。夜這いをしてくるようなら、今度こそ追い出す。部屋からではなく、家から。


 そう思って壁際を向いて寝に入ったのだが、リリーが布団に入ってくる音が聞こえ、傍らに温もりが増える。本気で添い寝してくる気らしい。


「おい、マジでやめろ。俺、一応怪我人だぞ。それも結構重傷なんだけど?」


「本当に襲いませんってば。ただ、今日は誰かと一緒に寝たいだけです。それすら許してもらえませんか、クロ」


「……勝手にしろ。襲ってきたら、家から追い出すからな」


「ありがとうございます」


 ラファエロの一件で、その後にこの家で起きていたリリー。不安にさせた自覚はある。それを思えば、多少のお願いくらいは叶えてもいいだろう。


 それ以降、会話はなく、静かな時間が過ぎ去っていった。どれぐらいの時間、そうしていただろうか。暫くして、リリーが身動ぎして声を掛けてきた。


「クロ、起きていますか」


 しかし、俺は返事をしない。眠かったのもあるが、どうにもリリーの様子がおかしかったからだ。背中を向けていてなお、それが分かるほど。


 そして、それは正しかったと言える。リリーは一度の確認だけで、独りでに語り始めたのだ。


「不思議に思ったかもしれません。何故、私達が仲良くしていられるのか。今回も協力を申し出たのは何故か、と」



 リリーが語り出した内容は俺も気になっていたことだった。もしかしたら、俺が起きているのに気付いているのだろうか。振り返るかどうか迷っているうちに、リリーは再び語り出す。


「簡単なことです。私達は嫁と言いながらも、その在り方が違っていたと言うのが一つ。もう一つは、私達はクロと居られればそれで良かったんです。今度こそ、クロとともに生涯を生きられればそれで」


 アリアは家族として、シスは親として、クリスは兄として、ルビーとリリーはパートナーとして俺を求めた。だからこそ、仲良く出来た、とリリーは語る。ルビーとは重なったが、やはりその在り方は違ったとも零す。


 クリスの場合は違うのだが、この際気にして仕方ない。リリーの思いの丈を、吐き出すだけ吐き出させてしまうことにする。


「ですが、今回の件で私は思ってしまいました。やはりクロを独占したい、と。女の子なら、誰しも思うことです。一度失ってしまった分、余計にそう思ってしまうんです。ルビーはもちろん助けたいとは思います。ですが、同時にクロにはルビーではなく私を見ていてほしいとも思うんです」


 酷い女ですよね、とリリーは自分を蔑む。


 そこまでだった。流石に我慢の限界だ。徐に起き上がり、リリーを見やる。リリーの顔に驚きは無い。やはり寝たふりをしていたのはバレていたようだ。


 だが、次に俺がした行動には大層な驚きを見せてくれた。


「ク、クロ?」


「黙ってろ。見るな、恥ずかしいから」


 大したことはしていない。ただ単に、頭を撫でてやっているだけだ。俺にはリリーの独白に適した答えを言ってやることは出来ない。どう返せばいいのかも分からないのだ。


 だからこそ、髪を梳くようにして撫でる。これが正しいのかは分からないが、今の俺がリリーに返してやれる答えはこれだけだ。恥ずかしいことこの上ないが、仕方ない。


「寝るまで撫でてやるから、さっさと寝てくれ」


「そう言われると、寝たくないですね」


「いいから目を閉じて寝る努力しろよ。俺も眠いんだよ」


「分かりましたよ。頑張ってみます」


 それから暫くして、リリーから穏やかな呼吸音が聞こえてきた。どうやら素直に寝てくれたようだ。手を離しても、起きる気配は無い。


 一つ息を吐いて、リリーの寝顔を眺める。


「困った聖女様だよ、全く。俺なんか慕ったって、仕方ないだろ」


 何となくだった。その場の勢いと言うべきか、眠気がピークに達した時に起こる無駄に上がるテンションと言うべきか。俺は仕出かしてしまった。撫でるだけにしておけばいいものを、馬鹿な真似をした。


 リリーの額に掛かった髪を払い、邪魔にならないよう上げる。晒されたその額に、俺は口付けをしていた。落とす程度の、軽く触れるものだったが、確かにしてしまった。


 お休み、と小声で零した俺は壁際を向いてそのまま直ぐに寝てしまう。意識が落ちるまでに、そう時間は掛からなかったぐらいだ。


 ただ、その際に隣で身動ぎする音と呼吸が荒くなる音が聞こえたような気もするが、きっと気のせいだろう。とにかく眠かったのだ。気にしていられなかった。


 まさか、それが次に目覚めた時に一騒動起こす原因になるとは思いもせずに、俺は深く眠りに就くのだった。



 全ては眠気のせいです。皆さんにもあると思います。あるあるネタです、多分。


 十二月七日付け。



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