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四十二話 入学編その三(謝罪と協力です)

 それからのことを言おう。結論から述べるならば、俺は頑張った。途中挫折しそうになりながらも、クリスやリリーの手助けもあって答えを得ることが出来た。シスは眠そうに欠伸していただけだったので、アリアの隣で寝てもらった。


 そうそう、クリスとリリーが何故手助け出来たのか。これに関しては蛇足なのだが、クリスは俺達がうるさくて目を覚ました。リリーは俺が部屋に居ないと気付き、クリスの存在も無い事からこの部屋にやってきたのだ。そのついでに、俺の手助けをした流れになる。


「話を纏める。つまり、アリアは竜族の歴史上、原初の竜と同じ存在として産まれた神竜で、他の竜とは異なる肉体を持ってる、と」


「クロ、違います。肉体ではなく、この場合は器と表現するべきでしょう。あくまでも、アリアの本体は肉体ではないのですから」


「あ、そうか。それで、アリアは何て言うんだ。半神霊? って事なのか」


「みたいですね。分かりやすい例を挙げるなら、クロは聖霊をご存じですか? それと似た存在でありながら、器を持つ存在です」


 リリーの補足説明を受け、俺はイメージを膨らませた。イメージ出来るような出来ないような、よく分からない結果に終わってしまったが。


 それはさて置いて、纏めの続きをしていく。まさか、イメージするだけで詰まってしまっては元も子もないので。


「連合の地域に居たな、確か。なるほど。で、アリアの本体はその器じゃないから、怪我をしても大抵は修復出来る。ここまでは分かった。分からないのは、何で今回はそれが出来ないのかだけど」


「十中八九、ラファエロのあの聖剣でしょう。私の癒しの力をもレジストしていました。あれは普通の聖剣の類いではありませんね」


「私もそう思うなー。治そうとしても、何かに邪魔されて上手くできないし。痛みとかもあるから、早く何とかしたいんだけど……」


 聖剣に普通も何もあるのかは別として、話に加わってきたアリアの言い分には同意だ。アリアは確かに聖霊と似た特殊な存在なのかもしれないが、その器足る肉体には痛覚はもちろんのこと、様々な神経や感覚がある。器と表現していても、切断されても治せるだけの、俺達と変わらない身体なのだ。


 何とかしてやりたい。それが今の率直な思いだ。アリアの顔色の悪さを見れば、尚更。今もその痛みを我慢しているのだろう。


 そこにきて、俺はまだ謝っていないことに気付いた。アリアの身体云々以前に、まずは謝罪するべきだった。驚かされて、つい忘れてしまったと言うのは言い訳にもならない。


 ベッドの傍らに集まったみんなから、少し距離を取って俺は座る。そして、深々と床に頭を付けた。


「……アリア、いや、今回の件に巻き込んだみんなに謝りたい。悪かった。謝って許されることじゃないのは、重々承知だ。けど、謝らせてほしい。本当にすみませんでした」


 唐突な真似に、みんなが口々に俺の名を呼ぶ。それでも、俺は頭を上げるわけにはいかない。許してもらうまで、などではなく誠意の問題だ。少なくとも、頭を上げていいと言われるまではこのままの状態であるべきだろう。


 今回の件は謝って許されるべきではない。だが、だからと言って謝罪も無しに、うやむやにするのも違う。それだけはしてはならない。それをしては、俺は最低の人間になり果てる。


「兄貴、顔上げろ。そう、んで立て」


 クリスが俺の目前に来て、有無を言わさない口調で俺を立たせる。次にクリスが何をするのか、兄である俺には分かった。直立し、歯を食いしばる。


「そのまま食いしばっとけよ、ふんっ!」


「っ……!」


 横顔に目一杯の力の籠もった拳を受ける。予想していたとは言え、かなりの痛みだ。何より、それによって倒れた衝撃で腹の傷にも響く。正直言って、悶絶してしまいそうだ。


 だが、その痛みを俺は堪えて姿勢を正す。これは当然のこと。諸悪の根元はラファエロだが、情報を伝えずにクリス達を危険に晒して怪我まで負わせたのは俺だ。


 だと言うのに、クリスは続いて告げてくる。


「これでチャラだ。満足したか、兄貴。何でもかんでも自分だけの責任みてぇに言いやがって。リリーから事情は大体聞いてんだ。一人で責任感じてんじゃねぇよ」


「クリス……」


「兄貴は悪い。そりゃ事実だ。けど、だからって責任全部背負い込もうとすんな! アリアの怪我は私を庇ったから。二人が連れてかれたのはリリーが結界を解いちまったからだ。兄貴の責任じゃねぇ」


「けど、その原因を作ったのは……」


「あのラファエロって野郎だ! 直接的、間接的、どっちもあいつが原因だ! 兄貴の責任も、罪悪感も、あいつに全部押し付けちまえ。私はそうする。そんだけのこと仕出かしたんだから、当然の報いだろ」


 まさに暴論。だが、間違ってはいない。クリスのそれは正しい。確かに、諸悪の根元はラファエロにある。だが、まさか俺の責任まで押し付けてしまえとは、考えてもみなかった発想だ。


 俺は思わず吹き出してしまった。不謹慎とは思いつつ、どうにも止められない。クリスの男前な態度と発言がいけないのだ。


「これじゃあ、どっちが年上か分からないな」


「んなの、前からだろ。馬鹿でお人好しだけが取り柄のくせに何言ってんだ」


「兄の威厳はそもそも無かった、と。悲しい現実だ」


「そう思うなら、少しは格好いいところ見せろよ」


 嘆きと言うか愚痴を吐く俺に、クリスの手厳しい言葉が突き刺さる。兄の威厳とは、どうすれば手に入るのか。真剣に悩んだ瞬間だった。


 そんな俺を置いて、クリス達の方では話が進む。


「アリア、兄貴にはああ言ったけど……」


「責任の背負い合いはやめよ。クリスに責任は無いよ。もちろん、私にも。でしょ?」


「ありがとう、アリア」


 アリアがそう言うと、クリスにも笑みが浮かぶ。二人の間に蟠りが残る事もなく、こういう結果に纏まって良かった。


 その光景を眺めつつ、俺はリリーの傍らに寄って小声で話す。


「リリー、俺はやっぱり責任感じる。俺がこれから解放されるには、全部終わらせないと駄目なんだ。俺が納得出来ない。だから、ラファエロは必ず倒す。倒して、ルビーとハルを取り戻す。協力してくれるか?」


「もちろんです、クロ。私も、この件は大団円で終わらせたいですから」


 リリーは微かに頷いて、俺に視線を合わせた。同時に、俺はリリーに感謝する。


 クリスやアリア、シスには頼めない。これ以上、巻き込むのはやはり無理だ。怪我もそうだが、ラファエロと関わらせたくない。


 ただ、俺としてはリリーにも手を引いてほしいのが本音だった。だが、俺だけではラファエロに太刀打ち出来ないのも事実。そうなると、勝手な事だが事情を詳しく知り、三人よりもこの件に深く関わっているリリーに協力してもらうしかなかった。


「……クロ……協力……承諾……」


「……シスさん、頼むから気配消して背後に立つのはやめてもらえないかな。もうね、心臓バクバクなんだ。心不全起こして死んじゃうよ、俺」


 と、あれこれ悩んでいたところに、シスが再び俺の背後から声を掛けてきた。どうでもいいが、先程まで眠りこけていたと言うのに、どうやって背後に立ったのだろうか。シスの謎は増える一方だ。


「……って、そうじゃない。シス、お前は協力しなくていい。俺とリリーだけで」


「……拒否……拒否……拒否! ……」


 俺がシスの申し出を断ろうとすると、シスはそれを遮って断固として退くことを拒んできた。シスには珍しく、声を大にして。


 シスのそれに、俺は呆然としていた。あまり感情を表には出さないシスが、強い意志を持って見詰めてくる様は俺に衝撃を与えた。


 とてとて、とシスが俺の横を横切る。次いで、クリスとアリアの下へと向かい、二人の服の端を掴む。そして、何かを二人に訴えているようだ。そのまま、今度は三人で俺を見詰めてくる。


「兄貴、何勝手に決めてんだ。私も参加するに決まってんだろ」


「私だってこんな怪我大したことないもん。まだ戦えるよ」


「……協力……承諾……」


 俺は何も言えなかった。そこにあるのは、有無を言わせない頑なな意志。俺には、これを変えられる言葉が見付けられなかった。


 正直言って、揺さぶられる。クリス達の眼差しが、俺に訴えかけてくるのだ。


「クロ、協力してもらいましょう。それとも、頑なになって三人の思いを無碍にしますか」


 そこにきて、リリーまでもそちらに回ってしまった。


 無言の時間が流れていく。だが、それでいて四人の目だけは俺に選択を迫ってくる。そして、しばらくの間考え、俺は決断した。


「クリス、アリア、シス、リリー、ありがとう。協力お願いします」


 部屋が瞬く間に賑やかになった。俺はそれを眺め、この選択が間違っていないことを祈る。


 同時に改めて決意する。これ以上、ラファエロに何かを奪われるのは御免だ。この選択が間違っていなかったと言えるように全力を注ごう。必ずだ。



 段々、サブタイトルが思い付かなくなってきました。どうしましょう。


 今後、サブタイトル無くなったら、察して下さい。ああ、思い付かなかったんだな、と。


 十二月六日付け。



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