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二十二話 入学編(覚醒したら暴走します。お決まりですね)

「――――ふーん、なる。大体理解したけど、ヤマ、あんたはあとで殴り倒すから」


 そうして、現状を掻い摘んで説明し終わった頃、葉月はそう言った。ただ、視線だけはハルを注視していたが。


 と言うか、全員視線はハルに向けている。何かあれば瞬時に行動を開始しなければならないのだから、当然と言えば当然だ。ただ、誰に向かって喋っているのか分からないこの状態は無性に笑いそうになる。


 さて、全員と言ったが実はあのあと、葉月を起こして続いてスズや七瀬も起こしていた。それが最善の策だと言うヤマの言葉を信じて。


 もちろん、顔面に往復ビンタはしなかった。正確に言えば、往復は、だが。つまり、片方の頬にはビンタしたと言うことだ。そのせいか、スズも七瀬も葉月同様にヤマに怒りを向けていた。


「ホント、ホント。女子の顔、傷付けるとかマジ無い。有り難いから。ヤマっち、さいてー」


「うぅ、酷いよ、ヤマヤマ。僕、ヤマヤマに傷物にされた」


「ひっでー。それが助けてやった奴に言う台詞かよ。なぁ、クロ」


 何だろう。葉月だけならともかく、全員が同じ一方の方向を注視しながら喋ると言うのは、本当に滑稽過ぎて笑いそうだ。それはさて置き。


「俺に同意求めるなよ。俺は出来るだけ丁寧に扱った。容赦無かったのはヤマだけだろ。余計な事に巻き込むな」


 ただでさえ、家では常に面倒に巻き込まれている状態なのだ。これ以上の面倒などごめんでしかない。いや、まぁ、もう最大級の面倒に巻き込まれている最中ではあるのだが、それはそれ。今更抜けることも出来ないので、これに関してはノーカウントにしている。


 そんな感じで俺が道連れを拒否すると、ヤマは不満だらけとばかりに非難してきた。


「余計な事って、ひっでー。自分だってスズにビンタしたくせに。俺にだけ責任押し付けるのかよ」


「俺のはビンタって言っても軽くだし。そんな痛くなかったろ、スズ」


「まぁね。他の二人と比べるのもあれなくらい、丁寧に起こされたんじゃない?」


 だってよ、と俺が勝ち誇った調子で言えば、ヤマは悔しいとばかりに呻く。次いで、自分から墓穴を掘りにいってしまうのだった。


「ぐぬぅ! だって仕方ないだろ! 俺は力の加減出来ないんだしさぁ。これでも七瀬には控え目にしたんだぞ」


「へぇ、その言い方だと私はいいのね。よーく分かったわ、ヤマ。やっぱり半殺し程度じゃ生温い。九割殺しね、決定」


 それが最後だった。ヤマは、しまった、と言った様子で押し黙ってしまう。この瞬間、ヤマが一人で罰を受けると確定した。俺から言わせれば、自業自得の一言に尽きる。慰めの言葉など必要無いだろう。ただヤマが愚かだった、それだけの事だ。


 それよりも、今はハルだ。少し気掛かりな点が浮上してきていた。それと言うのも。


「誰も来ないってのはどういうことなんだ。それに、ハルも未だに動かないし。もう数分は経ってるよな?」


 いや、良いことではあるのだ。教員が到着すれば介入は免れないのだから。


 だが、気掛かりであるのも事実。戦闘の出来る教員が到着するまで、持って数分。それ以上はどんなに楽観的に考えても、有り得ないのだ。だと言うのに未だ姿は見えず、逆にそれが不安要素になってしまっている。


 何よりも、ハルだ。完全に目覚めるのに時間が掛かり過ぎているように感じる。以前に一度、ハルの暴走に巻き込まれた事があった。その時はすでに暴走状態だった上に、途中参加の俺ではどのくらいの時間を要したのかは分からない。ただ、ここまでは掛かっていないとは推測出来る。それだけの時間があったのなら、ヤマ達だけで何とか出来ていたはずなのだから。


 また、緩慢だった動きについても、俺とヤマの攻撃が始まる頃には完全に静止していた。それら諸々を考慮して思うに、もしや眠ってしまったのではなかろうか。


 いや、流石にそれはないか。だとしたら、ヤマ達がこうしてハルの動向を注視するわけがない。つまり、まだ危険な状態は続いている。そう考えるのが妥当だ。


「外からの介入が無いのは、私が少しこの場所を認識されにくくしてるから。ハルが動かないのは、血にハルが抗っているから、かな? でも、どっちも長くは続かないし、やるなら早くにって感じね」


 俺の疑問に答えたのは、葉月だった。なるほど、そう言う事かと納得した。だが、結局のところはその場しのぎにしか過ぎず、早急に決着が必要なことには変わらない。


 それは全員が思ったことのようで、次々に声が挙がる。


「だねー。葉月っちの言うとおり、サクッとやっちゃお」


「僕も頑張ってみる」


「だな。となると、俺とクロが前衛役。スズが遊撃兼移動大砲役で、葉月と七瀬が後衛役になるか」


 次いでヤマが役を割り振り、次第に話は作戦方面に移行していった。いや、作戦も何もフルボッコにして気絶させることには変わりないのだが。あれだ、過程をどうするかを話し合ったのだ。どうボコボコにするか、などなど。重要なことだ。


 そして、大体の方針が決定し、ようやく戦闘開始の合図が下る。


 まず、七瀬の加護で光が俺達に降り注ぎ、全体の能力を底上げする。次いで葉月の呪印をハルに刻む。久し振りに葉月の呪印を見たが、やはり不思議なものだ。文字というか何というか、それがハルに飛んでいき、囲む。そして、そのままハルを縛り付けるようにして文字が刻まれるのだ。


 それを確認した俺とヤマはハルへと向かい、スズは少し離れた位置から攻撃の準備に入った。俺とヤマの初撃は先程と同様だ。そこから続けざまに攻撃を仕掛けるのも同じ。


 だが、先程と違うのはダメージの入り方だ。完全には伝わっていないようだったが、以前対峙した時のようにダメージが通る。これならば、反撃がない分だけ以前より容易い。そんな気さえしてしまう。


 その油断がいけなかった。ハルの顔が俺を見た。そして、次の瞬間、俺は吹き飛ばされていた。


「がっ! 痛ぅ……」


「クロロン大丈夫!?」


 七瀬の声が間近で聞こえた。その事から、俺はどうやら七瀬と葉月の居る場所まで吹き飛ばされたようだ。


 大丈夫、と俺は立ち上がる。次いで、ハルの居た場所を見据えた。そこにあったのは、ハルが今まさにヤマを床に叩き付けている姿だった。


「ヤマ! スズ! 援護頼む!」


「あいあいさー!」


 俺はスズに援護を頼んで、すぐにハルへと駆け出した。そして、ヤマを叩き付けて沈んだ身体に蹴りを放つ。続けざま、タイミングを計ったスズの魔法とびどうぐがハルに直撃した。今回は特大ハンマーか。


 スズの魔法の説明は後回しだ。それよりも、俺達の攻撃を受けたハルの状態だろう。


「おいおい……ハルさんそりゃ引くぜ」


 俺の攻撃とスズのハンマーをそれぞれ片手で受け止めていたのだ。いや、正確にはそれぞれ人差し指一本で、だ。ハンマーの落ちる音が静まり返ったこの空間によく響く。


「っ! まだだ!」


 蹴りを放った脚を瞬時に戻した俺は、そこからハルに接近戦を挑む。こちらも伊達に美魅子さんに鍛え直されていない。能力も全開でいけば、以前と比べてもイケるはずだ。


 だが、それはやはり無謀だったのかもしれない。攻撃は悉く防がれ、あまつさえ逸らす能力をもってしてもハルの反撃を防ぎ切れず、こちらばかりがダメージを負っていく。今はまだ、経験と技術で補っているが、それもいつまで持つか。


 ハルのヴァンパイアとしての力が圧倒的過ぎる。経験も技術も必要としない原始的な力。呪印で弱体化していて、これとは。全くもって、理不尽でしかない。


 と、そこで俺に隙が出来る。ハルの一撃が入る間際、スズの援護が届く。


「クロっち、退いて! 態勢立て直そ!」


 その言葉とともに、矢継ぎ早にスズの魔法がハルを襲う。ただ、どれもこれも弾かれてしまっていたが。


 それでもそのおかげで、俺は戦線を離脱出来た。この隙に七瀬達の居る場所まで下がる。見れば、ヤマもまたそちらに退避していた。


「よぉー、クロ。お疲れさん。相変わらず、よくハルとまともにやれるよなぁ」


「あれでまともにやれるって言うならな。けど、ハルの奴何であんなに……」


 俺を迎えて声を掛けたのはヤマだった。その軽口には同意を示せないが、無事なようだ。


 葉月をちらっと窺えば、唇を尖らせて顔を背けてしまう。


「私の呪印が弱かったわけじゃないからね。七瀬のも同じ。問題はハルの方。急激に力が増したみたい」


「ああ、ありゃ前世の頃に近付いてんな。全盛期程じゃないにしろ、このままじゃ手に負えないかもなぁ」


 葉月の言い分に、ヤマも同意する。となると、ハルは以前の比ではない状態だと言える。それはつまり、本当に俺達だけでは手に負えなくなってしまったと言うことなのだが。


 あの時ですら、ここに居るメンバーでギリギリだった。それを考えれば、自ずと答えは出てしまう。果たして、ヤマの発言に否定を述べられる者は居なかった。


「先生に頼るか?」


 俺のそんな一言が葉月の怒りを買ってしまった。背けていた顔を戻し、断固拒否の態度を口にする。


「そんな事したら、一発でアウトだってば。停学ならまだしも、退学とか、下手したら施設行きなのかもしれないのよ? そんなの駄目。認められない」


「施設なんて都市伝説だろ。このままじゃ、こっちが」


「駄目なもんは駄目! クロ君なんてどうせ前世の関わりも無いような他人のくせに、無責任なこと言わないで!」


 俺はその言葉に何も言えなくなってしまった。ズキリ、と胸の奥が痛む。葉月にとって、いや、葉月達にとっての俺は他人扱いなのか。そんな思いが痛みを強くする。


「おい、言い過ぎだろ葉月! クロ、気にすんな。葉月はハルに呪印を抵抗されて、呪詛返し受けて不安定なだけだから」


「そうだよ、クロロンは大切な友達だよ」


 ヤマと七瀬がフォローに回ってくれたが、痛みは引かなかった。葉月も、ばつの悪い顔をして再び顔を背けてしまう。


 こんな事をしている暇などないと言うのに、俺達は全員動けず、誰も彼もが口を噤んでしまった。沈黙が重い空気と化して流れる。


 そんな時に、スズが魔法でハルを牽制しながら下がってきた。



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