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二十話 入学編(何で俺の周りには変な人しかいないのだろうか)

 そのまま、会場入りした俺は受付の際に貰っていた簡易パンフレットを片手に、自分の席を探していた。席の番号札も持っているが、こちらは番号を把握してしまえば用済みなわけで、既にポケットの中に仕舞ってしまった。


「にしても、もう大分席埋まってるな」


 これなら案外早くに席を見付けられそうだ。そう思って突き進んでいると、前から知り合いがやってくるのが見えた。と言うか、先程言ったまとめ役の友人だ。


「……よぉ、クロ」


 そう言って近付いてきた友人――ハル・L・ロード。見るからに顔色の悪い彼は、最早瀕死と言っても過言ではなかった。


「相変わらず朝弱いんだな、ハル」


「……前世がヴァンパイアなもんで」


「今世でもそれを引き継いだ、と」


 こくん、と頷くハルに、俺は近くの空いている席をあてがう。ハルも素直に座ってくれた。自分でも限界を感じていたのかもしれない。限界なら大人しく座っていればいいと思うのだが、何か用事でもあったのだろう。


 それはそれとして、ハルについて少し説明しておこう。ハルは朝に弱いと言ったが、ハルが前世から引き継いだのはそれだけではなかった。外見、身体的特徴もまた引き継いでいるのだ。


 例えば、外見。白髪とも銀髪とも取れる髪や血に染まったような深く赤い瞳、彫りの深い美青年な顔立ちは前世からのものだ。以前にハルの親に会ったことがあるのだが、こう言っては何だが、ハルとは似ても似つかない人達だった。彫りの深さ然り、髪や瞳の色さえも。養子と言われた方がまだ納得出来る。そんな具合だ。


 また、身長の高さもさることながら、その身体能力やヴァンパイア特有の能力も前世からのものだ。一言で言ってしまえば、人外。それだけに凄まじい能力を有している。


 だが、だからと言って、ハルが特別と言うわけでもない。いや、特別には変わりないのかもしれないが、これは転生者特有のものなのだ。注釈として、前世の記憶を有する転生者と付くが。


 記憶を有する転生者と言うのは、前世の特徴を色濃く受け継ぐ場合が多い。特に前世が人外であったり、魔力などの力を有していたりすると。


 ハルの場合もそうだ。ただし、ハルはその中でも顕著な方ではあるのだが。


 さて、大分話が長引いた。そろそろ、ハルの方に意識を戻そう。ちょうど、ハルも体調が落ち着いてきた頃合いだ。


「それで、ハルは何でうろついてたんだ。朝は弱いんだから大人しく座ってればいいのに」


「あー……、受付にあいつら置いてきたから。そろそろかなって」


「えーと、それは七瀬達がそろそろ悪ふざけ終わらせて、会場に入ったと思ったから捜してたってことか?」


 こくん、とハルはまた頷いた。どうやら、この解釈で間違っていなかったようだ。


 しかし、相変わらず分かり難い言い方だ。朝は弱いとは言え、あまり頭も回っていないのはどうなのだろう。危なくて目が離せなくなる。せめて、七瀬達のうちもう一人ぐらいまともな人間が居てくれれば、多少は安心出来るのだが。七瀬達を見れば、それが不可能なことは語るまでもない。


「それなら、問題も解決したからもうじき来ると思う。取り敢えず、ハルは自分の席に戻れよ。七瀬達は俺が連れて行ってやるからさ」


 俺がそう言えば、ハルはぼんやりと宙を眺める。そして、少しの間を置いてから頷いた。多分、俺の言葉を理解するのに時間が掛かったんだろう。


 ハルはそれからまた数秒して立ち上がり、ふらふらと元来た道を戻っていった。何とか無事に席まで辿り着ければ良いのだが、心配だ。俺もまだ自分の席を探している最中だったが、ついて行けば良かったか。今更ながらにそう思ったが、過ぎたことは仕方ない。今は約束通り七瀬達を捜しておこう。


 そう判断して、俺は自分の席を探すついでに、七瀬達も捜すことにした。


 そうして捜すこと数分。自分の席は案外早くに見付かり、残すは七瀬達だけなのだが、これがなかなか見付からない。まだ会場の中には居ないのだろうか。受付の問題は解決したはずなので、居ると思ったのだが。


 さてはて、どうしたものか。そんな具合に頭を悩ませていると、後ろから何者かに飛びかかられてしまった。それも、何を考えたのか首の部分に手を回してきた。全体重が首に……。


「って、殺す気か! 折れるわ、首!」


 俺は首に掛かった腕を掴み、全力で前に投げ飛ばした。宙を舞ったのは、女子。いや、七瀬だった。うわーん、と悲鳴を上げて落ちていく七瀬。俺はそれを無視して背後へと振り返った。そこには、やはりとも言うべきか、ヤマ達の姿が。


「何してるんだよ。てか、今まで何してたんだよ」


 七瀬が投げられた光景に笑いを堪えているヤマ達。取り敢えず、俺はそれは流して尋ねた。


「いやー、ナナっちがなかなか泣き止んでくれないんだもん。クロっちは先に行っちゃうし。あたし達も大変だったんだから。ね?」


「お前らが大変なのは笑いを堪えることだけだろ。全く出来てないけど」


「クロ君上手い!」


「上手くも何ともないわ!」


 スズと葉月のからかい気味な口調での発言に、俺は何とも頭が痛くなった。どうして、この連中はこうもお気楽なのか。何より、質問の答えになっていない。思わず、溜め息を吐きそうなってしまった。


「まぁまぁ、そんな怒るなよ。楽しくいこうぜ、クロ」


「その楽しくは人に迷惑掛けるのも込みか」


「子供は迷惑を掛けるのが仕事なんだぜ」


「親にって言葉が抜けてるからな? 勝手に省いて都合のいい解釈するな、頼むから」


 俺を宥めるヤマにしてもこの有り様だ。本当に、この連中ときたら。本格的にこの連中との付き合いを考えた方がいいか、と俺が密かに悩んでいると、またもや背後から飛びかかられる。ただ、今度締め上げられたのは首ではなく腰だったが。


「クロローン! 酷いよ、クロローン!」


「またか! て言うか、クロロンはやめろ!」


 強引に引き離そうとするが、これがなかなかに手強い。先程の投げ技で学習したのか、がっちりしがみついてくる。痛くはないが鬱陶しいことこの上ない。


 ヤマ達に助けを求めようにも、笑っていたり囃したりと、そもそも助ける気がないようだ。仕方ない、今はこのまま話を続けるとしよう。


「はぁ……、もういいや。それより、ハルがお前らのこと捜してたぞ。俺に構わなくていいから、ハルの所に行ってこいよ」


 俺がそう言えば、四人は不満げな様子を見せてくる。まだ遊び足りないとでも言うつもりか。それならそうと、実力行使に出るまでだが。


「うーん、それならクロロンも一緒に行こうよ。式まではまだ時間もあるし、ね?」


 何故、そうなる。いや、確かにハルには連れて行くと言ったが、俺は休みたいのだ。この数週間で束の間とは言え、休息を得られたのだから、休ませてくれてもいいではないか。


「俺は平穏に式まで過ごしたいんだけど」


「そんな事言わずに、行こ?」


「うし、クロをハルの所に強制連行だ! 者共続け!」


「ヤマ、何それウケる!」


「ね、強制連行されるならあたし達なのに。てか、偉そうに命令するなって思わない?」


 その休みたいと言う旨を伝えたところで、この四人は聞く耳を持ってはくれないらしい。勝手に盛り上がって、俺を引き摺るようにしてハルの所へと進み出してしまった。


 やめろ、やめてくれ。俺に休息を与えてくれ、頼むから。


 そんな俺の願いがこの四人に届くわけもなく、俺達は彷徨った。そう、彷徨ったのだ。何故なら、俺も含め誰もハルの席を知らなかったから。


 結局、ハルを見つけたのはそれから数分後のことだった。ちなみに、その時のハルは隣の席の女子に膝枕されていた。羨ましいばかりだ。まぁ、そのせいで約三名の女子が不穏な雰囲気を漂わすことになったのだが。


 と、それはともかく、再会は出来たのだ。俺はさっさと自分の席で休みたい。だから、ヤマ。俺の腕を掴むその手を放してはもらえないだろうか。


「え? 駄目だろ。それじゃ面白くならないだろ」


 何を持って、面白いと判断したのか。嫌がらせが面白いと言うのなら、いい趣味をしていると皮肉ってやるが。


 そんな具合に視線を送れば、ヤマはこう言った。


「てかよ、修羅場に俺一人残していくなよ。一緒に巻き添えになろうぜ。楽しいぞ、きっと」


 要は、一人で修羅場の巻き添えにはなりたくないが、この修羅場を見逃すのも惜しい。だから、俺を道連れにしたい、あわよくば身代わりにしたい、と。そう言う事のようだ。何て迷惑な。


「いや、マジふざけるなって」


「はっ、真剣と書いてマジと読む。そう、だから俺は真剣にふざけるんだ。分かるか、クロ」


 いや、うん。ごめん、そんな力説されても何言ってるか分かんないわ。えっ、何でそんな自信満々なの。怖いんだけど。


「ごめん、やっぱり手放して」


 俺はそう言うしかなかった。



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