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限界社畜、異世界で【コンビニ】を開店する〜女神に貰ったスキルで辺境村を救ったら、ワケありヒロインたちに囲われてます〜  作者: 月神世一


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8/22

EP 8

みかん箱のステージと、理不尽への鉄拳

 ポポロ村の広場に、不似合いなほど澄んだ歌声が響き渡っていた。

「♪絶対無敵のスパチャアイドル! 五円が積もれば山となる! 御縁をちょーだい、キラキラ☆キラリ……!」

 広場の中央。農家が太陽芋の運搬に使っているお下がりの『みかん箱(木箱)』をひっくり返し、その上に立って歌う少女がいた。

 エンジ色の芋ジャージに、健康サンダル。どこからどう見ても極貧の村娘だが、その青い髪と透き通るような美貌、そして何より彼女の放つ『歌声』には、行き交う村人たちの足を止めさせる不思議な魅力があった。

 シーラン国の人魚姫にして、地下アイドル・リーザ。

 彼女がマイク代わりに握りしめた大根を振るい、満面の笑みで歌い踊るたび、聴衆の心に不思議な活力が満ちていく。農作業の疲労が抜け、明日への活力が湧いてくるのだ。

 彼女の奥底に眠る強欲と純真が反転した力――【Love & Money】の片鱗である。

(……すげえな、あいつ)

 広場の隅で、コンビニのコーヒーカップを片手にその様子を眺めていた丸川光雄は、感嘆の息を漏らした。

 つい先日、「私が運命になって、全てを奪って宇宙一幸せにする」とアイドルの狂気を語っていた少女の姿がそこにあった。

 どんなにみすぼらしい格好でも、どんなに安っぽいステージ(みかん箱)でも、彼女が本気で歌えばそこは彼女の独壇場(ライブ会場)になる。

 光雄は商社マンとしてのロジックで、「あれは間違いなく化ける。投資スポンサードのしがいがある」と確信を深めていた。

 パラパラと、村人たちから拍手が湧き起こる。

 そして、リーザの足元に置かれた空き缶に、チャリン、と数枚の銅貨や真鍮の五円玉が投げ入れられた。

「ありがとうございますの! 皆様の熱いスパチャ(御縁)、確かに受け取りましたわーっ!」

 リーザが深くお辞儀をした、その時だった。

「うるせぇな! こんなド田舎の村で、何がアイドル気取りだ!」

 ドンッ! という鈍い音と共に、耳障りな怒声が広場の空気を切り裂いた。

 人混みを乱暴に掻き分けて現れたのは、三人の薄汚い男たちだった。装備からして、三国間の緩衝地帯をうろつく質の悪い傭兵か、野盗の類だろう。

「なんだその薄汚いジャージは! 乞食が歌ってんじゃねえよ、目障りなんだよ!」

 先頭に立っていた脂ぎった髪の男が、下劣な笑みを浮かべながら、リーザが立っていた『みかん箱』を思い切り蹴り飛ばした。

「きゃあっ!?」

 足場を失ったリーザは、無防備に空中に投げ出され、固い土の地面へと無様に転げ落ちた。

 バキィッ、という音を立てて、彼女のたった一つの大切なステージであった木箱が粉々に砕け散る。

 それだけではない。集まった大切な五円玉や銅貨が入った空き缶が弾け飛び、土埃の中に小銭が散乱してしまった。

「ああっ……! 私のお賽銭……私の、ステージが……っ!」

 膝を擦りむきながら、必死に土の中の五円玉を拾い集めようとするリーザ。

 しかし、男はその手に容赦なく汚いブーツを振り下ろそうとした。

「邪魔だって言ってんだよ、ゴミがっ!」

 男のブーツが、リーザの細い指を踏み砕こうと迫る。

 リーザはギュッと目を瞑り、体をすくませた。

 ――しかし、その痛みが彼女を襲うことはなかった。

「……おい」

 地獄の底から響くような、低く冷たい声。

 男がハッとして横を向いた瞬間、彼の視界は、ワイシャツの袖をまくり上げた大男の『分厚い胸板』で完全に塞がれていた。

「あぁん? なんだてめぇ……グガァッ!?」

 男が言葉を発し終えるより早く、光雄は踏み込んでいた。

 巨体からは想像もつかない、ゼロからトップスピードへ到達する爆発的な加速。ラグビー仕込みのステップで男の懐へ完全に潜り込む。

「【低空刺突タックル】」

 ドゴォォォォンッ!!

 闘気オーラによって鋼鉄の質量と化した光雄の右肩が、男の鳩尾みぞおちへ正確無比に突き刺さった。

 巨漢の傭兵の身体が「く」の字に折れ曲がり、足が完全に宙に浮く。そのまま光雄の突進力によって数メートル後方へ吹き飛ばされ、広場の木箱の山に激突して白目を剥いて沈黙した。

「なっ……!?」

「あ、兄貴が一撃で……!?」

 残された二人のチンピラが、顔面を蒼白にして後ずさる。

 光雄はゆっくりと立ち上がり、ネクタイを少し緩めながら、首の骨をポキポキと鳴らした。

 その瞳には、社畜時代に培った冷徹な合理主義と、理不尽を絶対に許さないラガーマンとしての静かな怒りが同居していた。

「……営業妨害だぞ、三流チンピラ」

「ひぃっ……!」

「そのアイドルには、俺っていう『スポンサー』がついてるんだ。俺が投資した夢を、土足で踏みにじるのは許せねえな」

 光雄は一歩、チンピラたちに向かって歩み寄った。それだけで、彼らには巨大な肉食獣が迫ってくるような圧倒的なプレッシャーがのしかかる。

「次、彼女のステージの半径十メートル以内に近づいてみろ。……お前らの関節という関節を、合法的に全部外して回るぞ」

 光雄の凄絶な殺気マリーシアを叩きつけられ、二人の男は腰を抜かしそうになりながら、気絶したリーダーを引きずり起こした。

「お、お、覚えてろよぉぉぉっ!!」

 三流悪党のテンプレのような捨て台詞を吐きながら、彼らは脱兎のごとく村の出口へと逃げ去っていった。

 広場に静寂が戻る。村人たちはぽかんと光雄の圧倒的な暴力……いや、制圧劇を見つめていた。

 光雄は短く息を吐くと、土にまみれて座り込んでいるリーザの前でしゃがみ込んだ。

「怪我はないか、リーザ」

「ミツオ様……」

 リーザの両手には、泥だらけになった真鍮の五円玉がしっかりと握りしめられていた。

 しかし、彼女の視線は、無残に砕け散った『みかん箱』の残骸へと向けられていた。

「私の……ステージが……。みんなが笑ってくれていた、私の大切な場所が……っ」

 ポロポロと、彼女の大きな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。

 たかがみかん箱。されど、それは彼女がアイドルとして生きるための、誇り高き城だったのだ。

 光雄は何も言わず、大きな掌でリーザの頭をポンッと撫でた。

「あんな脆いみかん箱、最初からお前のステージには狭すぎたんだよ」

「え……?」

「泣くな。俺がスポンサーだって言っただろ。次は、あんな三下チンピラが蹴ったくらいじゃビクともしない、頑丈で立派なステージを俺が用意してやる。それに……お前にはもっとデカい場所が似合う」

 光雄の力強く、揺るぎない言葉。

 それは、彼女の夢を誰よりも肯定し、絶対に守り抜くという『責任』の証だった。

 リーザの唇が、わなわなと震えた。

 極貧生活の中で、ずっと一人で戦ってきた彼女の心に、絶対的な安心感が津波のように押し寄せる。

「ミ……」

「ん?」

「ミツオ様ぁぁぁぁっ♡!!」

 リーザは手の中の五円玉を放り出し、光雄の首に思い切りしがみついた。

 芋ジャージの泥も構わず、光雄のワイシャツの胸元に顔を埋め、子供のように声を上げてワンワンと泣きじゃくる。

「うわあああんっ! ミツオ様ぁ、ミツオ様ぁっ! 一生、一生ついていきますのぉぉっ!」

「おいおい、鼻水つけんなって。ワイシャツのクリーニング代、時給から引くからな」

 口では冷たいことを言いながらも、光雄は彼女を引き剥がすことはしなかった。

 細く震える彼女の背中を、不器用な手つきでポンポンと優しく叩き続ける。

(……やれやれ。これで完全に、後戻りできなくなったな)

 村人たちの生温かい視線を一身に浴びながら、光雄は小さく苦笑した。

 合理的に考えれば、アイドルへの投資スポンサードなどリスクの塊でしかない。

 だが、自分の胸で泣きじゃくるこの少女を、宇宙一のアイドルにしてやりたいという想いは、彼の中で確かな熱を帯び始めていたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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