EP 5
異世界初の【コンビニ】オープン! 極貧アイドルとウサ耳村長のアルバイト面接
異世界転生、二日目の朝。
丸川光雄はポポロ・コーポの自室で目を覚ますと、淹れたてのコーヒーを啜りながら本日の事業計画を練っていた。
「寝床の確保は完了した。次は、持続可能なキャッシュフローの構築と、安全な拠点の設立だ」
商社マンにとって、事業の立ち上げはスピードが命である。
光雄は手早く身支度を整え、ワイシャツの袖をまくり上げると、村の端にある広めの空き地へと向かった。
ポポロ村の朝は早い。すでに畑では農家たちが働き始めているが、この空き地周辺にはまだ人影はなかった。
「ここなら申し分ない。広さも、立地(導線)も完璧だ」
光雄は空き地の中央に立ち、大きく深呼吸をした。
そして、自身の内にあるユニークスキル【コンビニ】の深淵——単なる物資召喚に留まらない、領域展開とも呼べる『インフラ召喚機能』を起動する。
「【領域展開:店舗召喚】」
光雄の足元から、幾何学的な光のラインが地面を這うように広がっていく。
ズズズズッ、という低い地鳴りと共に、空間が歪み、再構築されていく。
数秒後。朝靄が晴れた空き地に現れたのは、煌々とLEDの明かりを放つ、現代日本の『24時間営業標準モデルのコンビニエンスストア』だった。
ウィーン。
『♪テロリロリ・ローリ、テロリロリ・ロー』
光雄が一歩近づくと、絶対防犯仕様のガラスで覆われた自動ドアが、あの親しみ深い入店音と共に滑らかに開いた。
店内は完璧に空調が効いた24度。整然と並ぶ商品棚、ピカピカに磨かれた床、そしてレジ奥にはホットスナックの保温ケースとコーヒーマシンが鎮座している。
「よし、正常稼働だな。ロジスティクスも完璧だ」
光雄が満足げに店内を見渡していると、店舗のガラス窓に『ベチャッ』と何かが張り付く音がした。
「……ん?」
見れば、ガラスの向こう側から、エンジ色の芋ジャージを着た青髪の少女——リーザが、鼻の頭をガラスに押し付けて中を凝視していた。その目は血走り、口元からは滝のようにヨダレが流れている。
光雄が自動ドアを開けてやると、リーザは這うようにして店内へ滑り込んできた。
「み、ミツオ様ぁ……! な、なんですかこの、神の蔵(宝物庫)は……っ!?」
「神の蔵じゃない。俺のユニークスキルで建てた店舗だ」
「店舗……? こ、こんなに食べ物が溢れているのに、誰も警備の兵士がいないなんて……! ああっ、あそこには昨日頂いた『からあげ』の親戚みたいな子たちが並んでますのぉ!」
レジ横のホットスナックケース(フライドチキンやアメリカンドッグが陳列されている)に張り付き、拝むように手を合わせるリーザ。
「そこ動くなよ! 不審者が出たって通報があったの!」
リーザがホットスナックに祈りを捧げていると、今度は入り口から怒声が飛んできた。
振り返ると、ポポロ村の村長であるキャルルが、両手にいかついダブルトンファーを構え、特注の安全靴を鳴らして駆け込んでくるところだった。
「……キャルルさんか。早いな」
「ミツオさん!? あなた、こんな朝早くから一体何を……って、えええええっ!?」
臨戦態勢だったキャルルの兎耳が、驚愕でピンと直立した。
彼女は元・近衛騎士隊長候補だ。だからこそ、この建造物の『異常さ』を一瞬で見抜いた。
「な、なんですかこの建物……! 壁は未知の素材で一切の魔力を通さないし、この透明な板には、竜のブレスすら弾き返すほどの超高密度の防護結界が張られている……! それに、中に入った瞬間、心が異常なほど落ち着く(イートインの精神安定バフ)……! 大陸全土を探しても、こんな恐ろしい要塞はありませんよ!?」
「要塞じゃない。コンビニだ」
光雄は冷静にツッコミを入れた。
キャルルは光雄に歩み寄り、至近距離から彼を見上げる。彼女の特技である『心音による嘘発見』が発動しているらしい。数秒後、彼女はトンファーを下ろした。
「……心音に一切の乱れがない。本当に、あなたがこれをポンッと建てたんですね」
「ああ。今後の生活基盤にするつもりだ。村長、この空き地の固定資産税や営業許可については、後できっちり話し合わせてくれ」
「そ、それは構いませんけど……こんな凄い兵站拠点、あなた一人で回すんですか?」
キャルルの指摘はもっともだった。
商品はスキルで自動補充されるが、現地通貨での値段設定、レジ打ち、そして異世界の村人への接客など、光雄一人では完全な24時間営業のシフトは回せない。
「そこでだ、キャルルさん。そしてそこの窓にへばりついてるジャージ」
「はいっ!?(ビクッ)」「はいですの!(ビクッ)」
光雄の声に、二人の少女が背筋を伸ばした。
「俺はこれから、この村の市場調査と価格設定の最適化を行わなきゃならない。だから、この『コンビニ』を運営するための人材を雇用したい」
「えっ、アルバイト……ですか?」
「ああ。時給は銀貨一枚(約千円)。それに加えて、賄いとして店内の弁当や惣菜、廃棄寸前の食品は自由に食べていいという福利厚生をつける」
「——ッッ!!??」
その条件を聞いた瞬間、リーザの目の色が完全に変わった。
彼女にとって、時給などどうでもいい。『廃棄弁当が自由に食える』というパワーワードが、極貧アイドルの生存本能にクリティカルヒットしたのだ。
「やりますの! やらせてくださいませスポンサー様! 私、床舐めでも防衛でも、なんだってやりますの! 廃棄弁当のためなら命だって懸けられますのぉぉっ!」
「床は舐めなくていい。接客と品出しだ。……で、キャルルさんはどうだ? 村長の仕事が忙しいなら無理には頼まないが」
光雄が尋ねると、キャルルは顔を真っ赤にしてモジモジと指を絡ませた。
(……ミツオさんの拠点で一緒に働く……。それに、この得体の知れない女とミツオさんを二人きりにさせるわけにはいかないわ。私がしっかり見張って、虫がつかないようにしないと……!)
持ち前のヤンデレ気質と責任感が交差した結果、キャルルはビシッと敬礼した。
「や、やります! 村の仕事の合間を縫って、私がこの拠点のシフトに入ります! ミツオさんの力になりたいですから!」
「助かる。現地の相場や金銭感覚が分かる人間が欲しかったんだ」
光雄は満足げに頷くと、バックヤードから二着の『制服』を取り出してきた。
緑と青と白のストライプが入った、お馴染みのコンビニのユニフォームである。
「これを着てくれ。今日からお前たちは、栄えある異世界コンビニ第一号店のスタッフだ」
数分後。
エンジ色の芋ジャージの上に制服を羽織り、「廃棄弁当!廃棄弁当!」と謎のダンスを踊るリーザと。
現代風のパーカーの上に制服を重ね着し、胸元の名札を恥ずかしそうに撫でる兎耳のキャルルが、レジカウンターに並んで立った。
「よし、悪くない」
光雄は腕組みをし、完璧に配置されたロジスティクスと人材を見て、商社マンとしての充実感を覚えていた。
かくして、マンルシア大陸最強の緩衝地帯ポポロ村に、竜のブレスすら弾き返し、あらゆる物資を無尽蔵に供給する絶対不可侵の要塞——もとい『コンビニ』が、ひっそりと、しかし確かな産声を上げたのであった。
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